15. まちから の とうそう
よろしくお願いします。
戦場となった集落から、なんとか無事に逃げ出せた僕達。
スピードは押さえているとはいえ、さすがに山道を走るのは危ないということで、集落からある程度離れたところで馬のスピードを落として、少しゆっくり目の速さで町への道を進む。
帰りの途中で話を聞くと、やっぱり上位種の頭に落ちてきたコウモリはユーナの援護によるものだったらしい。
上位種が僕の入った家に向かって歩いて行くのを見た彼女。
矢で狙えばおそらく殺気で気付かれる。
なんとか敵の注意をそらせないかと考えていたところで、ふと上空にコウモリが数匹飛んでいるのを見つけた。
よしあれだと考えて、非常食として持っていた木の実をぶつけて上位種の上に落としたのだそう。
「あいつの近くにでも落ちてそっちに気が向けば、くらいに思ったんだけど、予想以上に上手くいったね」とユーナは笑っていた。
なんにせよお陰で僕達は助かった。
感謝の一言だ。
ちなみにユーナに訊いたところ、あの上位種はハイオーク。
見た目の通り、通常のオークよりも力も強いし知恵もある。
数体~数十体のオークを率いて群れを作る、ランク3級の強敵。
ただ討伐隊にはランク2級のパーティがいるので、何か不測の事態さえなければ倒すことは出来るだろう、とのことだった。
僕達は助かったという安堵と、オークにされていたことの屈辱と悲哀に泣きじゃくる女性達を慰めながら、夜が明けて少し経った早朝にホウロの町に着いた。
驚き顔の町の門番に冒険者証を見せて入口を通してもらい、教会の側で荷馬車から女性達を降ろす。
荷馬車はユーナがそのまま運輸ギルドへ返却し、僕とアリサは女性達と一緒に教会へ。
と、不意に女性の1人が立ち止まった。
僕が最初に助けたあの若い女性。
依頼を受けた時、土下座で救出を頼んできたエインさんの奥さんのネイラさんだ。
彼女は涙を流し、絞り出すような声で呟く。
「わ……私、やっぱり行けない……」
僕はネイラさんの前に立ち、身を少し屈めて彼女の顔を覗き込む。
「大丈夫ですよ。さっきも言いましたけど、ご主人は必死に僕達にあなた方を助けてほしいと頼んできたんです。今もきっと心配してますよ。無事を喜びこそすれ、変なことなんて言いやしません」
「そうだよ、アンタは何も悪くなんかないんだ。ゆっくり休んだらまた思いきり働いて、こんなことさっさと忘れちまいなよ」
「その通りだ。もし誰かに何か無神経なことを言われても相手にしなければいい。あなた達は本当に頑張ってあの状況を生き抜いたのだ。恥じることなど何もない」
「でも……私、オークに……。あいつらに……。私……!」
他の女性やアリサが彼女の肩を抱いて慰める。
こういう時って男は役に立たないなあ。
とその時、教会の扉が音を立てて勢いよく開き、中からエインさんが飛び出してきた。
「ネイラ!!」
どうやら入口の前で話していた声が中に聞こえたらしい。
エインさんはネイラさんに駆け寄って、そのまま思いきり抱き締めた。
「よかった……!無事で……!本当に……!」
エインさんの腕の中で、ネイラさんは小さくもがく。
「わ、私……オークに……汚され……」
涙声で訴える彼女の言葉を「そんなのどうでもいい!」と遮るエインさん。
そのまま2人抱き合って、声を上げて泣き出した。
2人の声を聞き付けて、教会から出てくる避難者の人達。
次々に救出された女性達の元に駆け寄って無事を喜び合う。
そんな中、何かかけられる言葉はないかと考えていた僕。
ふと思い付いたことがあったので、少し落ち着いてきた様子のエインさんとネイラさんに歩み寄って声をかけた。
エインさんはなおもネイラさんを抱き締めようとしてるけど、ネイラさんは「汚れてしまったのでもうあなたの所には戻れない」と離れようとしている。
これは……え~と確か前世のテレビでやってた知識。
難しいことはよく覚えてないけど、確かこんな感じだったはず。
「じゃあ僕が良いこと教えてあげます。あのね、人の身体って日々少しずつ新しくなってるんです。ご飯食べるってのは、その栄養で新しい自分の身体を作るってこと。トイレに行くってことは、身体の古い悪くなったところを棄てるってこと」
前世のテレビ知識なんて言うわけにもいかないので、貴族の知識ということにしておく。
こういうのなんていったっけ。
確か……新人退社?
