6. がいこく の あさ
よろしくお願いします。
クドリの町で運良く乗り合い馬車に乗れた僕達は、現在ホウロという山合いの町に来ている。
この町は、クドリの町からクロウ共和国の首都ドーヴまでの中継地点。
ここまで来たは良いものの、僕達は例によってこの町からドーヴに行く乗り合い馬車が取れずに、しばらくの間滞在を余儀なくされている。
なんでもこの先に続く山道で先日大きめの地震があって、その影響で道の状態が悪くなっているんだそうで、乗り合い馬車なども便数を減らしている上に連日満席の状態。
そんなわけで僕達はこの先を徒歩で行くのは少々危険と判断し、馬車が見つかるまでの間この町に滞在することにした。
ついでにこの町の冒険者ギルドで低ランクの依頼を中心に受けて、僕とユーナでアリサに冒険者としてのレクチャーをやっておこうと思ったのだけれど、ここで僕は彼女の意外な一面を見ることになる。
その日僕はいつものように朝起きて、宿の庭先で軽くククリの素振りとボウガンの抜き撃ちの練習。
自分にクリーンの魔法をかけて汗を払ったら宿の食堂に行き、そこで先に来ていたユーナに促されて、まだ寝ているアリサを起こしに僕達の泊まっている部屋へ。
僕達は夫婦ということで同じ部屋に泊まっているのだけれど、その3人部屋に入ってベッドでシーツにくるまっているアリサを揺さぶる。
「アリサ、朝だよ~。朝ごはんの時間だよ~」
「……」
「アリサ起きて~」
「……ん~」
「ア~リ~サ~……無駄な抵抗は止めろ。お前は完全に包囲されている。大人しく両手を上げて出て来い。お前のお母さんは泣いているぞ」
「……何を言っているんだお前は」
不機嫌そうな声でシーツから顔を出すアリサ。
そう彼女、とにかく朝が弱い。
別に夜更かししているわけではないのだけれど、起こさない限りは半日かそこらは延々と寝ている。
それでよく軍隊生活とかやってられたなとか思ったのだけれど「むしろ軍隊にいたから気を張ってて朝も起きられたんじゃないかな」とは付き合いの長いユーナの談。
野営している時なんかは普通に起きるのだけれど、町に入って宿に泊まったりすると、気が緩むのかこの調子になる。
寝るのが気持ちよくて好きという気持ちは僕もよくわかるけど、猫時代と違って今はいつまでも寝てるわけにもいかないので、今は毎朝僕とユーナの交代で彼女を起こすことにしている。
次はどんな変なやり方で起こすのかを考えるのが、少し楽しくなってきているところ。
寝ぼけ顔のアリサを連れて食堂に行き、ユーナと3人で野菜の入った麦粥の朝食を食べてから、外出の準備をして今日も冒険者ギルドへ。
現在のアリサの冒険者ランクはまだ新人扱いの7級だけど、このまま採集依頼などを続けていれば近いうちに6級に上がるだろう。
ギルドに着くと、朝は依頼を受ける冒険者達で騒然としているギルド内が何やらいつにも増して騒がしく、妙な緊張感が漂っている。
依頼の掲示板の前に何やら人だかりが出来ていたのだけど、わざわざそれに加わっても仕方ないのでそのまま受付へ。
「おはよう。採集依頼を受けたいんだけどいいかな?」
受付嬢さんに声をかけるユーナ。
この3人の中では1番ランクが上ということで、ギルドからは自然と彼女がリーダーみたいな扱いになっている。
そんなユーナを見て受付嬢さんは嬉しそうに声を上げた。
「あ、良いところに!ユーナさんって確か3級でしたよね?」
「うん、そうだけど……何かあった?」
「緊急依頼が出てるんです。だから少しでもランクの高い人にいて欲しくって」
「緊急依頼……」とユーナは口の中で呟く。
緊急依頼とは名前の通り、緊急性の非常に高い依頼のこと。
そのギルドのある市町村に被害が及ぶ可能性が高い事態が発生した場合などに、ギルドや行政機関から出される。
その町の脅威になっている魔物や盗賊団などの討伐が主な依頼内容で、多くの場合は複数の冒険者やパーティが集まって合同での討伐になる。
本当に一刻を争う事態になると、指名依頼として高ランク冒険者に要請(という名の命令)が行ったりするのだそう。
先日のシャドウタイガーとの戦いの時も、ラヌルのギルドには緊急依頼が出されたと思われる。
「それで、何が出たの?」
と尋ねるユーナに、受付嬢さんは真剣な顔で答えた。
「この町の近くに、オークの集落が発生しました」
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