14. しゅうげきしゃ の しょうたい
よろしくお願いします。
僕達は途中の村で1泊して、翌日の午前中に調査対象の馬車が襲撃された場所に到着した。
道には破壊された馬車がまだそのまま残っている状態。
そしてさらに少し離れた所に、もう1台壊れた荷馬車があるのを見つけた。
聞いた話では襲撃を受けたのは1台ということだったので、どうやら僕達が到着する前にもう1度襲撃が行われたらしい。
「それじゃ、明後日の朝にまたここへ迎えに来やす。昼頃まで待ちやすけど、それで皆さんが来なかったら悪いけどそのまま帰らせてもらいやすんで、よろしくお願いしやす」
と言って御者さんは、馬車を返して来た道を戻って行った。
馬車を見送った後、僕達は地図を広げて位置の確認をする。
調査は来る途中に馬車の中で打ち合わせた通り、まず皆で近くにある廃村跡を調査。
そこに何も無ければ、その場所を拠点に手分けして、可能な限り周辺を探索するという段取りだ。
破壊された2台の荷馬車については、中をざっと確認した後どうやらマジックバッグに入れられる様だったので、僕とユーナのバッグに1台ずつ収納して町に持って帰ることにする。
荷馬車の状態については、依頼受注時に話を聞いていたとおりに粗末な矢が数本突き刺さっているのを確認。
また、中の食料品関係が持ち去られておらずその場で食い荒らされていて、若干ではあるけど金品などが残っている。
そして襲撃を受けたはずの荷馬車の持ち主や、馬の死体などが荷馬車の中にも外にも見当たらないことから、襲撃者はゴブリンかオークなどの人型で武器を扱える魔物である可能性が高いと思われる。
盗賊であれば、殺した相手の死体の片付けなどするわけがない。
おそらく死体は、食料として魔物の住処に持って行かれたのだろう。
荷馬車の中の商品関係などが妙に少ない気がしたけれど、それは多分この道を通った人があさって持って行ったか何かしたんではないだろうか。
これに関してはまあ仕方ない。
被害者はもう死んでるだろうし、今さら追跡調査など出来るわけもなし。
僕達は僕達の仕事をやるだけだ。
地図によれば、目的の廃村跡にはこの街道から道が通っているらしいのだけど、だからといって正直に道をてくてく歩いていたんでは敵に見つけてくれといっているようなもの。
なので僕達は、あえて道を外れて森の中を行くことにする。
「それじゃ、打ち合わせどおりにいきましょう」
「あ、ああ。それは良いんだが、その格好は……」
僕達の姿を見て軽く引いているアークさん他3名。
僕達の格好はというと、要は山や森の中で作戦行動を取る際のいつもの格好。
服のあちこちに、そこらで刈ってきた背の高い草や木の枝などを差し込んでパッと見野人みたいになった服装に、額にはバンダナを巻いて、さらに黒や黄色や緑色のドーランを塗り付けてまだら模様になった顔面。
ちなみにドーランはドーヴを出発する前に、僕がアリサに頼んで買ってきてもらった物だ。
「まあ、そう思うよね……」
「私達も、正直今でも抵抗があるんだ……」
「森の中に隠れた時なんかに見つかり難くするためですね。あと相手が人間だったりした場合は、こんな顔が襲いかかってきたりしたら意表を突けます。皆さんもいかが?」
とアークさん達にドーランを差し出すけど、皆はそろって首を横に振る。
まあ仕方ないか、無理にとは言えない。
実際アリサとユーナも難色を示したけど「見つかってやられるよりはまし」「落とす時は僕の『クリーン』で一発」「どうせ見るのは敵ばっかり」と説得して了承してもらった。
以前のホウロでのオーク集落潜入の経験などもあり、2人共多少思うところはあったらしい。
「それじゃあ出発しましょう。並びは打ち合わせどおりに僕が先頭で良いですか?」
こうして僕達は、1列並びになって山の中へ踏み込んだ。
列の順番は僕が先頭にアークさん、『進撃の聖剣』、ユーナ、最後尾にアリサ。
後ろからは、
「なんだよあの顔、気持ち悪い」
「あいつらの方がゴブリンみたいじゃない」
「なんか滑稽だよね、形振りかまわないって感じでさ」
「いや、こういう森の中で人の肌の色というのは思っている以上に目立つんだ。理にはかなっている」
などという会話が聞こえてくる。
正直面白くないけど仕事中なのでそこはこらえて、僕達は周囲を警戒しながら山の奥へと進んで行った。
ゴブリン。
ランク5級認定の人型モンスター。
大きさは12〜3歳の少年程。
別名「小鬼」とも呼ばれ、黒みがかった茶や緑色の体色の醜悪な姿で、非常に残忍かつ狡猾な性格。
力はそれほど強くはないものの、その動きは俊敏。
軽量のものに限るとはいえ武器の扱いに長け、群れで行動するなどといった特性を持つ。
個々の強さは、素手であればランク7級から6級の駆け出し冒険者や一般人でも倒せる程度。
しかし繁殖力はオークを上回るともいわれ、集団を組んだ場合その危険度は大きく跳ね上がる。
上位種にはホブゴブリン、ゴブリンナイト、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジなど体格が大きく身体能力が高いものや武器や魔法の扱いに特化したものの他、さらに上位としてゴブリンジェネラル、ゴブリンキングなど群れの統率能力を持つものがいる。
太古の昔から幾度も大繁殖を起こして軍団を形成し、人間との衝突を繰り返してきた魔物である。
オーク以上に、発見次第の迅速な討伐が求められている。
そんなゴブリンとの接敵は、わりと早くに現実のものとなった。
事前に決めたこととはいえ、なんでアークさんじゃなくて僕が指示を出してるんだと不満そうなのに加え、隙あらばお喋りを始めようとする『進撃の聖剣』の面々に悩まされながらも、廃村の方角に向かい森の中を進むこと2時間程。
前方になにやら気配を感じた僕達は、そこで一旦足を止めて様子を窺うことにする。
藪の中に隠れて覗いてみると、そこにいたのはゴブリンが10匹程と、側にどうやら仕留めたばかりらしい鹿の死骸。
ゴブリンは全員剣や槍などの粗末な武器で武装していて、鹿の肉を貪り血を啜っている。
そんなゴブリン達の中に他よりも一回り大きく、色黒の身体をしているのが1匹。
あれは上位種、ホブゴブリンという奴だろうか?
僕も見るのは初めてだ。
さてどうしよう。
ここで仕掛けて殲滅するか、それともしばらく様子を見て他に仲間がいないかを探るか。
ホブゴブリンがいるとなると、仕留めるのに多少手間取る可能性がある。
もし他に仲間がいて、手間取っている間に駆けつけてこられたりしたら更に面倒なことになるだろう。
ここはやはりちょっと様子見かな。
そんなことを考えて、打ち合わせのため後ろの皆に合図をしようとしたその瞬間、後ろの列の中程から、がささっと一際大きな音がした。
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