10. たいど の もんだい
よろしくお願いします。
「やっぱり気になるかい?あの態度」
ケイの言葉に僕は頷く。
危険が身近にあるような冒険者という職業であっても、亡くなった人を悼むのは当たり前のことだ。
むしろ死と隣り合わせの状況を生き抜いてきたベテランこそ、そういうのには敏感だったりする。
たとえ猫でも、家族や大切な人が亡くなれば悲しむ気持ちはあるからね。
「うん。さすがに死んだ人に対してあれは……それにもうひとつ気になったんだけど、新人の冒険者が3級の、しかも自分達を指導してくれてるベテランに対して、なんか態度が横柄過ぎない?」
礼儀知らずの類語と言ってもいいようなこの冒険者という職業だけど、じゃあ目上に対する礼儀は全無視でいいのかというと決してそんなことはない。
無闇に畏まる必要がないというだけで、冒険者の間にも当然上下関係や礼儀は求められることはある。
むしろ荒くれ者ぞろいだからこそ、上下関係には一般人よりも厳しかったりすることだってあるのだ。
昔実家で会った傭兵団の人達もそんな感じだった。
彼らの態度ははっきり言って、相手が相手ならそれこそ殴りつけられててもおかしくはないもの。
まあ本人同士がそれで良いというのであれば、基本的には外野が口を出すことではないのだけれど。
……え、猫なら最初から礼儀も何も無いだろって?
いやいやそんなことないぞ、猫だってご飯が欲しい時はちゃんと足をそろえて正座してお願いをする。
そんな僕の言葉に、ケイは頭をかきながら答えた。
「あ~、まあな。アタシらは気にしてないからいいんだけどさ。前々からだし、あれ」
「そうなの?」
「実は前にちょっとギルドでも問題になったことがあるんだよ。アークさんは怒らない人だから、アイツら誰に対してもあの調子でさ。威勢が良いのはいいんだけど、あんな舐めた態度じゃ高ランクの示しがつかないとか、甘やかし過ぎだって声も上がったりしたんだ」
「それは当然だな」と頷くアリサ。
軍隊などでは絶対に許されないことだ。
上官と兵卒の仲が良いのはもちろん良いことなのだけれど、馴れ合いが過ぎていざという時の命令に「俺そんなのやりたくねーよ」なんてのが続出したら、最悪戦の勝敗国の存亡に関わる。
冒険者同士がある程度そういう序列を意識しないで接することが出来るのは、依頼遂行のためには何をすべきかをお互いちゃんと理解している「はず」というのが前提にあるから。
組んだ相手があまりにもミスを連発するなど役に立たなかったりすると、こいつは殺した方が安全という判断がされる場合もあるそうな。
なるべくそういう状況には遭遇したくないものだ。
まあランクが低いからといって必ずしも弱いとは限らないわけだけれども、さて彼らの実力はどんなものなのだろう?
「以前他の高ランク冒険者に、『そんなパーティよりもアークさんと組め』って、パーティメンバーの目の前で引き抜きの話を持ちかけたこともあったそうです。ギルドからも注意はしたみたいなんですが、あまり改善も見られないようで」
「それでよく無事でいられるね。普通だったらとっくに他の冒険者からボコボコにされてそうなもんだけど……ああ、アークさんがいるからか」
ユーナの言葉には、頷いたリヴが答える。
「なんだかね。よっぽど見込んでるのか、他に何かあるのかはわかんないんだけど、他から何か言われてもあの人がかばっちゃうから。アークさんにはなんだかんだ世話になった人も多いから、ギルド全体であんまり強く出られない空気なんだよね」
「そういえば彼らはなんだかアークさんに付いて長いですよね。私達もそうでしたけど大抵は1〜2週間で、長くても1ヶ月くらいで独り立ちしていくんですが、彼らは登録してからもう半年くらいで、その間ずっとアークさんと一緒にいるようで」
首をかしげながら言うシュナ。
半年か。
一応冒険者としては、僕やアリサよりも先輩ということになるんだな。
商人や職人の見習いとかならともかく、冒険者で新人研修半年というのは、さすがにちょっと長いのかもしれない。
アークさんが庇ってくれるからつい居心地が良くなりすぎたとか、そんな感じかな?
まあ何か事情があるにせよ、当事者達がいないところで僕達が話していたところで、特にどうにかなるわけでもなし。
またアークさんと話す機会があったら訊いてみてもいいか、ということで僕達の話はお開きになり、「半月後の支払いを楽しみにね〜」と言って彼女達とは別れた。
僕達も3級に上がったわけだし、同じ3級のアークさんとは今後何かと一緒になることもあるかもしれない。
気には留めておくことにしよう。
さて、この後はちょっと時間も経ったことだし、町周辺の確認と新武器の慣らしも兼ねて採集依頼の簡単なのでもやろうかな。
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