8. だいじゃへ の はんげき
よろしくお願いします。
「ガンユさん!!」
一瞬身体を白い光に包まれて、そのまま森の中に落下するガンユさん。
何かと思って辺りを見ると、僧侶のシュナさんが杖を掲げているのが見えた。
防御の魔法か何か、かけてくれたのか。
彼女の前にはケイさんとリヴさんが、震える足で武器を構えて守りに立っている。
追撃のためか、ガンユさんの落ちた方へ向かおうとするタイタニックアダー。
僕はそんな大蛇の頭めがけ、バッグから赤いラインの入ったボトルを取り出し着火して投げ付ける。
中身は油と、街で買った火属性の魔石を砕いたもの。
油に火が付き、その火が魔石に回ると、その火に刺激されて魔石の中の火の魔力が一気に活性化。
魔石は粉末状になっているので、その小さな容量では活性化した魔力を受け止めきれずに、やがて行き場を失った魔力が暴走して……爆発!
轟音と共に大量の炎が溢れ出し、タイタニックアダーの頭部が燃え上がった。
でも直撃はしたものの、この蛇の硬いウロコにはあまりダメージはない様子だ。
とはいえ顔面が火に包まれているのは嫌みたいで、のたうち回って火を消そうとしている。
僕はその隙に大蛇の後方に駆け寄って尾を捕まえて、ガンユさんの刺した剣の傷痕にククリを突き立てた。
そのままククリをかき回して傷口をこじ開ける。
広げた傷口に着火した赤ボトルを叩きつけて飛び退くと同時に爆発が起こり、尾が火に包まれた。
でもこれも多少皮膚が抉れはしたものの、尾がちぎれるまでにはいかない。
致命傷というには程遠い。
僕の持つ最大威力の武器でも駄目か。
さっき口に投げ込んだ緑ボトルの毒も効いてる様子が無い。
毒が効かないということはこいつ、もしかして毒ヘビ?
てことは、牙にかすりでもしたらアウトと考えた方が良さそう。
速くて硬くて強くて毒持ちとは、ますます反則だ。
他に何か手は?
蛇を仕留めるのには頭を潰すのがセオリー。
でもあんなの相手にどうやって?
重戦士のキョウさんが真っ先にやられたのは痛かったな。
今ここにアリサとユーナがいてくれれば……!
ぐるぐると考えを回らせながら、僕は森の中から「ええい、クソ!」と悪態を吐きながら出てきたガンユさんの元へ駆け寄る。
「ガンユさん大丈夫ですか!?」
「ああ、あいつらの防御魔法のおかげで……とはいえ、この状況じゃ、あまり大丈夫じゃないな」
僕達は話しながら急いでケイさん達と合流。
「すまんな、助かった!」
「い、今の内に早く逃げないと!」
震え声を上げる彼女達。
逃げるといってもな……!
「今さらですけど最初に逃げとけば良かったですかね」
「逃げて逃がしてくれるような奴だと思うか?」
「思いません」
逃げるなんて言ったけど、別に本気で言ったわけじゃない。
それに一体何処に逃げるというのか。
ホウロに戻るにしてもドーヴへ向かうにしても、徒歩ではまだまだかかる道程。
あいつが諦めない限りは、先にこちらの体力が尽きて追いつかれるだろう。
「あんた達魔獣車に乗って来たんでしょ?それに乗って逃げれば……」
「高ランクモンスターを連れて町へ行くのか?たとえ奴からは助かっても、今度は警備隊に逮捕どころか下手したら死刑だ」
国や地域にもよるのだけど、魔物の群れや強力な魔物を町へ誘導するというのは、故意過失関係無しに重い罪となっていることが多い。
そういや前にも似たようなことがあったな。
ラヌルの町でのシャドウタイガーの時は、町に誘導したのは盗賊だったからどのみち死刑になっただろうけど。
「も、森に隠れてやり過ごすとか……」
「多分無駄です」
シュナさんの案には僕が答える。
ヘビは決して獲物を見逃さない。
どれだけ上手に隠れてるつもりでも、ぴたりと相手を見つけ出す。
