表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/453

22. こんご の よてい

よろしくお願いします。

僕がルッツさんにボウガンを作ってもらってから数日が過ぎた。


僕は相変わらず訓練と料理と昼寝の日々。


変わったこととしては先日、シャルロットお嬢様がこの町での滞在を終えて領都シンカの町に向けて出発した。


ポールさんはじめその他護衛の騎士さん達も一緒に発ったことで人が減って、今僕が居る宿舎も少し寂しいものになっている。



アリサさんはというと、結局コモテに残ることになった。


ソマリ男爵から愛人として狙われていることは既に周知のようで、他の騎士さん達からの視線や噂話などでここ最近少し居心地悪そうに過ごしている。


僕もなんとか気を紛らわせようと色々やってみてはいるけど、あまり上手くいっているとはいえないところ。


先日なんて、気晴らしに怖い話をしようとしたら怒られてしまった。



それにアリサさんやユーナさんのことも心配だけど、僕ももうそろそろ出立を考えなきゃいけない時期だ。


この町での用事はもう終わったわけだし、いつまでもこの宿舎にお世話になっているわけにもいかない。


とはいえこの状態のままここを出ていくのは、困っている2人を見捨てていくみたいであまり気分がよくないしなあ。


そうだ、いっそのこと僕と一緒に旅に出ないか誘ってみようかな?


2人共好きな人だから、もし僕と一緒に来てくれたらすごく嬉しいな。


なんだったら別に僕と一緒じゃなくても、あの2人が組めば冒険者パーティとして十分やっていけそうだし。


かといってあまり踏み込みすぎるのもどうかだから、時間がある時にでもほどほどに提案してみるか。


僕の方はここを出たらどうしようかな。


王都……はあんまり行く気にはならないから、南の国境を越えて隣国のクロウ共和国にでも行ってみようか。


ここコモテの町から国境までは、歩きでも数時間程で着くらしい。



クロウ共和国はその名のとおり共和制の国。


皇族や貴族ではなく、有力な商人や市民の代表者が政治をしているらしい。


話には聞いたことあるけど、実際どんな感じなのかちょっと興味がある。


前世の日本みたいな感じなんだろうか。


といっても、ニュースでやってた政治家の醜聞くらいしか覚えてないけれど。


あとはドラゴンのウロコなんかも手に入れたことだし、腕の良い職人さんを探して、武器か何かを作ってもらうのも良いかもしれない。


とはいえ物が上位竜の素材ということになると、気軽に街の武器屋さんにお願いするというわけにもいかない。


相当な技術を持った人でないと。


となるとやっぱり最高の鍛治技術を持つドワーフの職人さんか、魔力による加工技術を持つエルフの職人さんかな。


あとは激レア素材だから、その人が信用出来るかどうかも重要だ。


渡した素材を勝手に横流しされたりなんかされたらたまらない。



そうした腕の良い職人さんがいる所となると、軍事国家で武器の製造や開発が盛んそうなドルフ王国か、もしくはそれを上回る大国で魔人領とも交流があると言われているグランエクスト帝国になるだろうか。


でも軍による統制の厳しいドルフ王国だと、ドラゴンのウロコなんて出そうものなら即通報されてめぼしい物全部徴収なんてことになりそうで怖い。


となるとやっぱりここは帝国かな。



グランエクスト帝国はこの町の南にあるクロウ共和国の、更に南にある大国。


広大な領土と温暖な気候、豊富に産出される鉱物資源を背景に、この大陸の中では最大の国力を誇っている。


今から100年程前に起こった大陸全土を巻き込む大戦争では、ほぼ一人勝ちに近い状態で終戦を迎えたそうな。


ではバリバリの軍事国家で、国民への締め付けが厳しいかというとそういうわけでもなく。


むしろ多民族国家で他種族への差別意識などもあまり無く、人の出入りなどにもわりと寛容らしい。


エルフやドワーフが住んでいると言われる暗黒大陸とは海を挟んで領界を接していて、そこまで多くはないけど交易や人の行き来なんかもあるそうな。


そういう国なら腕の良いエルフやドワーフの職人さんもいるかもしれないし、もしかしたら職人の町みたいな所もあるかもしれない。


そしたらまずは帝国へ行ってみて、それから職人探しといこう。


出立は明日……はさすがに急だから明後日、明々後日ぐらいがいいかな。




そんなことを考えつつ前世の、自分は幽霊なんて恐れないという歌を歌いながら倉庫の奥で育てていた大量のもやしを炒めていた僕。


僕は幽霊には会ったことは無いのだけど、幽霊って冷蔵庫で凍るもんなんだろうか?


ちなみにこの世界、ゾンビなどのアンデッドは魔物の扱いになるけど、幽霊はあくまで死んだ人の魂という扱い。


巷に幽霊話はたくさんあれど、実際に見た人はあまりいない、という感じ。


除霊やらお祓いやらは聖職者の役目で、冒険者ギルドなどはたとえ凄腕の僧侶がいたとしてもそうした依頼は受け付けない。


昔は受けていた時期もあったらしいのだけど、問題が山ほど発生してそれ以来受注を止めてしまったのだそうな。




そうしているところに厨房に誰かが入ってきた気配がして、ちらと後ろを見るとそこには少し沈んだ様子のアリサさんが立っていた。


「コタロウ、少しいいか?」


「お化け~♪あっ怖い。……歌詞です!ただの歌の歌詞ですから!握りこぶしを振り上げないで!!」


鍋の蓋を盾に逃げようとする僕に、アリサさんは「やれやれ」と手を下ろす。


「いつもすまないなコタロウ。忙しいところ悪いが少し話があるので、手が空いたら私の部屋に来てくれ」


「失礼ですが人違いではありませんか。僕の名前はわさびです」


「ならそのわさびに話があるので部屋に来てくれ」


「失礼ですが人違いではありませんか。僕の名前はトンビリです」


「いいからさっさと来い!」


「えー」


「えーじゃない!」


よし、アリサさんが少し元気になってくれた。


……のは良いのだけど、なんとなく面倒事の臭いがする。

お読みいただきありがとうございます。


また、評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