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メインクーン・ダンス〜異世界しっぽ冒険記〜  作者: オー
ブライダル・パニック
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5. こんやくしゃ の もうそう

よろしくお願いします。

アト王国から脱走し、なんやかやの末に結婚した僕達は、3人で決めた予定の通りクドリの町に向かっている。


こうなった経緯はともかく、2人と結婚出来たことや一緒に旅が出来るというのは素直に嬉しい。


まあ2人の方からは、


「それにしても、男爵の妾から逃れられたと思ったら今度はコタロウの妾か」


「妾とかじゃなくてさ、私達2人で彼を共有してると思いなよ。あとはほら、彼まだ若いんだし私達好みに教育していけば良いじゃない」


なんてちょっと不穏な話し声が聞こえてくるのだけど、そこはとりあえず聞こえない振りで。




ここでさっきちょっと話が出たので、僕の幼馴染みで元婚約者だったアディールと、彼女と結婚したドルフ王国のベルマ王子のことを考える。


町で聞いた噂によれば、2人の結婚式は半月ほど前に無事執り行われたらしい。


婚約から異常なくらいに早い結婚と挙式であまり大勢の来賓も招けなかっただろうから、おそらく身内とある程度の関係者だけ集めて式を挙げたんだろう。


にしても結婚式かあ。


……ふと思ったのだけれどドルフ王国は軍事国家で、アディールの実家のベリアン侯爵家は武人の家系。


その双方の家族と多少の親類縁者と関係者だけ集めたってことは、もしかして右も左も軍人ばっかりでかなりむさ苦しい結婚式になったんじゃ……?


