10. きゅうしゅつへ の しゅっぱつ
よろしくお願いします。
僕の言葉に、呆気にとられた様子の皆。
「あの……報酬は冒険者ギルドから出るのではないのですか?」
村長さんの問いに僕は首を横に振る。
「さっきも言った通り、オークの殲滅を最優先というのがギルドの方針です。僕達はその方針に従わないので討伐隊への参加は出来ませんし、従ってギルドからの報酬も出ません。今回のことに関しては僕達は、皆さんからの依頼を受けて動くという形になります」
前もあったことだけど、タダ働きというわけにはいかない。
ボランティア精神で命を懸けるとか、少なくとも僕には無理。
危険な状況に身体を張る以上は、無償奉仕なんてことは出来ない。
別に弱味に付け込んで高額タカろうってわけじゃない。
今現在払えるだけで良いし、今すぐにが無理であれば終わった後でも構わない。
ただしその場合は契約書を書いてもらう。
どうしても報酬は出したくないというなら、悪いけどこの話は無かったことに。
それから、出来る限りのことはやってみるけど、もしも状況などから生存者がいないと思われた時や、これ以上は危険が大きいと判断した時は、その時点で救出を中止して引き返す。
ただしその場合は報酬は要らない。
また手遅れだった場合や、救出を断念せざるを得なかった場合なども責任は負えない。
などといったことを僕は皆に説明する。
戸惑ったように言葉も無く、顔を見合わせる避難者の人達。
無理もないっちゃ無理もない、助けてもらえると思ってたところにこんな話をされたら。
でも僕達にとっては大事なことだ。
迷っている様子の避難者達を前に少しの間待っていると、「あの、俺が……」と先程のエインさんが何かを言おうとするのを制して、ハーンさんが進み出て右手を差し出してきた。
その手のひらには銀貨が8枚。
「逃げる時咄嗟にこれだけ掴んできました。依頼に対して少ないとは思いますが、これでどうかお願いします」
「こちらから要求しておいてなんですが、いいんですか?今後の生活費とか」
僕の問いに彼は頷く。
「今日の内に討伐隊が出発するのでしょう?オークの討伐が無事に終われば、私達が集落に戻れる日も近い。帰ることさえ出来ればなんとかなると思います」
「確かに。オークだったら金品には興味無いから、きっとそのまま手付かずで残ってるだろうね。それを回収出来れば当面の生活はいけるか。ただ逆に、食料や家畜なんかは食い尽くされてるだろうからそのつもりでね」
「ええ、それについてはやむを得ません。落ち着いたら、皆で今後どうするのかを話し合おうと思います。そのためにもどうか、オークの討伐と捕まっている者達の救出をお願いします」
ユーナの言葉に、ハーンさんはそう答えて頭を下げた。
なるほど、それなら大丈夫かな。
僕は差し出された彼の手から、銀貨を3枚だけ受け取った。
「先ずは手付けとしてこれだけいただきます。残りの5枚は成功報酬ということで」
これで報酬についての話はまとまった。
それじゃ次はということで僕は銀貨をしまって、代わりにマジックバッグから常備してある紙束とペンとインク壺を取り出した。
「じゃ先ず依頼を受けるということで、契約書の作成をお願いします。それからどなたか集落の地図を描いてもらえますか?この町からの集落の位置と、集落の周辺の地形なんかも合わせてお願いします。特に捕まってる人達が閉じ込められてるとしたらどの建物になりそうかとか知りたいです。それと襲撃を受けた時の詳しい状況と、分かる範囲で良いのでオークの規模と戦力も教えて下さい。後今回は泊まりになるからユーナは宿に戻って準備お願い。アリサは運輸ギルドに行って荷馬車1台借りてきて」
矢継ぎ早にまくし立てる僕に再度呆気に取られる避難民の人達と、やれやれという顔で教会を出ていくアリサとユーナだった。
「ごめんね。報酬から何から勝手に全部僕が決めちゃって」
「まあ、あの空気で断るわけにもいかんだろうがな」
「でも今後はちょっと気をつけてね。またこんなことがあるかどうかは分からないけど、特に報酬関係ってどれだけ仲の良いパーティでも揉めるときは揉めるからさ」
教会で避難者達と話してから3時間程後。
町の肉屋やら布屋やらで大急ぎで準備を済ませた僕達は、運輸ギルドで借りてきた荷馬車に乗って、山の中の道をオークの襲撃を受けた集落へと向かっていた。
現在はユーナが馬の手綱を取って、僕とアリサは荷台で教会で描いてもらった集落の地図を挟んで作戦会議中。
今回の救出作戦はある意味時間との勝負になる。
僕達が生存者の救出を目的とするのに対し、ギルドの討伐隊がオークの殲滅優先。
生存者がいた場合、その人達への被害もある程度はやむ無しという方針である以上、彼等は味方とは見なせない。
討伐隊は夜半から夜明け前に仕掛けるとギルドで言っていたので、その攻撃が開始される前に救出を終えて集落から逃げる必要がある。
かといって討伐隊は敵というわけではないので、出来る限り彼らの仕事の邪魔にはならないように動きたい。
討伐隊の攻撃に便乗して僕達も集落に突入して、彼等とオークが戦っている隙に生存者を救出というのも考えたけど、それだと彼等の戦いの邪魔になるだろうというのと、何より生存者が戦闘に巻き込まれる可能性が高いということで却下。
となるとやはり討伐隊の攻撃前に集落に潜入して、オークに気付かれないように生存者を連れ出すという方法になるか。
そうすると僕達の役割分担としては、集落に侵入するのは猫歩きが得意な僕、弓使いのユーナがそれを援護して、隠密行動に慣れてないアリサは後方待機というのが良いと思う。
「実質戦力外か。あまり私好みの役割ではないな」
「退路の確保は超大事!!」
「わかったから、そんな毛を逆立てて迫ってくるな」
顔を近づける僕に引き気味で頷くアリサ。
実際、生存者の救出には成功したものの、逃走用の荷馬車を破壊されて逃げ切れませんでしたとか、笑い話にもならない。
そんな感じで僕達は作戦を詰めつつ、馬の休憩の度に手綱を交代しながら山の中の道を集落へと向かった。
山道といっても、聞けば貨物の運搬に使っている道なんだそうで、かなり整備されていて車でも走りやすい。
逆に見れば、この道なら集落を占拠したオークがホウロへ侵攻するのも容易ということで、ギルドが討伐を急ぐのもその辺に理由があるみたい。
ただまあ、この分ならおそらく夜を少し回った頃には集落に着くだろう。
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