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メインクーン・ダンス〜異世界しっぽ冒険記〜  作者: オー
ブライダル・パニック
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9. ひがいしゃ の めんだん

よろしくお願いします。

緊急依頼への参加を却下されて会議室を出た僕達。


1階に降りて「あれ?」という顔でこちらを見てくる受付嬢さんに、ユーナが「駄目だった」と一言声をかけてそのままギルドを出た。



3人で町の中心に向かって歩きながら、これからのことについて打ち合わせをする。


最初にアリサが口火を切った。


「やれやれ、やはり信用はされなかったな」


「まあ、仕方ないよね。僕達新顔だし、低ランクなのは事実なんだし」


「それで、これからどうするの?ギルドを出てきちゃったけど、この件からは手を引いて採集依頼でもする?」


「いやそれなんだけどさ、避難してきた人達に会いに行ってみない?さっきのカリンさんて人は生き残りを助けても意味無いみたいに言ってたけど、家族とか知り合いの人はどう思ってるかなって」


ちょうど見えてきていた教会の建物を指しながら「どうかな?」と訊くと、2人共了承してくれた。



今はまだ、生存者がいるのかどうかもわからない状況ではある。


それでも家族や知人が生きててほしいと望むなら、救出を試してみる意味はあるんじゃないかと僕なんかは思う。


せっかくだからこの際に、冒険者として営業かけてみるのもありかななんて考えてみたり。



そんな僕の考えを2人に伝えると、


「よくもまあそんなことを考え付く……」


「聞いた?ベテラン冒険者がやるようなことだよこれ」


とそろって呆れ顔をしていた。


そんな変かなあ。



まあ避難者に話を聞くことについては賛同をもらえたので、教会の前に着いた僕達は扉を叩き、出てきた使用人に用向きを伝える。


寄付金を渡して中に入れてもらうと、入ってすぐのお堂では、普段は堂内に並べられている長椅子が半分ほど壁際に片付けられ、空いたスペースで20人程の人達が手当てを受けていた。


先程のギルドマスターの話では避難者は10人程度ということだったけど、新たに逃げ延びて来た人達がいたんだろう。


ほとんどが男性だけど、女性と子供も若干いる。



人が入ってきたのに気付いてこちらに目を向けてきた彼らに、僕は声をかけてみた。


「大変なところ失礼します。僕は冒険者のコタロウ。彼女達は同じく冒険者で妻のアリサとユーナです。今回のオーク襲撃について話を聞きたいんですが、村長さんか代表の方はいますか?」


僕の呼びかけに、奥の方から息子さんか誰かなのか若い人に付き添われた初老の男性が、足を引きずりながら進み出てきた。


「私が村長のキオンです。あなた方が、オークを退治して下さる冒険者の方ですか?」


村長さんは中肉中背でややがっしりした体型。


今回のことで気弱になっているのか、声はあまり大きくなくて少し聞き取りづらい。


僕は討伐には参加出来ないことは誤魔化しながら答える。


「そのことについて、さっき冒険者ギルドに行って来ました。ギルドでは今、オーク討伐のための戦力を集めています。僕達はそのことで、皆さんに話を聞きたくてここに来たんです。まずはここにいる皆さん、ご無事で何よりです」



そうして僕は彼等に、ギルドで2級冒険者パーティを含む討伐隊が組織されていること、今日中には集落に向けて出発が予定されていることを伝えた。


僕達もその一員だと思われたようで、彼等の多くはとりあえず安心した顔を見せる。


しかしそこに1人の男性が声をかけてきた。


「あ、あの……俺、逃げる時に嫁とはぐれて、多分奴らに捕まってるんじゃないかって。ここにいない連中の中にも捕まってるのがいると思うんですけど、助けてくれるんですよね?」


男性の名前はエインさん。


突然の惨禍に見舞われてまだ頭が混乱しているのか、その口調はややたどたどしい。


でも、生存者の話をしようと思ってたところにいい質問がきた。


少し心苦しいことではあるけど、これがここに来た本来の目的。


「捕まってる生存者がいた場合については……『救助は可能であれば』というのが討伐隊の方針です。先ず優先するのは、オークを殲滅してこれ以上の被害が発生するのを防ぐことだと」