「昨日のあなたと今日のあなたの身体は違う。今日のあなたと1週間後のあなたはもっと違う。1ヶ月も経てばあなたの身体はもう汚れなんて無い、全部新品です。後は嫌な思いをしたことなんて、全部トイレにでも捨てて忘れてしまえば良いんです」
なんで会社を辞めるのが身体を作り替える話になるのやら。
まあ呼び方はともかく、側で僕の話を聞いたエインさんをはじめ周囲の人達も、口々にその通りだと同意する。
ネイラさんは少しの間俯いていたけど、やがて顔を上げて、涙を流しながら頷いた。
うん……もう、大丈夫かな。
改めて喜ぶ避難者の人達を眺めていると、僕達に村長の息子のハーンさんが話しかけてきた。
「この度は本当にありがとうございました。これは残りの報酬です。本来ならもっと払わなければならないところなんですが……」
「いえ、大丈夫です。契約の時にちゃんと決めたことですから。あと僕達が確認出来た限りでは、他に捕まっている人はいなかったように見受けられました。それから、僕達が逃げるのと入れ替わりで討伐隊がオークに攻撃を始めてました。近いうちに討伐完了の知らせが届くと思います」
僕は残額の銀貨5枚を受け取りながら、依頼の結果をざっとハーンさんに報告する。
そうしているところに、荷馬車を返却してきたユーナが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「コタコタ」
「何?ユーナ」
「荷馬車返すついでに聞いたんだけどね。今ならドーヴ行きの乗り合い馬車に空きがあるって。もうそろそろ出発するみたい」
「……今?」
「今」
彼女の言葉に僕とアリサは顔を見合わせる。
後でユーナから聞いた話では、この時2人そろって赤リンゴ→青リンゴのように顔色が変わっていたそうな。
僕はハーンさん達に向き直って軽く咳払い。
「それじゃ僕達はこれで失礼します!今後も大変だと思いますけど頑張って下さい!毎度ありがとうございました!!」
早口で捲し立てると3人でくるりと回れ右をして、呆気に取られている彼らを背に即座に猛ダッシュを始めた。
「馬車はどっちの門から出るの!?」
「南門!!」
3人で町の南に向かって突っ走る。
前日まで泊まっていた宿は、依頼でオークの集落に出発する際に一旦引き上げているのでチェックアウトの必要は無いし、荷物関係は全部僕とユーナのマジックバッグに入っているのでこのまま町を出ても問題は無い。
ギルドへは次の町で報告上げればいいや。
そうして走っていると、南門の手前で冒険者ギルドのギルドマスターと、『白鷹の翼』の人達に出くわした。
他の冒険者達の姿は見えないので、討伐完了後に先行して帰って来た感じだろうか。
『白鷹の翼』のカリンさんが目敏く僕達を見つけ、ギルドマスターが僕達の前に立ち塞がる。
そしてその後方には、今にも南門を出ようとする乗り合い馬車。
やばい、乗り遅れる!
「ちょっとアンタら!」
「お前達!待て訊きたいことがある!」
「あの馬車に乗らないといけないんです見逃して!!」
「いやそういうわけには……!」
「あ、あれはなんだ!?」
「「え?」」
「さよならっ」
僕の指先に釣られて、あさっての方向に顔を向けるギルドマスター達。
その脇をすり抜けて、僕達は馬車に向かって走り出す。
後ろで怒号が響いているけど聞こえないふり。
「なんだか私達も少しこいつの行動に慣れてきた感があるな!」
「本当にこれで良いのかなって気もちょっとするけどね!」
後ろを走ってる奥さん達もなんか言ってるけどこれも聞こえないふり。
「待って!その馬車待って!!」
そんなこんなで僕達3人、南門を抜け遠ざかって行く馬車を追いかけて、町の外へと駆け出して行ったのだった。
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次回、3章エピローグになります。




