5. しんさく の ぶき
よろしくお願いします。
冒険者ギルドでの騒動から1週間と少し。
あの後運輸ギルドに行って、事情を話して魔獣車の運賃を払った僕達。
その後は装備品の新調やら補充やらと、それぞれの用事を片付けながら日々を過ごしている。
アリサの折れてしまった大剣はキサイギルドマスターから紹介された武器屋に持って行ってみたところ、ある意味当然の話として「こんなの修理とか無理!」と言われてしまった。
元々がそんなに良い剣というわけでもなかった様で、店の人から実力に合った剣への買い換えを勧められたアリサ。
店内にあった閃火玉という、もっと良い金属素材で作られた新しい大剣を買った。
銀色の光沢を持つきれいな刀身で、これまでの質の良くない鉄の剣よりも格段に頑丈。
さらに微弱とはいえ炎の魔力も込められているため、火炎や熱から持ち主を守る働きもするのだそう。
加えてユーナの弓もメンテナンスを頼んだら「どういう使い方したのか知らないけど、負荷がかかりすぎてて折れる寸前!」と言われ、こちらも新調することにした。
以前にユーナが言っていた通り、オブシウスドラゴンの力を弓が受け止めきれていなかったらしい。
新しい弓は店にある最も頑丈な、エルダートレントという魔物の素材で出来た弓を購入。
見かけも手触りも木そのものでちゃんとしなりもあるのだけれど、耐久性は黒曜鋼以上なのだそう。
新しい武器はいずれも2人の体格に合わせての調整を頼んであるので、受け取りは少し先になる。
もちろんのこととして、それまでの武器の一部に使っていたオブシウスドラゴンのタテガミは回収しておいた。
これは今までと同じく新しい武器にも使う予定。
ちなみに僕のククリやボウガンは特に異常は無く、軽い手入れのみで手元に戻ってきた。
まあ、あんまり使ってないしね。
とはいえせっかくなので、店の人にククリを見せてこんな感じのやつで何かないかとねだってみた結果、蛇貫石という深緑色の鉱石でククリを1本作ってもらえることになった。
なんでもどこかの湿地帯の奥の奥にあるヘビの巣の底で採れるとされる希少素材で、鉱石というよりは魔物素材に近い扱いを受けている。
黒曜鋼と比べてしなりがあり、これで作られた剣は相手の鎧や骨を、まるで草むらを這うヘビのようにすり抜けて急所を仕留めるのだそうな。
なんだか最近妙にヘビに縁がある。
まあそんなわけで、他には薬師ギルドや錬金術ギルドで職員を質問攻めにしながら新しい火炎瓶の作成など、武器の補充をしていたら早くも過ぎる1週間。
アリサとユーナの新しい武器も仕上がったことだし、ついでに僕とアリサの3級ギルド証もそろそろ出来る頃かと冒険者ギルドに行ってみることにする。
朝、例によってベッドから出ないアリサの耳元で、軒にぶら下げて雨を止ませる人形の歌の3番目の歌詞をエンドレスで歌って彼女を起こすと、朝食と基礎練習を済ませた僕達は冒険者ギルドへと向かった。
この1週間程、依頼は受けないにしてもちょっと覗く程度にはギルドに顔を出していた僕達。
それで気付いたことなのだけれど、この町以外と高ランク冒険者が少ない。
というのも、冒険者として大きな功績となる強力な魔物や盗賊の討伐依頼というのが、こういう首都やその周辺ではあんまりない。
そもそもこういう大都市では当然、警備隊の規模も大きくなる。
さらにここのような首都やら王都やらともなると、政府の中枢があるということで、近衛などその国の国防軍の最精鋭が置かれることになる。
軍が置かれれば当然、訓練や演習などで町周辺の調査や探索も頻繁に行われ、その際に魔物や盗賊の出現や発見があればさっさと軍が討伐してしまう。
ということで、そうした物騒なものの討伐などは、あまり冒険者にはお鉢が回ってこないということになるわけだ。
じゃあ僕達が遭遇したあのでっかいヘビと恐竜はなんだったんだとも思うのだけど、まああれは例外中の例外ということなんだろう。
実際、あまりないというだけで強力な魔物が発見されたり、魔物の大繁殖が発生したりで大がかりな討伐依頼が出されることもごくたまにあるらしいし。
とはいえ現在は依頼が貼り出された掲示板を見ても、討伐関係はせいぜいが小規模な害獣の駆除依頼程度。
依頼の多くは採集依頼か、輸送馬車や乗り合い馬車、もしくは行商人の護衛依頼などがほとんどだった。
ソランさんという、初回に僕達の対応をしてくれた受付嬢さんにも尋ねてみたりしたのだけど、現在このギルドを拠点にしているフリーの高ランク冒険者は最高でも3級が十名程度なのだそう。
1級や2級もいるにはいるのだけど、皆要人の専属になっていたり依頼で行政府に詰めていたりでギルドに顔を出すことは基本無く、場合によってはそのまま就職して冒険者としては引退してしまうこともあるのだとか。
そんなところに、1級モンスター討伐という大戦果をひっさげて現れた僕達。
箝口令はまだ続いているためおおっぴらにではないものの、ソランさんからは期待の新星という目で見られてしまう。
彼女に「ここには立ち寄っただけであり、用事が片付いたら発つつもり」ということを伝えるのと、伝えた後の彼女のガッカリ顔は非常に心苦しいものがあった。
ギルドに到着した僕達。
受付に近づいていくと、もう僕達の担当みたいになってるソランさんから声をかけられる。
「おはようございます皆さん!」
「おはようございます。前に言ってた新しいギルド証がそろそろかなと思って来ました」
「はい。ただいまギルドマスターに取り次ぎますので少々お待ちください」
ソランさんはそう言って奥へ入って行く。
数分して出て来ると僕達に奥を示した。
「お待たせしました。ギルドマスターがお待ちですので執務室へどうぞ」
彼女に促されて、僕達は以前も通されたギルドマスターの部屋へ向かった。
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