「そ、そんな!じゃあ人質にされてても助けてはくれないってのか!?」


「そのことについても皆さんと相談するために来たんです。もう少し話を聞かせて下さい」


僕は声を荒げるエインさんを制して、村長さんに襲撃の際に逃げ遅れて捕まった人がいる可能性について訊いてみる。



襲撃の際村長さんはたまたま集落の入口の近くにいたそうで、オークが攻め込んできたのはその反対側の森の中から。


今村長の身体を支えているのが息子のハーンさんで、彼に襲撃を知らされて、そのまま近くにいた人達に抱えられるようにして一緒に逃げたのだそう。


「何分突然でしたし、実際その時はオークがすぐ側まで迫っていたもんで、周りにいた者達で逃げるのが精一杯で……」


村長さんの言葉に他の村人達も肩を落とす。


別に見捨てただのなんだの言うつもりなどはない。


無傷な人など誰1人としていないのを見れば、皆が命からがら逃げて来たのはわかる。


「見張りとかは立ててなかった?」


ユーナの問いには村長さんの息子のハーンさんが答える。


「集落の中に一応見張り台があって、若い者を置くようにはしていたんですが……見張りの『オークが来た』の声とほとんど同時に襲いかかってきたような感じでした。見張り台といっても、どちらかというと街道に異常が無いかを見るのに建てているものでしたし、集落の周りは森ばかりなもので……」


「敵が森の中を通って来たことで、接近に気づくのが遅れたわけか」


呟くアリサ。


普段ならギルドで言ってた常駐の冒険者パーティが対応したんだろうけど、今回は彼らも居らず。


「戦力不在だけど少しの間なら大丈夫だろう」という、正に気が緩んだ時を狙われてしまったんだな。


運が悪いとしか言い様がない。


「エインさんは捕まっている人がいると言ってましたが、その可能性はありますか?あと他に逃げて生き延びている人がいるなんてことは?」


「……あの時家の外にいた者は皆がばらばらに逃げたはずなので、森の中に隠れたり、身を隠しながらこの町に向かっている者はいるんではないかと思います。ただ女達は……ほとんどがあの時家の中にいたと思うので……」


「逃げられなかった可能性が高いね……」


「た……頼む!ネイラを!皆を助けてくれ!」


ユーナの呟きに、抑えられなくなったエインさんが再び前に飛び出て土下座をしてきた。


僕は彼に頷いて話を続ける。


「実は僕達もギルドで討伐の方針を聞いて、それなら僕達だけでも救出メインで動けないかなと思ってここに来ました。ただ知ってる人も多いと思うんですが、オークという奴は……女性を……その~」



オークは人間を始め、他種族の女を犯して子供を産ませようとする。


冒険者だけではなく一般的にも知られたことではあるけど、現在この場には捕まっていると思われる女性の旦那さんを始め、女性や手当てをしているシスターもいるわけで。


そんな人達を前にさすがにこの話は言い難い。


言い澱んでいると、後ろにいたアリサが僕を小突いて前に進み出た。


「率直に言うが、仮に生きていて助け出すことが出来たとしても、彼女達はオークの子を孕まされている可能性が高い。女にとってはこれ以上無い程の屈辱と絶望だ。死んだ方がましと言う者もいるかもしれん。加えてあなた達は彼女達が産み落とすオークの子を、その手で始末しなければならない。それでも救出を望むか?」


「当たり前だ!」


アリサの問いに間髪入れず答えるエインさん。


ああ、この人格好良いかも。


他の人達を見ても、誰も異を唱える人はいない。


皆が生存者の救出を望んでいる。



僕は彼等に頷き、僕の代わりに言い難いことを言ってくれたアリサに軽く頭を下げて、そして皆に向かって口を開いた。


「分かりました。それでは僕達はこれから生存者の確認と救出に動こうと思います。というわけで皆さん……報酬はおいくら?」

お読みいただきありがとうございます。


また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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