25. まちから の とうぼう
よろしくお願いします。
ゲテモノ描写があります。
ご注意ください。
「エビではありません。近くの森でムカデのでっかいのを捕まえたので、皮剥いて揚げてみました」
エビねえ?食べ比べたこと無いけど似てるのかなあ?
前世では、食堂のテーブルに跳び乗って、置いてあったエビの匂いを嗅ごうとしてたら怒られたんだよな。
まあどのみち僕のつてでは、内陸のコモテの町で海のエビなんて手に入らない。
川エビやロックアーマープローンみたいな魔物ならいるけど、この近辺にはあまり大きいやつはいないっぽい。
僕の言葉に一瞬固まった後、口の中の物を盛大に噴き出すソマリ男爵。
椅子を蹴倒して立ち上がり、真っ赤な顔で僕を指差す。
「ム……ム……!?き……きさっ……きさっ……!」と何かを言おうとするも声にならず、そのまま「う~ん……」と白目を剥いて卒倒してしまった。
毒見役の2人は慌ててテーブルから離れようとして、椅子に躓き床にひっくり返っている。
慌てて男爵に駆け寄る執事のヘルマンさん。
「閣下!閣下お気を確かに!……おのれ冒険者!閣下に毒を盛ったか!」
「いや毒じゃないですから!毒が無いのは確認したし、何より珍しい物食べたいって……!」
「黙れ!衛兵、衛兵!そこの狼藉者を捕らえよ!」
「わーーっ!?」
勢いよくドアが開いて、兵士がわらわらと食堂になだれ込んでくる。
掴みかかってくる彼らをかわして僕は窓に突進、熱が籠るからと開けておいてもらった窓から庭に飛び降りた。
庭を一気に駆け抜けてフェンスを飛び越え屋敷の外の通りへ飛び出し、そのまま脱猫の如く走り出す。
途中騎士団の宿舎に駆け込んで訓練場の隅に隠しておいたマジックバッグをひっ掴み、1番近い北門に向かって全速力で逃げ出した。
その日の夕方、僕はコモテの町の南方の、隣国クロウ共和国へ向かう街道をひた走っていた。
いくら貴族といえど、国を跨いでしまえばそう簡単には追ってこられない。
急いでいて北門から出たので町を迂回するのに時間を食ったけど、この調子なら日没前には国境を越えられそう。
国境などの関所というのは日没で閉まってしまうことが多いので、その閉まる前に関所を抜けられるかというのが今の僕の生命線。
ちなみに調理服はいつまでも着ててもしょうがないので、北門に向かう途中で走りながら脱いで、門から出た所で放り投げてきた。
それにしてもソマリ男爵はムカデは駄目だったか。
山の方では食べる地域もあるって聞くけどな。
あとはこんな形で町を出てしまってアリサさんとユーナさん、ちゃんとお別れ言えなかったな。
残念だなあ。
そんなことを考えながら走っていると、そこに後方から怒声が飛んできた。
「あ、あそこにいた!」
「コタロウ貴様ぁぁああ!!」
「なんてことしてくれたんだぁ!!」
ひいぃ追っ手が追いついてきた!……と思ったら!?
「うわあっ!アリサさん!?ユーナさん!?」
つい今しがた思い浮かべていた2人が、物凄い勢いで追いかけて来ていた。
ユーナさんは短弓を手に持ってジャンパーを着た格好、アリサさんは大剣を背負ったジャケット姿で2人共鎧は着ていない。
「キミなら国境を越えて逃げるだろうと思ったよ!」
「お前のせいで私達まで指名手配だ!どうしてくれる!」
「指名手配って、なんで!?」
「お前を連れてきた責任だ!」
「そんな無茶苦茶な!」
「無茶苦茶でもなんでもお前が原因なのは事実だろうが!」
「ごめんなさあぁぁあい!!」
2人にポコポコと叩かれながら、もつれ合うようにして街道を走る僕達。
そうこうしてるうちに、前方にアト王国とクロウ共和国の、国境の関所の門前町が見えてきた。
場所にもよるのだけれど、ここのような大きな関所の周囲には、ちょっとした町のようなものが作られていることがある。
宿屋や雑貨屋、両替屋などがあって、隣の国に行く前の最後の準備が出来るようになっているのだ。
僕達はそんな門前町を走り抜け、社会的信用が高いということでユーナさんが持ってる3級ギルド証を振りかざして呆気に取られた衛兵の脇をすり抜け、両国の関所間の道を駆け抜けてこのまま一気にクロウ共和国へ――と思ったらクロウ側の衛兵に止められた。
「待て待て待て何だお前達は!何をそんなに急いでいる!?」
僕は走ってきた勢いもそのままに衛兵にすがりつく。
「ソマリ男爵に追われてるんですお願い通して!」
「あのごうつくばりにか!?お前達何やったんだ!?」
「ムカデ食わせました!」
「よくやった!通れ!」
「ありがとう!?」
いいのそれで!?ほんと嫌われてるなあの人!
そんなこんなでなんとか関所を抜けられた僕達。
3人で転がるようにして、クロウ共和国側にある門前町へと駆け出して行ったのだった。
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それでは次回、2章エピローグになります。




