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公爵令嬢から下僕になりたいと迫られている。
意味がわからない。
俺は「こんなにも俺のために生きる覚悟があります」という内容の手紙を受け取って、ひたすら困惑していた。
先日のお茶会で出会ったグリーンヒル公爵令嬢。初対面なのに「下僕になりたい」とか言われて訳がわからなかった。
後々冷静に考えれば、やはりあれはからかわれていたということだろう。令嬢同士で、何かそういう度胸試しとか罰ゲーム的なもんだったのかもしれない。
そう思ってどうにか納得していたのだが、本日我が家にグリーンヒル家から手紙が届いた。
父様も母様も大パニックだ。
「お前! グリーンヒル家の令嬢に何をしたんだ!?」
「何をやらかしたの!?」
俺が何かやらかしたと決めつけているが、まあそれは無理もない。その他に公爵令嬢から手紙が来る理由がないからな。しかも、俺宛の手紙の他に父様宛の手紙もあったらしく、俺を疑いながら怖々と開封していた。
俺はといえば、両親にまともに見られたのは随分と久しぶりだと思っていた。
「ううむ……ヒューイット。お前、グリーンヒル家のステラ様が野犬に襲われた際に身を挺してお助けしたらしいな」
「は?」
「手紙にそう書いてある。その礼に茶会に招きたいとも」
「まあ……ヒューイットがそんなことを?」
俺はぱちぱち目を瞬いた。心当たりはまったくない。人違いだろう。
「何かの間違いかもしれんが……グリーンヒル家と繋がりが出来る機会だ。断る手はないだろう」
「そうですわね。ヒューイット! グリーンヒル家で粗相をしたら許しませんよ!」
俺が口を挟む間もなく、両親はグリーンヒル家へ招かれることを決めてしまった。
あの令嬢は何か勘違いしているんだと思うが……
まあいいか。間違えているのはあっちだ。
その後、俺も自分宛の手紙を開いてみて、そのぶっ飛んだ内容に驚いていた訳だ。
手紙と共に贈られてきたのは青紫の花が刺繍されたハンカチだ。もしかして、彼女の施した刺繍だろうか。
令嬢から贈り物をもらったのなんて初めてで、ちょっとどぎまぎする。
人間違いだろうから、これは返した方がいいだろうな。
恩人のために一針一針刺したんだろう。そんだけ想ってもらえる相手が、羨ましくてならなかった。