前世のテレビで言っていた話によれば、なんでも生き物の身体の温かさを感知出来るらしい。
凄い能力だ。
とにかく今言えるのは、こいつ相手に隠れても無駄ということ。
逃げる手も隠れる手も使えない。
と、ガンユさんが何か思いついた顔で僕を見た。
「お前さっき何か爆発するやつを投げてたが、あれはまだあるのか?」
「あと2本。でもさっきやりましたが体表に当てても効きません。口の中に投げ込めれば、あるいは」
「それでいこう。俺達が奴の注意を引き付けて、お前が隙をみて口にその爆発物を叩き込む。お前らも、キツいとは思うがそれで良いな?」
ガンユさんから向けられた言葉に、リヴさんは頬をばしばしと叩いて自分を奮い立たせる。
「良いも何も、他に無いんでしょ?やるわよ!シュナ、あんた後ろに下がって防御魔法と身体強化で援護して!」
「は、はい!」
「キョウの敵討ちだ。やってやるよ!」
ガクガクと震えながらも気丈に杖を構えるシュナさんと、自分の太ももを殴り付けて足の震えを押さえつけるケイさんの姿にガンユさんが頷く。
僕達の作戦が決まるのとほぼ同じくして、頭の火を消し止めたタイタニックアダーがゆっくりと鎌首をもたげる。
無機質な眼がこちらを睨み付ける。
身構える僕達に、タイタニックアダーがその大顎を広げて襲いかかろうとしたその瞬間、僕達の後方から空気を切り裂いて飛んできた矢が大蛇の顔面を貫いた。
尋常ではない威力の矢を顔に受けて仰け反るタイタニックアダーと、何が起こったのかと呆気に取られる僕達。
振り向くとその先には、山道をこちらに向かって走って来るアリサとユーナの姿があった。
「「コタロウ!!」」
「アリサ!ユーナ!なんでここに!?」
「さっきの合図と魔物の群れとあったから気になって来てみたら、なんてもの相手にしてるのさ!!」
「いきなり出てきたんだって!」
「まったく、お前といると気が抜けないな!」
「ごめんなさい!」
文句を言いながらも2人は駆け寄って来て、僕の横で武器を構える。
その視線の先で、一瞬倒れていたタイタニックアダーが再びゆっくりと頭を起こした。
ユーナの矢は頭部に命中したものの、致命傷というまでには至らなかったようだ。
とはいえ今度はこちらには重戦士のアリサと、高威力の遠距離攻撃の出来るユーナがいる。
こういう時には改めて実感することだけど、なんて頼もしい。
というわけで僕は敵の情報を素早く2人に説明し、
「作戦変更。僕達があれの撹乱と牽制。隙を狙ってアリサが叩き斬るか、僕が口の中にボトル。どうかな?」
「「異議無し」」
とアリサユーナ。
「ああ、それで良い」
とガンユさん。
『斬羽ガラス』の人達はガクガクと頷き、僕の提案に皆が了承。
油断は出来ないけど、それでもこの2人がいるなら……!
相手を見据えながら、僕達は山道に軽く散開する。
そんな僕達を睨みつけながら、巻いたとぐろに力を込めるタイタニックアダー。
そして大蛇が溜めた力を一気に解放して、僕達に飛びかかろうとしたその瞬間、不意にその巨大な頭がぐしゃりと潰れた。
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。
ヘビの体温感知能力である『ピット器官』は持っていないヘビもいるのですが、コタロウは例によってのテレビ知識で全てのヘビが持っているものと思い込んでいます。
ちなみにこの『ピット器官』を、人間の科学技術で再現したものが『サーモグラフィー』になります。
コタロウのボトルキープシリーズ
No.1:赤ボトル
赤い塗料でラインの入った火炎瓶。中身は油と、火属性の魔石を砕いたもの。炎を伴った爆発が発生。イメージは前世の戦争映画で見た手榴弾。
コモテの門前で試し撃ちをしていたら、通行人に通報されて衛兵とアリサに叱られたのがこのボトル。




