3. ぜんぽう の いへん
よろしくお願いします。
異変の調査のために魔獣車を離れ、道を少し進んだところで、僕とガンユさんは道を逸れて森の中に入る。
前方で何が起きているのかはまだわからないけど、このまま道を歩いていても目立つだけ。
魔獣車の御者さんが言った通りに強力な魔物がいたとしたら、良い具合の標的になってしまう。
道よりも歩き難いのは仕方ない。
僕達2人は周囲を警戒しながら茂みをかき分け進む。
少し行ったところで、歩きながらガンユさんが尋ねてきた。
「あんた、コタロウだったか?冒険者と聞いてるが、今さらになっちまったがランクを教えてくれるか」
特に隠すことでもないので僕が「6級です」と答えると、さすがに彼も驚いた様子。
「6級って……大丈夫なのか?まあ確かに新人にしちゃ動きがこなれてるし、大層なモンも着てるみたいだが」
何でもガンユさん、僕達が乗り込んできた時から、僕の着ているシャドウタイガーのジャケットが気になっていたのだそう。
流石は3級のベテラン冒険者、ランクだけじゃなくて見てるところが違う。
「荒事の経験はそれなりにあるつもりですけど、登録してまだ間もないっていうのと、旅をしていてあまりひとつ所に長く留まるってことがないもので」
「あ~なるほど。そりゃランクも上がらんわな」
冒険者ランクの昇級は、あくまでも認定された強さに加え、依頼の難易度や達成数など滞在している町のギルドへの貢献の度合いで決められるもの。
僕達のように町から町への旅生活をしていると、新しい所では常に新入生扱いからのスタートになるので、なかなか昇級の対象にはなり難いのだ。
月1回の昇級試験については、今のところ予定が合わず受けられていない。
「まあそういうことなら多少は当てにさせてもらうぜ。それなりの修羅場は潜ってんだろ?さっきも森の中で何やら仕込んでたみたいだったしな」
「あればあったで何も無いよりマシかなって」
実は先程アリサとユーナと3人で、森の中にちょっとした罠を仕掛けておいたのだ。
別に大したものではないけど何か役に立つこともあるかもしれないし、警戒の範囲をある程度絞れるというのもある。
何もなければ出発前に撤去すれば良いだけの話。
ガンユさんはきちんと周囲の警戒をしながらも、小声で話しを続ける。
「それで、お前さんはこの先の危険のこと、どう思う?」
「今はまだなんとも……ただまあなんだかこの辺、魔物や獣の気配があまりしないなってのはありますかね」
そう。
車を降りて改めて気づいたことだけど、森の中がやけに静か。
小型の魔物や小動物の気配すらない。
こういう状況で思い出すのが、コモテの町近郊の森でのオブシウスドラゴンの一件。
森の中に生き物の気配が何も無く見事にすっからかんになっていて、その原因というのが、森に現れた上位竜という脅威から周辺の生物がまとめて逃げ出していたせいだったというもの。
ただ今回は静かといってもあの時程ではない。
鳥や虫などは普通にいるのだ。
ただしなんだか怯えて縮こまっているような様子。
そしてそれ以外の魔物や獣がまるで見当たらない。
更には先程から前方に感じていた違和感が、前に進むにつれて大きくなってきているのを感じる。
ガンユさんは「確かに静かすぎるな。普通は道を外れりゃ小物の1匹くらい見かけてもおかしくないんだが」と呟きながら周囲を見渡している。
「この先の地形はどうなってるんですか?」
「昔の河の跡地に出る。かなりデカい河だったようだが、今は水が枯れててただの荒れ地だ。道を横切る形になってて十字路みたいに見えるが、横に曲がって進んでも何も無い。そのまま真っ直ぐ進めば問題はねえんだが、たまに道を間違えて迷う奴が出るらしいな」
「なるほど……じゃあもしかしたらその辺りでしょうかね。ちょっと騒がしい感じの音が聞こえてきました」
それは地面を伝うようにして、前方から聞こえてきた音。
たった今微かに聞こえ始めたところなのだけど、おそらくは大量の獣か何かの足音。
「そんな音がするか?俺には聞こえねえが……」
「耳は良い方なので」
前に進むにつれて、僕の猫聴力がはっきりとその騒音を捉え出す。
その中に人間のものが紛れているかはまだ分からないけど、ただなんとなく血の臭いも流れてきているような気がする。
ガンユさんににそれを伝えて更に前進すると、やがて音の中に人間の怒声と獣の鳴き声、それから金属の擦れ合う音が聞こえてきた。
ここまでくるとガンユさんの耳にもその音が届き出したようで、彼も前方への警戒を強め、いつでも武器を抜けるように備えている。
加えて先程から僕の鼻に届くようになった、前方から流れてきている血の臭い。
おそらくは……
「多分、この先で戦いが起こってます」
「ああ、そんな空気がするな」
これが先程からの違和感の正体なんだろうか。
僕達は声を潜め、周囲の警戒を強めてゆっくりと進む。
そして先程ガンユさんが言っていた河の跡地の少し手前で、それは突然襲いかかってきた。
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