ま、まあ式そのものは別にいいとして披露宴は気になるなあ。


どんなごちそうが出たのかな。羨ましいなあ。


……出たんだよな?ごちそう。


軍服を着た大勢の筋肉男達が、豪奢なテーブルに山と積まれた兵糧をもりもりと頬張っているのを想像しかけた僕は、ぶんぶんと頭を振ってその悪夢の様な光景を追い払った。


いくらドルフ王国が軍国主義だからって、まさか披露宴の料理がレーションなんてことは……




歩きながらそんな馬鹿な妄想をして頭を抱えている僕を見て、アリサとユーナが何やら話している。


「さっきから1人で愉快な顔して、一体何を考えているんだろうね」


「婚約者……というわけではなさそうだな。どちらかというと不味い食べ物のことでも考えていそうな様子だ」


アリサの返答に、ユーナはふふっと笑う。


「気になる?コタロウの婚約者」


「気にならないといえば嘘になるな。私も噂とさっきのコタロウの話でしか知らないが、ずっと好き合っていたのを強引に引き離されたとなればな……」


「でもあの様子じゃ未練がある感じはしないよね。大丈夫なんじゃない?それにどっちかというと彼、色気より食い気な子だし」


「確かに。だがそれはそれで心配ではあるがな。誰かに美味そうな食べ物を振られたら、私達よりもそちらにほいほい付いて行くかもしれん」


「そうだね、そこら辺はこれから私達でちゃんと仕付けていこう」


……なんか色々言われてるなあ。



まあそんなことを話しながら、町に向かう街道を歩く僕達。


例によって乗せてくれる馬車が見つからず、町へは徒歩で向かうはめになっている。


もっともクドリの町はここから歩いて半日かそこらで着くらしいので、そこまで困った話でもない。




あまり沈んだ気分で歩くのもどうかなので、また歌でも歌うことにした。


結婚にまつわる歌というのが思い浮かばなかったので、今回の曲は馬に乗って草原をどこまでも走って行く歌。


歌っていると駆ける馬上で風になびく白マフラーや、丘に咲く花の側で休む馬の光景が目に浮かんでくる。


この歌もかけ声が入るし、爽快な歌詞で人馬一体って感じがして好きな歌だ。


歌いながら歩いていると、歌の途中で入るかけ声にユーナが食いついてきて、更には呆れ顔のアリサを引っ張り込んで、結局3人で歌いながら歩くことになった。




クロウ共和国はこの大陸の内陸部にあって海には面しておらず、その国土は山が多くを占める国。


従って首都ドーヴをはじめとして、都市は山や森を切り開いて作られていることがほとんどで、そんな町と町の間を山間部に作られた道が繋いでいる。


今はかなり整備されたけど、昔は本当に交通の便が無茶苦茶悪かったのだそう。


この国にも昔は国王がいたのだけど、そういう国土事情もあってその権威は非常に弱かった。


山の向こうの貴族が背いたからといって、討伐軍を送ろうにも道が狭くて大軍を送れないというのでは、王の偉力も何もあったものではない。


そんな中で君主制やるのも限界と、国王を廃して出てきたのが共和制という制度。


各都市、地域などから1~2名ずつ代表者を首都に出し、その人たちが話し合いで国政を行うというもの。


各地の有力者が首都に集まるので政府に対する反乱などは起こりにくくなるし、王政と比べて国民の要望が政治に通りやすくなる部分もあるのかもしれない。


国内の道が整備されて、昔とは見違えるほどに移動がしやすくなったというのはその好例だろう。


その一方で、即座の判断で強権を発動できる人がおらず、何をするにも話し合いをしなきゃいけないということで、有事が起きた際には対応が遅れがちになるんじゃないかという声もあるらしい。


さてどうなんだろう?


ちなみに貨幣価値はアト王国と比べるとちょい高目、そして物価は安目。




アト王国から国境越えてそんなクロウ共和国にやって来て、僕達3人はクドリの町に到着した。


この町もまたコモテと同じように国境の近くで物流の要衝らしく、とても活気のある町だ。



ここまでくればもう欲たかりな貴族の目も無いだろうと、コモテの町で仕立ててもらったシャドウタイガーのジャケットはこの辺りから本格的に着て動くことにした。


ジャケットは黒色が勝った方をメインに着ることにする。


クドリに来る途中の道で「それがさっき言ってたシャドウタイガーの服か……」とアリサとユーナにジト目で見られながら袖を通すと、何か特殊な効果でもあるのか、それから少し身体が軽くなった気がしている。


もう一着の銀が勝ったジャケットとコートはアリサとユーナに着てもらおうかと思って出してはみたのだけれど、結論から言うと2人には小さくて着れず、「アリサは筋肉ついててガタイが良いから」とからかったユーナがアリサに追いかけ回されていた。


じゃあ代わりにと差し出したバンダナとグローブは受け取ってもらっている。



その一方でせっかく素材があるんだから物は試しと、クドリに来る途中でオブシウスドラゴンのタテガミを寄り合わせて細い紐を作ってユーナの弓に弦として張って見たらさあ大変。


ドラゴンの魔力の影響か飛距離は飛躍的に伸びるわ遠くの的にもばんばん命中するようになるわ放った矢が太い木の幹を貫通するわと、色々凄いことになっていた。


ただしユーナの言うことには「この巌樫(いわおがし)の弓じゃ弦の強さに付いていけてない。多分遠からず壊れると思うから、なるべく早く新しい良い素材で弓を作らないと」とのことだった。


やっぱりドラゴンの力は凄まじい。


ついでに余ったタテガミを僕のククリと、アリサの持ってた大剣の柄に滑り止めとして巻き付けてみたら目に見えて素振りの際の斬擊が鋭いものになった。


アリサがクドリの冒険者ギルドの訓練場で試し切りをしてみたら、ケチ貴族の騎士団で支給されていた量産品の大剣が、廃棄寸前の損耗品とはいえフルプレートの鎧を真っ二つ。


大剣を扱う重戦士で、そこらの男を片手で捻れる力自慢のアリサだけど、それでもこの威力は尋常じゃない。




僕達がドラゴン素材の力におののきながらギルドの訓練場を出ると、入る前にアリサの冒険者登録を頼んでおいた受付の男性から「登録が完了しました」と声がかかった。


アリサの冒険者ギルド証を受け取った後は、3人で今後どうするのかの相談をする。


国境を跨いだとはいえ、このままソマリ男爵領の近くにいるのも落ち着かないので早めにこの町を離れようというのは、僕達全員同じ考え。


そこから僕の、グランエクスト帝国にでも行ってもっと良い武器を探そう、出来たら腕の良い職人さんを見つけてドラゴンのウロコを装備品に加工してもらおう、という案には2人共賛成してくれた。


そういうわけで今日のうちに必要な物を買い揃えて、明日この町を発つことにする。


「手持ちが心許ない」と手を差し出してきたユーナに金貨を握らせて、2人が買い物をしている間に僕は乗り合い馬車の予約に向かったのだった。

お読みいただきありがとうございます。


また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。



コタロウが妄想していたレーションというのは、要は配給食料のことです。

軍隊で兵士に配給される携帯食料の「コンバット・レーション」などがよく知られています。

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