8. きんきゅう の じたい
よろしくお願いします。
「その集落の住民の数は?」
「……正確にはわからんが、大体5、60人程だったと聞いている」
見慣れないのが声をかけてきたせいか、一瞬怪訝な顔をしたギルドマスターだったけど、質問には答えてくれた。
さすがにこの人は、コモテの町の変なギルドマスターとは違うらしい。
それにしても集落の人口はそれくらいか。
う~んそれなら……
「集落の地図か何かってあります?」
「いや無い。だがそこまで大きな集落ではないので、討伐には問題無いと思う」
「避難してきた人と話って出来ますか?」
「それなら今教会で手当てを受けている」
「捕まっている生存者がいる可能性は?」
「無いとは言い切れないが……」
「アンタね、冒険者やってんならオークがどういう奴かくらい知ってんでしょ。今頃捕まった男はなぶり殺しで、女は子作り道具にされてるわよ」
声を上げたのは、椅子に座っていた2級の女性冒険者。
僕は彼女に軽く頷いて質問を続ける。
「逆に考えれば、女性は生かされてる可能性があるってことですよね。ギルドマスター、今回の討伐で予定している作戦の概要は?」
「あ、ああ。現場での判断が優先になるが、基本的にはパーティごとに別れて集落を囲んで、夜半から夜明け前頃を狙って奇襲攻撃、というのを考えてはいる」
「生存者の確認と救出などは?」
「……可能であれば、だな。最優先はあくまでもオークの討伐だ。逃げられればそこからまた繁殖して、近隣に被害が出る」
少し迷いながらも、ギルドマスターは僕の質問にははっきりした声で答えた。
救出よりもオークの殲滅が優先か。
そこに先程の女性冒険者が苛立った声で言ってきた。
「何、アンタ助けようとでもしてるわけ?オークに犯されまくった女助けてどうするってのよ。アタシならそんな目にあったらとても生きてなんかいけないね。いっそ一思いに楽にしてやるのが慈悲ってものよ」
「別に死のうと思えばいつでも死ねるんだから、まずは救出してそれから本人に決めてもらっても遅くはないんじゃないですか。今は死にたくても、家族や知ってる人に会えれば気が変わるかもしれないし。その上でどうしても死にたいっていうなら、とどめをあげればいい」
「ハッ、呑気なものね!これだから男は!ああいう目にあった女が、その後周りからどういう目で見られるかなんて何も分かっちゃいないんだよ!」
「ならそうしたことも含めて、本人に決めてもらえばいいと思います。敵や罪人てわけでもないんだから、生きるか死ぬかを最終的に選ぶのは自分自身であるべきでしょう。ついでに言うなら、男だろうが女だろうが、死ぬ人は少ない方が良いに決まってる」
「アンタね……!」
彼女が顔を怒らせて更に何かを言おうとするのを、横からギルドマスターの声が遮った。
「そこまでだ、お前達もそれぞれ色々と思うところがあるのは解る。だがさっきも言ったが、あくまでも最優先はオークの殲滅だ。それを踏まえた上で行動してくれ。『白鷹』も、そこのお前もそれで良いな?」
「カリン、それぐらいにしときな」
「チッ……わかったよ!」
パーティの仲間からも静止され、舌打ちをして椅子に座り直す彼女。
僕はギルドマスターに頷いて、カリンさんという女性に軽く頭を下げた。
実際いるかどうかわからない生存者の救助よりも、更なる被害拡大の防止を最優先するというのも間違いではない。
というよりも、この世界の常識ではそちらの方が正しい。
これは魔物以外の、自然災害や伝染病などの場合も一緒。
ついでに身も蓋もないことを言うと、こういう緊急依頼というのは、事態を収拾出来たとしてお金を払ってくれるのはそのギルドがある町や、そこに常駐している軍などになる。
そして払ってもらえる金額というのは、その町や軍の懐具合によって決まる。
請求は事態の解決後になるので金額を出し渋られることも多く、ギルド的にはあまり旨味が無かったりするらしい。
そうであれば、余計な手間をかけたくないということになるのかもしれない。
でもまあさっき現場の判断が優先て言ってたし、現地に行って確認して、生存者がいたら助けられるように動けばいいか。
……現地に行くといえば、今更だけど僕達はランク的にこの依頼に参加出来るものなんだろうか?
僕がそのことについて尋ねようとした時、ギルドマスターの方から先に僕達に訊いてきた。
「ところでお前達3人はパーティでいいのか?新顔のようだがランクを教えてくれ」
3人で顔を見合わせ、先にランクの低い僕とアリサが答える。
「6級」
「7級」
途端にカリンさんを始めとして、冒険者達が一斉に吹き出した。
「ちょ、マジかよ!?なんでそんな低ランクのド素人がここにいるんだよ?」
「あー、だからさっきから空気も読まないでアホなことばっかり訊いてたわけね」
「オークのランクも知らねえのか?低ランクなら大人しく採集依頼でも受けてろよ!」
それまで黙っていた冒険者達も、一緒になって僕達を非難してくる。
う~んやっぱりこうなっちゃうか。
なんだかんだいって冒険者ギルドでは、ランク=強さという基準が一般的だ。
さすがにギルドマスターも渋い顔をしている。
「あ~……受付で聞かなかったか?オークの討伐は4級以上が条件だ。6級と7級では参加は認められん」
ギルドマスターの言葉にユーナが1歩前に出る。
「私は3級。この2人の腕なら私が保証するよ。まだ登録したばかりでランクは低いけど、2人共実力は私より上だよ」
ユーナはそう言ってくれるけど、冒険者達に信じる様子は無い。
真っ先に言い返してくるのはカリンさん。
「何、アンタ達パーティ組んでんの?仲間を擁護したいのは分かるけど、過大評価は本人のためにならないわよ?」
他にも「なんだよ寄生かよ」「そんな雑魚なんか捨てて俺達と組まないか」「なんなら一晩付き合ってくれてもいいぜ」なんて声が上がる。
そんな中僕達はギルドマスターに目を向けるけど、彼は首を横に振った。
「ランク3級の言葉なら信用したいところではあるが、生憎と俺達はそいつらの実力を知らんし、今は確かめている時間も無い。それに登録したばかりということは、例え力はあっても冒険者としての仕事にはまだ不慣れってことだろう。そういう訳で、今回の討伐への参加は却下だ」
やっぱりそうなるか。
確かにギルドマスターの言うことも分かる、というよりむしろそれが正しいといってもいい。
こういう作戦行動を取る際に、どんなヘマをやらかすかわからない素人を連れ歩くというのは、火の付いた爆弾を持ち歩くのと同じなのだ。
ユーナもアリサも無茶なことを言っているのは僕達の方だということを分かっていて、それ以上は何も言わず「どうする?」という目で僕を見てくる。
僕はそんな2人に頷いて、ギルドマスターに「分かりました。失礼します」と答えて部屋の出口に向かった。
アリサとユーナが僕の後に続いて部屋を出ようとすると、後方からギルドマスターの声がかかった。
「あー、3級のお前さんだったら参加は出来るぞ。というよりむしろ参加してほしいんだが……」
他の冒険者達からも引き留める声が上がる。
ユーナはそんな彼らをちらと見て小さく頭を横に振り、そのまま部屋を出てドアを閉めた。
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