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「そんなら、俺をお前の「婚約者」にしろよ。俺は知っての通り何の才能もない四男だ。継ぐ爵位もなく、自分の力で成り上がる才能もない。立派な婚約者を捕まえない限りお先真っ暗なんだよ」
ヒューイット様は自らを嘲るようにはっと息を吐いた。
私は信じられない思いだった。
「い……」
「ははっ。嫌に決まってるよなぁ、俺なんかと」
「いいんですかぁっ!!?」
「……は?」
私は尊敬のまなざしでヒューイット様をみつめた。
暴言事件のせいでヒューイット様に婚約者ができないことは知っていた。だから、暴言事件を防いでヒューイット様に婚約者ができるように協力しようと思っていたのだが。
私が婚約者になってしまえば、ヒューイット様はそもそも見合いの必要がなくなって、暴言事件が起こらなくなるわ。
それに、婚約者ならヒューイット様のお側にいてもおかしくない。ヒューイット様が困った時にいつでも助けて差し上げられる。恩返しがしやすくなる。
公爵家の後ろ盾ができれば、きっとヒューイット様を悪く言う輩もいなくなるわ!
いいことだらけだ。もちろん、ヒューイット様に本当に好きな相手が現れたら、婚約は白紙に戻してヒューイット様の恋を応援するわ。
なんてこと。こんなにいい方法を思い浮かばなかっただなんて私って馬鹿。
そしてヒューイット様はさすがだわ!
「しましょう! 婚約! 是非是非是非っ!!」
「え……あ……」
「善は急げですわ! 早速お父様とお母様にお許しをいただかなくては!」
「ちょっ、ちょっと待て!!」
ヒューイット様が盛り上がる私を慌てて止めた。
「んなこと無理に決まってるだろう!」
「何故です?」
「俺みたいなのが公爵令嬢と婚約なんかできるかっ!」
一喝されて、私はしゅん、と眉を下げた。
「そうですわよね……私のような者がヒューイット様の婚約者を名乗るだなんておこがましいですわよね……」
「どうしてそうなる!? 違ぇよっ!!」
騒いでいたせいかお母様と侯爵夫人が慌てて駆けつけてきた。
「ステラ様! 申し分けありません。息子が何か粗相を」
侯爵夫人がぎろっとヒューイット様を睨んだ。
「いいえ。違うのです。私とヒューイット様が婚約するという話をしていただけで……」
「「婚約!?」」
お母様と侯爵夫人が声を合わせて叫んだ。
ヒューイット様は少し青ざめた表情で立ち尽くしていた。