16. ぐんぎ の けっか
6日目その2
よろしくお願いします。
長ゼリフがあります。
喧々囂々の軍議の声に注意を払いながら、僕とユーナは今夜の仕掛けの用意をする。
カプーラの町の床屋から調達して来た人の髪の毛(出来るだけ黒いのを選別)を、陣内の各所に設置された水瓶の中に束で放り込む。
とは言っても、ここ数日僕達が水関係で仕掛けをすることが多かったので、兵士達の中にも水瓶の水を飲むのを嫌がる人が増えてきている。
その結果魔法を使える兵達に対して水を出してくれという要望が集中してしまい、彼らの疲労と共に兵卒間の空気もだいぶピリついたものになっている様子だ。
天幕の中では言い合いを続ける貴族達を、野太く、少ししわがれた男性の声が「止めぬか!!ここは軍議の場ぞ!相手を罵る言葉よりも作戦案を出せ!」と一喝して黙らせている。
この声の人が、アディールの言っていたキャバリアス将軍だろうか。
一瞬静かになった中で、何やら聞き覚えのある声が出た。
この声……そうだこの人、ベリアン侯爵だ。
「まずここは進軍し、ウェイジャンを落とすのが良いと愚考いたします。ウェイジャンに集まっている兵はおよそ2千〜3千、ドルフ軍の兵力5万をもってすれば、さほど時もかからずに打ち破ることが叶いましょう。大きな一勝を挙げさえすれば、兵も元気を取り戻すはず」
「そう言われるがベリアン侯爵殿。いかに敵が小勢とはいえ、城攻めは手間取るもの。それにルシアン伯爵は戦の始めより、姑息な搦め手を駆使して我らを翻弄しております。ウェイジャン攻めの際にも、また奇抜な策を講じてくる可能性が大いに考えられる。そうなればここへきて、さらに日数を浪費することにもなりかねませぬ。侯爵様は戦の始まりより、ルシアン伯爵の調略ではなく撃滅を主張されておられたが、ウェイジャンを落とす何か良い策はお持ちでいらっしゃいますかな?」
「さればルシアン勢は、これまでの奇襲を成功させたことや、ルトリュー川にて当方に一泡吹かせたことで意気が上がっておるものと思われます。ここはあえてウェイジャンを攻めず、町の前を素通りして見せるのはいかがでしょう。敵はルシアン伯爵領軍に、近隣の小貴族の小勢が集まった烏合の衆。我らが背を見せれば、必ず血気に逸って打って出てまいります。我らはあらかじめ反転攻撃の態勢を整えておき、ルシアン勢が追って来て隊列が伸びているところを狙い反撃に転じて一挙に覆滅するのです」
「ふむ……悪くない案かと思うが、キャバリアス将軍はどうか?」
「ハ、私も妙案であると考えます陛下。ただし、ルシアン伯爵のここ一連の動きは侮れませぬ。誘いに乗ってこない可能性も十分考えられます。もしもルシアン勢が出てこなかった場合は、手前に兵5千をお貸しくだされ。急ぎウェイジャンを攻め落として後、陛下の後を追います」
「うむ。後背の憂いは断っておきたいところではあるが……いや、ここは策を弄せず、正面からウェイジャンを攻めることとする」
「正面から……ですか?しかしそれでは、日数が……」
「……あの方に、出ていただくのだ」
「あの方……まさか!?」
「あの方に出ていただければ、ルシアン伯爵など即座に白旗を揚げてくるだろう。それが最も早く片付く。あの方のお姿を見れば、兵達の士気も上がる」
「しかし、それは……」
「……これを機に、あの方が本当に我らのために動いてくださるのかを見極める。もしも確実に私の指示の下に動いてくださるのであれば、今後の事にもつながるだろう」
「……ハハッ、御意のままに」
「義父上様におかれては、先の戦にて多大な被害を受けておられる。ここは余の手勢より、2千の兵をお預けいたそう」
「ありがたき幸せにございます」
「よし、軍議はここまでとする」
……どうやら軍議は終わったようだ。
天幕から将達が出て来て見咎められる前にと、僕とユーナは急いで身を隠す。
やっぱり、ドルフ王国軍は進軍の腹か。
しかし聞こえた話では、ドルフ王国軍には何やら奥の手のようなものがあるみたい。
そんな話を、なんかどっかで聞いたような聞かなかったような……
そんなものが出てくるのなら、ウェイジャン市は大丈夫なのかな。
心配ではあるけれど、今は僕達の決めたことをやるしかない。
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。




