17. どらごん に ついて
よろしくお願いします。
今回もまた説明回になります。
ドラゴンの姿形や空飛べる・ブレス吐けるなどの基本的なことについては、今さら説明するまでもなく皆さんよくご存知のことだと思うので、今回はこの世界に生きているドラゴンの特色について、簡単に解説します。
この世界のドラゴンは一応形の上では魔物という扱いになっている。
もちろんというかなんというか、ランクは全て特級認定。
ただし僕が出会ったオブシウスドラゴンのように、明確に意志疎通が出来るものもいたり、中には人間よりも高い知能を持っていたり、地域によっては信仰の対象とされていたりと、通常の魔物とは一線を画す存在だ。
なので単純な魔物のように「魔力を持った凶暴な獣」ではなく、魔物という概念のさらに上位にある存在、という見方をするのが基本的。
そんなドラゴンなのだけれど、実はドラゴンにもそれぞれランクのようなものがあって、その強さによって上位・中位・下位と分類されている。
例えば僕が今回出会ったのは闇の魔力を持つドラゴンだったのだけれど、闇の場合は下位がダークドラゴン、中位がブラックドラゴン、そして上位がオブシウスドラゴンという分類になる。
これが例えば火の魔力を持つドラゴンだった場合は、下位がフレイムドラゴン、中位がレッドドラゴン、上位がルビードラゴンということになる。
どうやって見分けるのかというと、身にまとった魔力の色。
この世界にただ2種、ドラゴンとスライムだけは保有する属性の魔力に色を持つ。
火の魔力を持っている者は赤、水の魔力を持っている者は青、風の魔力を持っている者は緑、地の魔力を持っている者は黄といった具合。
そして魔力が強ければ強い程、その色は眩く、美しく輝くようになるという。
だから上位の竜には、宝石や鉱石の名前が付けられているというわけ。
これはスライムも一緒。
他の生き物、人間や魔物などにはそういったことは無く、水の魔法を使っても身体が青く輝くなんてことは無い。
何故かドラゴンとスライムだけがこの魔力の特性を持つ。
今回僕が出会ったドラゴンは身がすくむ程に凄まじく、そして直視出来ない程に眩しく、しかし見とれる程に美しい濡羽色の魔力を身にまとっていた。
だからオブシウスドラゴンと判断したのだけど、おそらく間違ってはいないと思う。
当然そんなドラゴンの素材ともなれば、下手したら国家予算が動く程の価値を持つ。
でも欲にかられてそれを手に入れようと、ドラゴンを敵に回した者がどうなるのかは言わずもがな。
下位竜であれば特級や1級の冒険者がパーティを組んだり、国を挙げての討伐で倒せた例もあるらしいけど、上位竜ともなれば長い歴史の中でも人間が倒せた例というのは1つだけ。
今から100年程前に起こったという、ラネット神聖皇国での邪竜討伐だ。
愉悦目的にこの大陸の各地を荒らし回っていたというルビードラゴン『クレッセントフェイス』に対し、ラネット神聖皇国を盟主とした多国籍軍が結成され討伐にあたったというもの。
その戦いでは最終的に連合軍の半数が壊滅し、皇国から現れたという聖剣を持った勇者が自分の命と引き換えに討伐に成功したという。
実際上位竜の力は、真に解放されればブレス1発で国1つが消滅するとまで言われている。
ドラゴンの怒りを買って滅ぼされた昔の国の話などは、物語としてはかなりポピュラーな部類だ。
僕も物語としては読んだりしたことはあったけど、アレを目の当たりにした今ならそれも事実と納得出来るというもの。
そんなドラゴン達だけれど、では総じて危険な生き物なのかというとそういうわけでもない。
最初僕があのドラゴンと出くわした時、襲われるのを警戒したのは下位竜だと思ったため。
下位竜であれば、いわば魔物同然で好戦的なのも多く恐れられていて、実際に冒険者ギルドに討伐依頼が出されることもあるらしい。
その一方で上位竜や中位竜になると、むしろ争い事を好まない者が多くなるのだそう。
まあ中には『クレッセントフェイス』みたいな邪竜の例もあるけど、歴史の中で邪竜認定された上位竜なんてのはその1体のみで他にはいないので、それは例外中の例外だ。
そもそも上位竜や中位竜が人間の前に姿を見せることは物凄く珍しい。
下位竜はわりとそうでもない。
上位のドラゴンになると人の言葉を話せる者も多くなるということもあって、言い伝えなどではその恐ろしさよりも、変わった行動や人との交流を伝えるものの方が多かったりする。
