12. たたかい の しまつ
よろしくお願いします。
やっ……た……
僕はへたり込みそうになるのをなんとか堪える。
ここで座り込んだら最後、もう立ち上がれない。
視界がぼんやりと白みがかった感じで、口の中がからからに渇いて喉の奥がくっつきそう。
僕は動かなくなったブラッドレクスに注意を払いながら、マジックバッグから水筒を取り出して水を一口だけ含み、軽くうがいをして飲み込まずに吐き捨てた。
こんな状態で水を一気に飲んだりしたら息が詰まる。
「やった……か?」
「ご……ごめん、確認するからもう少し離れてて」
僕がマジックバッグからボウガンを取り出し、矢を装填し直しているところに疲労困憊のアリサとユーナが歩いて来た。
僕は2人を制し、ククリとボウガンを構えたまま警戒を解かず、慎重にブラッドレクスに近づく。
完全に死んだということを確認するまでは、絶対に油断は出来ない。
少しの間様子を見るけど、先程の戦いで破壊された眼や口の中が再生する気配は無い。
見た感じ呼吸もしておらず、身体の何ヵ所かをククリで刺してみるけど反応は無し。
鱗の部分はさすがにククリが刺さらなかったので、柔らかそうな腹を刺してみたところこちらは刃が通ったものの、僕が見ている前で傷口がみるみるうちに再生。
すわ生きてたかと身構えたけどやっぱり動く様子が無いので、最後の手段として僕のマジックバッグに入れてみたらあっさり収納出来た。
マジックバッグには生きているものは入れられないので、どうやら間違いなく死んだらしい。
その瞬間、勝ったという達成感と、助かったという安堵がごちゃ混ぜになって押し寄せてきた。
そして僕は声にならないうめき声を上げながら地面に崩れ落ち、そのまま大の字になってしまった。
「もう……大丈夫そうだね」
ユーナとアリサも僕の側に来て、崩れるように地面に座り込む。
2人共身体のあちこちに細かな傷はあるものの、大きな怪我とかはしてなさそうだ。
本当に良かった。
「助かったぞコタロウ。生き残れたのはお前のお陰だ。お前がいなかったら、今頃あの場にいた全員食い殺されていただろう」
そう言いながら、僕の肩を叩いてくるアリサ。
いやいや、この場にいる誰一人欠けていても勝てなかったって……
「私達……倒しちゃったんだね。1級モンスター」
ユーナは遠い目をして言いながら、自分のマジックバッグからポーションと体力回復の薬草を取り出して、僕達に渡してきた。
あのブラッドレクス、身体の表面のダメージは再生してたけど、目玉や口の中には攻撃が通ったし、傷が治る様子も見られなかった。
再生能力があるのは、皮膚の部分だけということなんだろうか。
まあなんにせよ倒せたわけだし、細かいことを考えるのは後で良いか。
町に着いて解体を頼んだ時にでも、詳しい人に訊いてみよう。
「そうだね〜。これギルドに報告したらランク上がるかな?」
「上がるだろうね。どれぐらいかはわからないけど、1級モンスターを仕留めた冒険者が6級7級のままとかあり得ないし」
それもそうか。
じゃあ5級ぐらいじゃなくて飛び級で一気に高ランクという可能性もあるかな?
「それはそうと、これからどうする?車は無くなってしまったが、ここで救助を待つか、ホウロに戻るかドーヴに向かうか」
アリサの言葉を受けて、この後のことを考えてみる。
ガンユさん達はおそらくホウロの冒険者ギルドにブラッドレクスのことを報告して、いずれは調査隊か討伐隊が出されるだろう。
とはいえ、この場に留まってそれらを待つという選択肢は無い。
僕達3人ずたぼろ状態なのだから、少しでも早くどこかの町に入って休息したい。
「ここからだと……どっちが近いかな」
「多分ドーヴの方が近いと思うよ。半分は過ぎたって御者の人言ってたし」
「それじゃ、もう少し休んだらドーヴに向かおうか。今さらホウロに戻るのもなんか気まずいし」
ホウロからはギルドマスターや『白鷹の翼』の制止を振り切って逃げ出してきてしまったので、今さら戻って彼らと顔を会わせるのも気が進まない。
僕の提案に2人とも了解してくれたので、これから首都ドーヴに向かうことにした。
この辺りの魔物はどうやら粗方逃げてしまっている様なので、この先はわりとスムーズに進めるんじゃないかと思う。
ただアリサは剣が折れてしまっているので、何かあった場合は僕とユーナでの対応になるので注意しなければならない。
ポーションを身体に振りかけ、栄養補給の薬草を水で流し込みながら話をしていると次第に体力も回復してきたようなので、僕達は立ち上がって出発の準備を始めた。
ユーナはマジックバッグから予備の矢筒を出して身に付け、僕は戦闘の中で放り投げたロープなどを回収する。
さっきの戦闘でばんばん投げた火炎瓶で、森に火など付いていないかを確認しながら場所を移動。
幸い投げたボトルの火はブラッドレクスが消してくれたというのもあって、山火事の心配などは無さそうだ。
道に残っていたタイタニックアダーの死骸は、ユーナのマジックバッグに収納した。
森の中に飛ばされていたキョウさんの遺体を探し出し、先程ブラッドレクスを落とした穴に入れて、上から軽く落ち葉を被せる。
「落とし穴あり」から「キョウさんのお墓(仮)※魔物討伐完了。僕達はこれからドーヴに向かいます」と書き直した貼り紙を側の木に貼って仮埋葬としておいた。
後始末としてはこんなものか。
ちなみにマジックバッグだけど、鞄の口よりも大きな物が入れられるかどうかは、これもバッグの等級で変わる。
ロホスさんからもらった物は等級が低いので、袋の口以上に大きな物は入れられない。
逆に僕がコモテで買った物やユーナが使っている物は等級が高いので、入れようという意思を持ってバッグの口を対象物に当てるとそのまま収納出来る。
「さてと……ドーヴまで徒歩ならあと1日か2日?こいつら腐ったりしないよね」
「マジックバッグなら大丈夫だよ」
トラの皮は防腐処理して1ヶ月かそこら大丈夫だったけど、生のトカゲとヘビの死骸は長時間持ち歩いたことが無い。
まあワイバーンは数日大丈夫だったし、こいつらも似たようなものか。
「よし、それじゃ行こうか。また変なのが寄ってきてもやだし」
「嫌なことを言うな。そもそもお前、その着ているシャドウタイガーにワイバーンにドラゴンと、強力な魔物に遭遇し過ぎじゃないのか?」
「うう……やっぱりそう思う?日頃の行いが悪いのかなあ」
「そうだよコタ、反省してる?」
「反省してます」
「本当に?」
「心の底から」
「愛してるって10回言いなさい」
「愛してる、愛してる、愛してる、愛してる……もういい?」
「まだ4回!」
こうして僕達は疲れた身体を引きずって、首都ドーヴまでの道をとぼとぼと歩き出すのだった。
◇
「あ、そうだ2人共」
「何?」
「町に着いたらこいつらの素材で2人の服作ろうよ。2人共ブラッドレクスの革で良い?それともどっちかタイタニックアダーのにする?」
「「……」」
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次回、4章エピローグになります。




