1. はじめて の ふうふげんか
よろしくお願いします。
ホウロの町でなんとかかんとかやっとのことで、首都ドーヴまでの足を掴まえられた僕達。
そして現在僕達は、やっと乗ることが出来た車の上で……絶賛大喧嘩中だった。
「魔獣車なんだったらそうだって一言あってもよかったじゃないか!高いんだからさ!」
「ちゃんと乗れたし早く着くんだから良いでしょ!?また延々待つよりマシだよ!」
と普通の馬車よりは大分広い車内で、同乗者の人達が隅に退避する中声を張り上げる僕とユーナ。
実は彼女が空きを見つけてきた、首都ドーヴ行きの乗り合い馬車。
追い付いて乗り込んでからよく見てみると、車を引いているのはなんと馬ではなく、コクルージアンという魔獣。
そうこの車、馬車ではなく魔獣車だったのだ。
コクルージアンというのは、大きな馬に似た魔獣だけど脚には蹄ではなくて爪が生えており、こうした山道や足場の悪い所を走るのに長けている。
敵が来た時などは脚の爪を使って戦ったりもするらしい。
魔獣は総じて馬よりも頑丈で体力があり、馬車よりもはるかに早く目的地まで移動が出来るということで、魔獣車は馬車でいうなら高級ランク。
その気になる金額は、首都ドーヴまで1人につき金貨1枚。
まあワイバーンやシャドウタイガー素材売却のお金がまだ残っているので懐具合には多少余裕があるし、ホウロの町まで人を送ってきた戻り車だということで、3人で金貨2枚と銀貨7枚にまけてもらったとはいえ、それでも大きな出費なのに変わりは無い。
そんなわけで、
「ぶつよコタ!……ぁ痛たっ」
「フシャーッ!……ぁ痛てっ」
「止めんかアホ共!!」
遂には威嚇の応酬を始めたユーナと僕の脳天に、アリサが拳骨を落として黙らせる。
頭を押さえて涙目の僕達に、彼女は腕を組んで苦々しい顔で告げた。
「まあこのことは確認しなかった私も含めて、3人にそれぞれ落ち度がある。まずはお互いに謝れ。それから私が奢るから、ドーヴに着いたら何か美味いものでも食べに行こう。それで機嫌を直して、この話は終わりだ」
彼女の言葉に僕はそっぽを向く。
「ふんだ。そんな食べ物なんかで釣られると思ったら大間違い……」
「魚料理にするか」
「ユーナ!アリサ!今回のことはちゃんと確認しなかった僕が全面的に悪かった!ごめんなさい!この通り!」
「う、うん……なんか、私もごめんね?」
即座に土下座を始めた僕に、若干引きながらも頷くユーナ。
なんとでも言うがいい、魚はこの世のあらゆることにおいて優先されるのだ。
そんな僕を呆れ顔で一瞥して、アリサは席に戻り始めた他の乗客達に頭を下げた。
その横に正座しながら並んで僕とユーナも謝罪する。
「騒ぎ立てて申し訳ない」
「「すみませんでした」」
「ハッハッハ。いやいや、仲が良くて結構ですなあ」
そんな僕達に、笑い声を上げながら席に戻る同乗者の人達。
現在この魔獣車に僕達以外で乗っているのは、首都ドーヴからホウロの町に商談に来た帰りだという商人と、その部下が1人。
そして彼が雇った護衛の傭兵が1人。
それから運輸ギルドが雇った護衛の冒険者が、車内に1人と御者台に1人。
あとはコクルージアンの手綱を取る御者の人。
護衛が少ないと思うかもしれないけど、魔獣車の場合はあまり大勢人がいても車のスピードに付いてこれなかったりするのと、いざという時は車を引く魔獣も強力な戦力として数えることが出来るので、余程危険な地域を通るのでもない限りはこんなものなんだそうな。
ドーヴまでは馬車なら2日の道程だけど、この魔獣車なら今日の夕方頃には着くらしい。
車は広く舗装された街道を快調に進んで行く。
天気も良くてのどかな雰囲気なので、また外の景色を眺めながら歌ってみることに。
車はまだ山の中を走っているので、山の上でアルペンとかいう踊りを踊る歌を歌う。
30番くらいまであるんだよなこの歌。
山の上でテント張って焚き火でお湯沸かして星を眺めながらカップラーメン食べるとか、なんだか無性に美味しそう。
カップラーメンがどんな味なのかは知らないけれど。
それにしてもこの歌の「いちまんじゃく」って何だろう。
巻き尺1万個分てことだろうか。
それぐらい大きな山ってことなのかな。
首都ドーヴまではまだしばらく山道が続くらしい。
山道ということで徒歩での移動を敬遠していた僕達だけど、見た感じ道幅も広く、路面もよく整地されているようで、乗っている車も山道を走っているとは思えないくらい揺れが少ない。
これだったら、別に歩いてドーヴに向かっても良かったのかもしれないな。
まあ歩けば疲れるから、車に乗れればそれに越したことはないんだけど。
車を引くコクルージアンは馬のように頻繁に休憩を取る必要もなく、トイレや食事などでの途中停車以外はこのままドーヴまで直行なのだそうで、僕達も一応冒険者として周囲に注意を払う以外は特にすることもない。
そんな感じで同乗者の人達と話をしながら、山道を走る車に揺られていた僕達。
途中で一旦車を止めて火を焚いて、皆でパンと炙り肉と果物の昼食を摂る。
こちらの世界の果物は総じて酸味が強く、青臭い傾向があるけど美味しい。
僕は前世の果物の味とか知らないのだけれど。
休憩を終えてまた走り出して少しした頃、僕がふと車の進行方向先に何かを感じたのと、車を引いていたコクルージアンが足を止めたのはほぼ同時のことだった。
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