有名なのでは、昔とある王国の王城の城門前に、ある日突然中位竜が現れて何事かと思ったら「素材狙いや腕試しの人間にここ連日襲われててうざいんだけど、なんとかしてくれない?」と頼んできた話とか。
ちなみにその国では、頼みを受けた当時の国王が『敵意の無いドラゴンに一方的に攻撃を仕掛けた者は、命じた者も含め身分問わず厳罰に処す』という法を制定し、中位竜がお礼として残していったウロコが現在でも国宝として城に保管されているそうな。
他にも、ここから遥か西のオウキという国のカモン湾という場所でのドラゴンとクラーケンの激闘の話や、本当かどうかわからないけど、生まれてから寿命で死ぬまでずっと眠り続けてた、なんていうドラゴンの話もある。
そしてそんなドラゴンを、力の象徴として崇めている国や軍隊というのも珍しくはない。
国や貴族などではドラゴンを象った紋章を掲げていたり、傭兵団や冒険者パーティなどでは名前が『竜の〇〇団』とか。
そんなドラゴンを崇めている国の身近な例がドルフ王国。
実はあの国、洒落でも例えでもなく本物のドラゴンがいる。
いるのは光属性の中位竜、ホワイトドラゴン。
名前は『イルドア』
何でも500年かそこら昔にドルフ王国の王族がイルドアを助けたことがあり、恩に感じたイルドアが国を守護する竜として、それ以来ずっとドルフ王国に滞在しているのだそう。
いつもはドルフ王国の王都バインスを望む霊峰レトバ山に住んでおり、滅多に人前には姿を見せることはないという。
当然僕も実物を目にしたことはない。
人間同士の戦争に手を貸してくれたりすることはまず無いらしいのだけど、それでもその存在はドルフ王国に敵対する国にとっては脅威の一言だ。
先代のドルフ王が周囲の国に侵略戦争を仕掛けまくっていたのも、危なくなっても最終的にはイルドアが助けてくれる、なんて考えがあったからなんて話もある。
結局確認出来る限りではイルドアが戦場に出てくることは無かったみたいだけど、自分達にはドラゴンがついている、という思いはドルフ王国人の心の支えであり、ドルフ軍の強さの源にもなっているらしい。
以下余談。
ドラゴンとは別に、この世界には『竜人』という人達もいる。
簡単にいえば、「ドラゴンに変身できる人」といったところ。
厳密にいうとドラゴンとは違うみたいなのだけれど、詳しいことはわからない。
というのもこの人達、数が少ない上に非常に排他的で、人間を含めた他の種族の前に姿を見せるということがほとんど無いのだ。
竜人のほぼ全員はこの世界の南の果てにある『レウス島』という島に住んでいて、基本そこから全く出てこず、他と交流を持とうともしないんだそう。
他にわかっているのは、彼らは上位竜を崇拝の対象としていることくらい。
当然僕は今までに会ったことなんか無いし、会ったことがあるという話も聞いたことが無い。
まあこれは、僕が先日実際に会った上位竜にも言えることなんだけれど。
他にもこの世界にはエルフやドワーフや獣人や魔人と色々いるのだけど、その話はまた改めて。
今回僕は上位竜に遭遇するという珍しい体験をしたわけだけれど、さすがに今後また上位竜に出くわしたり、竜人に遭遇したりなんてことはもう無いだろう。
もう無いだろうと……思うのだけれど?
お読みいただきありがとうございます。
また、評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。
説明回が続いてすみません。
今後しばらくはなくなりますので、ご容赦ください。
少し話が出てきたエルフやドワーフ、獣人や魔人ですが、当面登場予定はありませんのでご了承ください。
昔から何度も何度も迫害や種族間戦争などを繰り返してきた結果、現在はほぼ完全に棲み分けになっているという状況です。
獣人は大陸北部に跨がる急峻な山脈を越えたさらに北の大森林地帯に、魔人、エルフ、ドワーフは大陸南部のグランエクスト帝国のさらに海を越えた南の暗黒大陸に暮らしています。
たまに人間の領域に来て冒険者などをやっている者もいますが決して多くはなく、今コタロウがいる大陸西方中央部ではまず見かけることはありません。
グランエクスト帝国南部の海沿い地域では魔人領域と領界を接していることもあるので、彼らの姿を目にすることはままあります。
また、技術のある者は優秀な職人として、帝国の庇護の下仕事をしている人達もいます。




