10. ぜつぼう の げんじつ
よろしくお願いします。
残酷な描写があります。
また、以前に登場した人物が死亡します。
「あ、あ……」
「酷い……」
「なんと……いう……」
クロベエに乗って、アト王国ルシアン領に侵攻するドルフ王国軍の後を追いかけた僕達。
夜を徹して空を飛び、明け方近くにベリアン領との領境を越えたところで僕達が目にしたものは、白んできた闇の中に黒煙の立ち上る領境近くの町、カプーラ市の光景……だった。
各所に火が放たれ、壊滅状態になっている市街地。
今の状況からして、ドルフ王国軍の襲撃を受けたのは間違い無い。
急いで町の中に入り、周囲を警戒しながらまだ炎の燻る市街地を捜索する。
クロベエは防壁の上に留まって、ただ黙ってルシアン領の領都ウェイジャン市のある方角を見つめている。
空から見た限りでは、町の周囲に軍勢の姿は見えなかったので既に撤収済みと思われるのだけれど、まだ火の手が残っている様子からして襲撃後まだ間もなさそうなので、まだ町中に敵兵が残っている可能性も無くはない。
そうして、人気の無い町中を見て回った僕達は、そこでさらなる衝撃を受けることとなった。
市内をざっと調べて僕達が見たものは、斬り捨てられた無数の男達の屍と、街の広場に面したノルト教教会の集会場に閉じ込められて火をかけられ焼き殺された、女性や年寄り、そして子供の姿。
そして、その集会場の近くで斬り殺されていた、1人の男性の遺体。
「ロホス……さ……」
僕が旅に出て間もなく、盗賊に襲われていたところを助けた人。
クレックス子爵領の領都ラヌル市に店を持ち、家族皆で行商にも出ていた商人だ。
そして、僕のことを最初に今の名である『コタロウ』と呼んでくれた人。
呆然と言葉を失くす僕に、一緒にいたユーナが声をかけてきた。
「コタ……知り合い?」
「盗賊から、助けて……お礼にって、この……マジックバッグ、くれて……」
ラヌル市でロホスさんからもらったマジックバッグは、今でも僕の腰にある。
……待てよ?
そうだロホスさん、奥さんのマリーノさんと、娘さんのアンナさんも一緒に行商に出てて……まさか!?
思わず振り向いた僕の目の先には、既に倒壊し、ところどころに火が燃え残っている集会場。
「そん……な……」
2人共、あの中に……?
ロホスさん一家だけじゃない。
ここの市長のマンカン卿、彼の遺体もまた、広場の中にあった。
温厚で、笑顔を絶やさない人だった。
災害で町に大きな被害が出た時は、市民のためにためらい無く自身の蓄えを吐き出し、僕が支援物資を届けに行った際は「素寒貧暮らしも良い経験です!」なんて笑っていた、民を思う良い市長だった。
ここの町の人達もまた、僕がパトロールで訪れた際には笑顔で歓迎してくれた。
皆、良い人達だった。
皆……殺されちゃったのか……
ここにきて、とうとう僕の足から力が抜けた。
「コタ!」
地面に崩れ落ちた僕の肩を、ユーナが支えてくれる。
そこに、後ろの闇の中から声がかかった。
「コタロウ、ユーナ、どうした?大丈夫……っ!これは……まさか!」
どうやらアリサも、この場で行われた惨劇に気づいたようだ。
「なんていうことだ……」
アリサはもはや建物の形を成していない集会場を愕然と見上げるも、すぐにぎりっと歯を食いしばり、押し殺した声でユーナに尋ねる。
「コタロウは、大丈夫なのか?」
「うん……そこで亡くなってる人、コタの知り合いなんだって。それにこの町、元々コタの家の領地だから……コタ、この町の人達とも……」
「そうか……そうだな……」
アリサはかすれた声で呟くと、座り込んでいる僕の頭をそっと撫でて、ユーナに話を続けた。
「今ざっと周りを確認してきたが……どうやら、遺体があるのはこの町の中だけだ」
「……どういうこと?」
「見たところ、防壁や門の周りで戦いがあった様子が無い。それに門前の広場に、叩き折られた白旗が落ちているのを見つけた。おそらくこの町、1度敵に降伏をしている。そこで町の中に兵が入ったところで襲撃されたんだ」
「降参したのに攻め込んで来たってこと!?どうして、そんなこと……」
「おそらく、食糧を奪うためだ。1度降伏してるということは、この町の人達は敵軍を町に入れて、差し出せるだけの物は差し出したんだろう。だが敵にとってはそれでも足りず、限界までか、もしくはそれを超えて奪おうとしたんだろうな。そうなれば当然、町の人達は抵抗する。それで……」
「こうなっちゃったんだ……ってことは、今のドルフ軍には、食糧が足りてない……?」
「ああ、元々国内の内乱のために集めた軍勢をそのまま外国侵攻に向けているから、補給の構築が十分じゃないのかもしれない。だから現地調達……略奪で、食糧を確保しようとしているのか。しかし……これが騎士のやることか!!」
話しているうちに激したアリサが、怒りにまかせて声を吐き出す。
2人の会話が途切れたところで、僕はゆっくりと立ち上がった。
まだあまり身体に力が入らないけど、なんとか動ける。
「コタ……?」
「大丈夫……か……?」
「……うん」
僕は2人に小さく頷くと、続けて言った。
「少し……休もうか」
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