21. しんぴん の そうびひん
よろしくお願いします。
汚物表現があります。
ご注意ください。
僕がここ、コモテの町に来てからもうそろそろ1ヶ月になろうとしている。
あの3人で話した日の後、アリサさんとユーナさんはなんだかんだ理由を付けてソマリ男爵やギルドマスターを避け続けているようで、愛人がどうのという話に今のところ進展は無い。
その一方で、僕達もこれといって良い考えは浮かんでいないという状況。
ちなみにあの後僕が提案した「キスされようとしたところにゲ○ブッパ」「行為に及ぼうとしたところにオ○ラもしくはウ○コをブッパ」という案はアリサさんには即時却下されたけど、ユーナさんは「最後の手段として……」とわりと真剣に検討している様だった。
そして僕は何をしていたかというと、昼は訓練、夕方から食事作り、夜はアリサさんや騎士団の手伝いなどをして過ごし、時間が余ったら寝る生活。
せっかく騎士団の隊舎にいるので、たまに剣や槍や弓矢などを借りてきて練習もしている。
騎士団の人達は最初は、自分の武器じゃないのになんでわざわざと不思議そうに見ていた。
これはまあ、僕なりの予防というか、保険みたいなもの。
戦場で、武器が壊れたり落としたりするのはよくある話。
そんな時、咄嗟に近くにある別の武器を拾えたとして、目の前に迫る敵に「この武器は自分には使えないからちょっと待ってくれ」なんてことは言えない。
生き延びる可能性を少しでも上げるためにも、出来ることはやっておいた方が良い。
その考えを伝えると、アリサさんはじめ皆感心した顔に変わっていた。
ついでに火炎ビンについても新しい考えが幾つか浮かんだので、その作成と実験。
どんなのが出来たのかは、いずれ使用する時にでも改めて説明します。
「町の外で爆裂魔法をぶっ放してる奴がいる」と警備隊に通報されて取り押さえられて、警備兵さんと駆け付けてきたアリサさんに正座で説教されたのは反省ということで。
そして他には時々果物などを手土産に、ランドルフさんの工房へ進捗状況を覗きに行ったり、よく屯所を訪ねて来るようになったユーナさんに誘われて、ユーナさんと2人やアリサさんを含めた3人で街に遊びに出たりといった日々。
そしてそんな中、いよいよ頼んでいた服が出来上がる日がやって来た。
「明日には仕上がりますので取りに来て下さい」とランドルフさんに言われてその日一晩眠れない夜を過ごした僕。
次の日の朝一で身支度を整え朝食を流し込むと、そのままランドルフさんの工房に駆け付けた。
工房を開ける前から入り口の前で張り込んでいた僕を見たランドルフさん、苦笑いしながら僕を中へ入れてくれる。
「こちらになります」
部屋に案内された僕の目の前にあったのは、テーブルの上にきれいに畳まれて並べられたジャケットと……あれ、なんか他にもいっぱいある?
僕がランドルフさんを見ると、彼女は「張り切り過ぎてしまいました」と申し訳なさそうに言った。
まずは虎縞のジャケットが2枚、1枚は黒色を主としたもので、もう1枚はやや銀色が勝ったもの。
それからロングコートが1枚、黒色を主に背中側を右肩から左の腰にかけて走る3本の銀色縞模様が、トラの爪痕みたいでかっこいい。
それからバンダナとグローブが3枚づつ。
これはどちらも黒色を主として、所々に銀色をあしらったデザインになっている。
ランドルフさんの話では、僕が持ち込んだシャドウタイガーの皮が、頭を除いた一頭分丸ごととそこそこ大きな物だったので、作るのがジャケット2枚では結構な量が余る。
なのでその余った分に関しては、ランドルフさんに任せるという話は持ち込んだ時にしていた。
で、聞けば僕が小柄な体型なのもあって予想していたよりも多量の皮が余った。
それならば戦闘スタイルには合わなくても他に使い途はあるだろうと、今流行りのロングコートを仕立ててみたのだそう。
後はその残りをバンダナとグローブにしたと。
服を仕立てるのに1ヶ月って、結構短期間だと思うのだけどよくもまあと思ったらランドルフさん「作業していたらなんだか楽しくなってきてしまいまして。良い経験をさせていただきました」と笑っていた。
何でも知り合いの職人さん達にも手助けを頼み、ここ数日ほぼ完徹状態で仕上げたのだそうな。
それならば追加料金が必要と金貨を渡そうとすると、ランドルフさんは首を横に振る。
「シャドウタイガーという本当に珍しい素材を扱わせていただきましたし、残った分をいただけるということで、これで十分です」と、残金の銀貨5枚しか受け取ってくれなかった。
ランドルフさんにお礼を言って工房の外に出たけど、時間はまだ昼前。
それならばと、この間ボウガンの改良を頼んだ武器屋に行ってみることにする。
確かあれもそろそろ出来る頃だったはず。
ちなみに受け取ったジャケットやらコートやらは、今はまとめてマジックバッグに入れてある。
あの嫌なギルドマスターにシャドウタイガー絡みで因縁付けられても困るので、これを着るのはこの町を出てからにするつもりだ。
特に急ぐわけでもないので、昼が近くなってきて朝よりも活気が出てきた街を、武器屋に向かってぶらぶら歩く。
普通に歩くよりも少し時間をかけて武器屋に着くと、カウンターの店員に前回ボウガンの改良を頼んだことを伝えて、職人のルッツさんを呼んでもらう。
