18. ぐん の たいじ
7日目その1
本話からエピローグまで三人称視点となります。
よろしくお願いします。
ドルフ王国軍がアト王国ルシアン伯爵領内に侵攻してから10日目。
ドルフ王国軍は、遂にルシアン領都のウェイジャン市へ到達した。
ウェイジャン市は強固な防壁に守られた都市ではあるが、その周辺は広大な田園地帯であり、大軍が展開するのには容易な地形となっている。
ドルフ王国軍はウェイジャン市の郊外に展開し、市へ向けての攻撃の構えを見せる。
そしてウェイジャン市の防壁を守るルシアン軍の兵達に、そんなドルフ軍の様子に訝しさを感じた者は少なくなかった。
「町を……包囲してこない?それに……梯子も、攻城武器も出してこない?防壁を攻めるつもりが無いのか……?」
誰ともなしに呟く、ウェイジャン市方の部隊長。
5万を超える大軍をもってウェイジャン市の西側防壁に向かっているドルフ軍であるが、その構えは攻城戦ではなく、むしろ野戦を想定したものと見られた。
町方では城門が破られた場合に備えて門前広場に騎馬部隊が待機している他、町の外にも野戦部隊を伏せている。
ドルフ軍の布陣はそうした伏兵への警戒かとも思われたが、それにしても攻城の装備を出さないというのは、腑に落ちないことのように思われた。
そうして状況が動いたのは、ドルフ軍が部隊の展開を終えて、30分程してからのことだった。
雲霞のごとく平野を埋め尽くすドルフ軍の中から、3人の男が進み出る。
1人はベリアン侯爵、他に屈強な体格を重鎧に包んだ、初老の騎士が1人。
その2人に両脇を固められ、ミスリルであることを示す緑銀に輝く鎧をまとった年若い男が、1歩足を踏み出すと防壁に向かい大きく声を上げた。
「余はドルフ王国国王ベルマ・グレイード・ドルフである!ルシアン伯爵並びにその麾下の兵達に申し渡す!先日のルトリュー川における勇猛なる戦いぶり、誠に見事であった!しかしここに至っては、もはや貴公らに勝ち目は無い!今我らに下ればこの戦の後、伯爵として我が国に迎えることを約束する!応じねば完膚無きまでに町ごと滅ぼし尽くす!直ちに降伏せよ!!」
5万の軍を背にしての恫喝。
それに対してルシアン伯爵側の返答は無い。
防壁の上や町の中から、従軍依頼に応じたと見られる冒険者達の罵声が返ってくる程度である。
そんな様子に軽く息を吐いたベルマ王は、続けて声を張り上げる。
「重ねて告げる!降伏せよ!貴軍は籠城にて援軍が来るまでの時を稼ぐつもりなのだろうが、そのようなものが来る前にウェイジャンは滅ぶ!それは決して、兵力の差のみによるものではない!今からそれを見せてやろう!」
そう言うとベルマ王は町に背を向け、後方の平野を埋め尽くすドルフ軍、その上空へ向かって大きく手を広げた。
「我、ドルフ王国の大いなる守護者に願う!今こそドルフ王国の危急存亡の時なれば、その強大なる力を振るいて我が国を救い賜わんことを!来たれ、守護竜イルドアよ!!」
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