2. しんこう の りゆう
よろしくお願いします。
「しかし……一体なぜ、そんな急に戦争など……」
話を聞き終えて、嘆息する僕達。
そんな中で呟かれたアリサの言葉には、グロッタさんが硬い表情を崩さずに答える。
「おそらくは、この度の内乱で割れた国内をまとめるための行動ではないかと思われまする」
「ああ、なるほど……」
そういうことか。
思わず声を漏らした僕に、周りの皆がちらりと目を向けた。
今回のドルフ王国の内乱、形の上ではベルマ王子の勝利ということに、一応はなっている。
しかしその実情はというと、相手方とは終始睨み合うのみで本格的な衝突にまでは発展すること無く、そうこうしているうちに敵陣営のトップの突然の講和申し入れにより乱は収束してしまった。
双方戦で被害が出ることも無く、先方が事実上降伏してきているのだから良いじゃないかという気もするのだけれど、それでああ良かったと終わらないのが戦というものの厄介なところ。
今回の内乱でベルマ王子陣営と敵対していたシエード王子陣営に一切の損害が無いということは、つまりはベルマ王子が王位を継ぐことに否定的な考えを持つ不満分子を、政権内に丸ごと抱え込むということになってしまうのだ。
まあ今すぐにはないにしても、追々何かしら理由を付けてそうした人達の力は削いでいくとは考えられるのだけれど、それにしたって危険な火種であることには変わりない。
さらには今回の内乱で、ベルマ王子陣営が得たものというのが、王の椅子以外に無い。
せっかくベルマ王子陣営に参加した貴族達に、恩賞としてあげるものが無い。
軍なんてものは、出動させるだけでも莫大なお金がかかるもの。
貴族や騎士達が王の命に応じて大金と命を懸けて戦うのは、その忠義心もあることながら、戦で手柄を挙げればそれだけのご褒美がもらえるという期待があればこそ。
戦には勝ったものの、家臣達に満足な恩賞を与えられなかった王家から相次いで人が離反し、結果として国が滅んでしまったなんてことも歴史上あったことだ。
もしかしたら、ベルマ王子陣営の中でも王子に対する不満が高まっていたのかもしれない。
そんな状況の中でベルマ王子か、もしくは派閥の首脳陣か誰かが考えついたのが「外に敵を作ってそれを討伐し、家臣達に与える恩賞をその敵のところから奪い取ってくる」という、いかにも軍事国家らしい案だったというわけか。
しかし……
「それは、ダメでしょう……」
「左様でございますな」
僕の呟きに、グロッタさんは頷きを返す。
そう、これははっきり言って悪手である。
内乱で傾いた自国を、他国に戦争ふっかけて強奪した財で立て直すなんてのは非理非道。
政権のみならず、国の歴史に汚点を残す。
戦をしかけられた国だけでなく、周辺国からの信用も一気に失くす。
経済制裁をくらうとかだけならまだ良い方。
下手したら呼応して兵を挙げたり援軍要請を受けたりした周辺の国とも戦争状態になり、最終的には泥沼の世界大戦に、なんてことだってあり得ないとは言い切れない。
僕の言葉に、硬い表情を崩さずに首肯するグロッタさん。
とはいえ、とここで僕は気を取り直す。
「でもまあ、ドルフ王国がアト王国に侵攻したとするなら、おそらくはシュフォール街道を進軍することになると思います。であれば国境を守るのは武勇で鳴らしたベリアン侯爵家。ドルフ王国といえど、そう簡単に抜けるものではないでしょう。今ごろは国境付近の……アンブル峠辺りで交戦中といったところですか?足留めが出来ているなら、そのうちにアト王家の本軍や、近隣領主からの援軍も……」
「いえ、ドルフ王国軍は既にベリアン侯爵領を通過し、現在は隣領のルシアン伯爵領へ侵攻している模様にございまする」
「はあ!?」
◇
「それにしてもマグダレナさん、いくら我々がお抱え冒険者の立場とはいえ、国政に関わることをこんなに詳しく話してしまって良いのですか?」
「ああアリサさん、いえね?皆さんがアト王国の出身ということは聞いていますし、マリアネーラ様が『彼ら……というよりも彼は、下手に隠し立てすると勝手に動いて面倒なことになる可能性がある。それであれば包み隠さず話してしまった方が、勝手に動くにしてもこちらの利益を考えてくれるかもしれない』と」
「……何て言うか、本当にすみません……」
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