少しして奥から出てきたルッツさんは、店の壁際に並べてあった客に商品の説明をするための小さなテーブル席で、持ってきたボウガンを僕に見せてくれた。
流石は職人さん。
僕の手作り感満載、言い換えれば子供のおもちゃ的な外見だったボウガンと比べて、遥かに本格的な作りをしている。
「やっぱり本職の仕事は違いますねえ」と感心する僕にルッツさんは「僕なんかまだまだです」と笑って、早速ボウガンの説明を始めた。
「使い方については問題無いと思いますが、基になっているのが一般女性の護身用で取り回しと軽さを主にした物なので、やはり射程と威力は普通の物と比べて落ちます。気になるようなら後で試し撃ちして確認してみて下さい」
あとは僕の希望通りに基本的な作りはごく一般的なもので素材なども特別な物は使ったりはしていないので、ボウガンを扱う店に持っていけば問題なく手入れなどはしてくれるだろう、とのこと。
「それからご要望にあった引き金を引いても発射されない仕掛けなんですが」とルッツさんは引き金の側に付いているリングを示した。
「今の状態では……見ての通り引き金が固定されて動かなくなっていて引けません。で、このピンを引き抜くと引き金が動いて発射されるようになります。で、使わない時はこのピンをまた元の場所に差し込むと引き金が固定されます」
なるほど、これならけっこう簡単に撃つ、撃たないの切り換えが出来るな。
撃つ時にどうしても一手間増えてしまうけど、そこは仕方ない。
後で試し撃ちの時に確認して、今後はこの安全装置の解除も込みでボウガンの練習をしよう。
腰から抜いて人指し指でピンを引き抜いて撃つのを、一動作で出来るくらいにはしときたいな。
それからルッツさんは安全装置の細かな仕組みについても教えてくれようとしたけど、それについては基本的な分解組み立てと手入れのやり方だけ確認して、あとは遠慮した。
職人でない僕には専門的な説明はわからない。
他の注意としては、これはあくまで試作品の段階なので安全装置といっても当てにしすぎは駄目。
必ず取り回しには気を付けることと、前に言っていた矢を装填した状態での携帯は部品があっという間に劣化するのと、何よりも危険なので出来ればやめた方がいいという説明を受けた。
「それからなんですが」と、少し身を乗り出すルッツさん。
「このコタロウさんが言う安全装置なんですが、非常に画期的なものだと思います。他の職人達や店の主人も興味を示してまして、出来ればこれを本格的にうちの店で商品化させていただきたいんですが、いかがですか?」
へえ、そんなことになってたか。
僕としては特に異存は無い。
使い手にとって少しでも安全なボウガンが出回るようになるなら、それは良いことだ。
「ええ、かまいませんよ」
「本当ですか、ありがとうございます。それで、この原案の対価としてはおいくらくらいお支払いしたらいいですか?」
アイデア料か、アイデア料って言われてもな。
あ、そうだそれなら、
「原案といわれても、僕はこういうのがあればいいなって言っただけで形にしたのはルッツさんですから……それじゃこの作ってもらったボウガンの後金タダにまけて下さい」
「はあ、それはかまいませんが、その程度でいいんですか?」
怪訝な顔になるルッツさん。
「はい、それでいいです。あ、それからせっかくなので、このグリップに入ってるお店の屋号の隣にでもルッツさんの名前と、あとエンブレムか何か入れてもらってもいいですか?」
「え、ええ。そんなので良ければすぐにやらせていただきますが……」
「かっこいいのにして下さいね」
◇
「なあ……これ、大豆だよな?家畜のエサの。しかもまだ青いし……食えんのか?」
「当然です。こんな美味しいものが人様の口に入らないなんてバチ当たります。まだ青い大豆のことは『枝豆』って呼びますので覚えておいて下さい」
「枝豆ねぇ……やたら大量に買って来ちまって、しかも宿舎にいた騎士総出で皮剥かせて……」
「今日は枝豆のフルコースですよ。まずは塩茹で、茹でて冷ましたのと熱いままのとあります。それからスープ、すりつぶした枝豆をミルクと出汁で伸ばしました。次に枝豆の塩焼き。ニンニクと炒めたのと、コーンと一緒に炒めたのもあります。あとこれは枝豆とナスと肉と合わせて麦粉でとろみつけて出汁で煮た物。最後に倉庫の奥からいつのかわかんないけどチーズが出てきたので、枝豆とタマネギと合わせて和えてみました。お酒に合うと思いますが、そちらは自前でお願いします」
「まあ美味そうには見えるし、お前のことだから大丈夫だとは思うんだが……大豆か……」
「何事も挑戦です。皆が食べないなら僕が食べますよ。あと、大豆を使って倉庫の奥でちょっと仕掛けを作ってますので触らないでくださいね」
お読みいただきありがとうございます。
また、評価、ブックマークなどいただき誠にありがとうございます。
新ボウガンの件、ただより高いものはないとは良く言ったもので。
コタロウが何を狙っていたのかについては、この章のエピローグあたりでのご案内になるかと思います。
また、序盤でコタロウが挙げていた下品な案については、江戸時代あたりにそういった詐欺行為があったらしいですね。
金持ち男性の愛人や妾になり、一緒に床に入った際に思い切りぶちかます、そして萎えて冷めた男性から手切れ金をもらって別れる、みたいな手口だった様です。




