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6. やまのなか の ひがいしゃ

よろしくお願いします。


僕は腰の剣を抜いて彼に突き付ける。



「そこで止まれ!」



ビクッとして立ち止まる男性。


年齢は多分30歳半ばくらい。


見ると肩に矢が1本突き刺さっている。


服は所々破れて身体のあちこちに切り傷、そして新しい血の臭い。


見た感じ武器は持ってない。



「あなたは誰?そして僕に何の用?」


誰何する僕に、彼は血と涙でぐちゃぐちゃの顔で答えた。


「わ、私はロホスといって、商人です。さっき、この先でと、盗賊に襲われて……つ、妻と娘が連れていかれて……お、お願いします助けて下さい!お礼はなんでもします!」


懇願する彼に僕は剣を向けたまま、


「襲われた場所まで案内を」


と告げる。




怪我人相手に鬼の所業、なんて言ってる人は誰ですか。


その怪我人のふりをした盗賊だったらどうするの。


真っ当に働くのが嫌で、人殺ししてでも人様からお金を奪おうって連中だよ?


騙し誤魔化し泣き落とし、ほだされて油断したところでブスリザクリ、何だってやってくるよ。


彼は実際に盗賊に襲われた被害者でほぼ間違いないんだろうけど、まだそれを装った追い剥ぎの可能性も無いわけじゃない。


もう少し用心する必要がある。



それにしても盗賊か。


こんな所にもいるんだな。




数時間前にここの方角から来てすれ違った商隊に、特に変わった様子は無かった。


護衛込みで30人程の商隊だったけど、そうした大きな集団には手を出せない、割と小規模な山賊か何か?


それともこの状況が、通りかかった獲物を油断させるための狂言か。




剣を突きつけられた彼は慌てて「こ、こっちです」と歩き出した。


出来るだけ気付かれないように静かにボウガンに矢を装填し、いつでも撃てるように彼と周囲を警戒しながら、ふらふらと歩く彼の後ろをついていく。



少し行くと、道が少しカーブした所で街道脇の森に馬車が突っ込んでいるのが見つかった。


周囲の道全体には箱や木切れや野菜くず、瓶や布などが散乱している。



馬車は……多少幌が破れたりして傷付いてるけど、本格的に壊れてはいないし車輪も無事。


馬はいない。


逃げたか連れていかれたか。


木箱なんかもまだ中身が入ったままっぽい。


まさに襲撃直後って感じか。




ここまでくれば、さすがにこれは本物だろう。


武装してるとはいえ、盗賊が旅人1人を油断させるために組むセットとしては、いくらなんでも大がかり。


まさか相手が1人や2人なんてことはないだろうけど、それなりの人数がいるのなら、普通はもう既に数にまかせて襲ってきていてもいいはず。


どうやらこれは、彼の言っていることが事実とみていいか。




僕はロホスさんの前に立って頭を下げた。


「剣を向けたりしてごめんなさい、臆病なもので。で、これからなんですけど、さっき僕達が会った辺りまで戻りましょう。詳しい話と、あと傷の手当てもしないと」


「そ、そんな!妻と娘は……」


声を上げる彼に、僕は冷静な声を心がけながら伝える。


「ここは盗賊が、馬車や荷物の回収にまた戻ってくる可能性があります。いつまでもここにいて見つかったら、今度こそ殺されますよ。それからあなたのその肩の矢、放っておいたら命にかかわります」


実際、ロホスさんもここにきて痛みに気付き出したようで、肩を押さえながら顔を歪めている。


「まずはそれを何とかして、襲われた時の詳しい話を聞いて、それからどうするか考えましょう。嫌だというなら、僕は全部見なかったことにしてここを離れます。下手したらこっちの身が危ないので。言うとおりにしてもらえますか?」



盗賊に襲われたのは災難だし、可哀想だとも思う。


でもだからといって、同情で自分の命までを危険に晒すようなことは出来ない。


酷ではあるけどこういう場合、被害者の言うことをいちいち聞いていたら救助する側が死ぬ。



僕の言葉に、ロホスさんはまだ何か言いたそうではあったけど、やがてそれを飲み込むように頷いた。


良かった、思ったより冷静だ。


僕は、彼に気付かれないようにして剣の柄を握り締めていた手を離した。



この道を今すぐに、冒険者や傭兵や軍隊が通る可能性は低い。


通ったとして、その人達が力を貸してくれる確証も無い。


彼が今頼れるのは、曲がりなりにも話を聞く姿勢を取っている僕だけというわけだ。


また僕としても助けるも助けないも、敵の戦力もどういう連中かもわからない状態では判断のしようがない。



まあそれよりも、まずは傷の手当だ。


僕はロホスさんに許可をもらって、馬車や散乱した荷物の中から水と酒と布と割れ残ったポーションと、ついでに油とロープを回収して2人でその場を離れた。


聞けばロホスさんは、このポーションを商品として運んでいる途中だったのだそうだ。


駄目になっている物が多そうだけど、まだ大丈夫な物もけっこうありそう。


それにしても、盗賊に襲われたにしては随分と色々残っているものだと思ったけど、おそらくは野盗としての生活の中では最高級の戦利品になるであろう『女』を手に入れたことで浮かれていた、というところか。



そこまで確認した僕達は最初に出会った場所に戻り、道脇の藪の中に身を潜めてロホスさんの肩に刺さっていた矢を抜いた。


ロホスさんに布を噛ませて、まずは酒で傷口を洗い、ナイフで傷口を切り開いて鏃を抜き出して再度酒で洗い、最後にポーションをかけて布を巻く。



このポーションというやつ、前世では見かけなかった物だけどこれがやたらと便利。


傷の度合いやポーションの等級にもよるけど、基本傷口にかけるだけで傷が塞がる。


ただし高価。


等級の低いものでも、1本で一般家庭の約1週間分の生活費が飛ぶ。


等級の高いものになると、1本で貴族の屋敷が建つぐらいの価格がするそうな。


さすがにそれほどの物は僕も見たことが無い。


ちなみに飲めるけど味はあまり良くないのと、病気には効かないので基本は傷口にかけて使う。


効果的にも飲むより傷口にかけた方が効きが良いらしい。


「薬は注射より飲むのが良い」なんて言葉を昔どこかで聞いたけど、場合によるってことなんだろう。



ロホスさんが運んでいたポーションは等級の低い物だったので、傷口が塞がるのにある程度時間がかかる。


なので包帯代わりに布を巻いて止血をしておいた。


素人の対応だけどやらないよりはましだろう。




手当が済んでロホスさんも落ち着いたところで、今度は襲われた時の詳しい状況を聞かせてもらう。


敵は何人いたのか?


どのように攻撃されたのか?


武器は何を使っていたか?


ロホスさんはどのようにして助かったのか?


護衛は雇っていたのか?


いたならその護衛はどうしたのか?


盗賊は襲撃の後どの方向へ逃げて行ったか?


首領はいたか?


どんな奴だったか?


あと奥さんと娘さんの名前は?


など。



それに対してロホスさんの回答。


敵の数はわかったのは10人くらい。


矢による突然の襲撃から始まって、その後道の両脇から馬車を包囲。


武器は弓矢に剣、手斧が見えた気がする。


火球などの攻撃魔法が飛んで来ることは無かったと思う。


ロホスさんは最初の襲撃をしのいで、囲みを突破しようと馬車を走らせたところで、肩に矢を受けて御者台から転落。


草むらの中に転げ落ちて、朦朧とする意識の中で奥さんと娘さんの悲鳴が遠ざかっていくのを聞いた。


護衛は雇っていなかった。


好景気で商業ギルドも冒険者ギルドも忙しく、護衛の出来る者で手空きがいなかったこと、納品を急ぎたかったこと、これまでしてきた旅と比べて近距離の移動だったことなどが理由。


はっきり言ってしまえば油断だ。


敵の逃げた方角は前述の理由によりわからない。


まあこれは大人数で森の中を移動した痕跡が残っているはずだから何とかなるだろう。


不慣れな女性2人を連れて森の中を歩けば必ず痕跡は残る。


首領についてはよく分からない。


大声で指示を出している奴がいたのでそいつだろうと思うが、襲撃を受けて余裕が無かったので特徴などはよく覚えていない、とのこと。


これについては、一番偉そうにしてる奴を首領と見るしかないか。


それに今なら、多分容易に当たりをつけられるんじゃないかと思う。


せっかく手に入れた女という戦利品、最初に抱くのは首領と、副首領とかそれに次ぐ者の特権だ。


つまり拐われた女性2人に1番くっついているのが首領と副首領ということ。


そして奥さんの名前はマリーノさん、娘さんの名前はアンナさん。




大体わかった。


あとは実際に偵察して確認するしかない。


そして後もういくつか、ロホスさんに確認しとかなきゃいけないことがある。


僕は彼に向き直って尋ねた。


「ロホスさん、報酬はおいくら?」

お読みいただきありがとうございます。


猫は用心深いのです。


実際「自分が被害者のふりをして相手の油断を誘う」というのも、追い剥ぎの常套手段の1つなのだそうで。



「薬は注射より〜」については、ゴジラ映画が好きな方ならご存知かと思います。


気になる方は訊いてみてください。


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