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1. じょうきょう の せつめい

よろしくお願いします。

「ドルフ王国がアト王国に侵攻って、一体何が!?」


「皆様はアト王国の出身、コタロウ殿は貴族の家の出でしたな……お聞き及びの通りにございます。現在ドルフ王国軍が、国境を越えてアト王国内に侵攻しております」


「でも、どうしてそんな、戦争なんて!?」


「落ち着きくだされ。まずは我らが知り得ていること、順を追ってご説明いたしまする」



ヴィスライト領と名の変わった旧デナエクスト領の領都クリクピナス市に、緊急の報が届いてから2日後。


僕達がやきもきしていたところに帝都ザシオーンから、グロッタ・ジャン・カーム、マグダレナ・マク・カームという、初老の夫婦がクリクピナス市に到着した。


このグロッタさんとマグダレナさんという人は、夫婦でマリアネーラ様の秘書の仕事をしていた人達。


マリアネーラ様が視察などで帝都を離れる際は、その政務を全面的に代行する役目もしていたらしい。




国内が次期王座を巡って、第1王子のシエード陣営と第2王子のベルマ陣営の2つに分かれ、互いに軍を出動させての睨み合い状態となっていたドルフ王国。


その乱が終息してベルマ王子が国王として即位したとの話がクリクピナス市に届いた後、間髪入れずにやって来た「ドルフ王国が、5万の軍で隣国アト王国に侵攻」という知らせ。


当然の話、この知らせにアト王国を故国とする僕とアリサとユーナはびっくり仰天。


大慌てで状況確認に館を飛び出そうとするところを、オースティンさんやビュートさん他館に詰めているマリアネーラ様の家臣になる予定の人達に取り押さえられ、半ば軟禁状態で追加の情報を待っていたところに、グロッタさんとマグダレナさんが到着したという経緯だった。



てかドルフ王国とアト王国が戦争って、ベルマ王子に嫁いだ僕の幼馴染のアディールは何をやってた!?


こういう事態を防ぐための婚姻じゃなかったのか!?




グロッタさんは詰め寄る僕を制し、静かな口調で話し始めた。


「まずは先日、帝城エルドパレスをドルフ王国のシエード王子が訪問されていた、というのはご存じですかな?」


「それは……ドルフ王国から王族の方が来たとだけ。シエード殿下だったんですか」


この度の内乱まで身体が弱いということで表には出てきていなかった、ドルフ王国の第1王子である。


「はい。緊急のご訪問であったのですが、その要件といいますのが、『現在ドルフ王国内で睨み合いの状況にあるシエード陣営とベルマ陣営の、講和の仲立ちをしてほしい』というものだったのです」


「他国に、自国内の騒乱の仲立ちを要請する?」


「まあ、極めて珍しいことではございますな。自国内で起きた問題を解決する能力が無いと、他国に白状するようなものですからなあ」




シエード王子が、生まれつき病弱だったというのは本当の話。


それに本人の控えめな性格も合わさって、幼少の頃から軍事面においてはまったく期待をされていなかったのだという。


今回の王様崩御に伴う後継者問題においても、軍部の専横に反目する文官や文治派貴族に旗頭として祭り上げられてしまったものの、本人としては弟のベルマ王子が王位について自分はそれを補佐するという体制でも、まったく問題は無かったことのこと。


とはいえシエード王子が戸惑っているうち、あれよあれよという間に事はどんどん進み、ドルフ王国内のシエード王子文治派と、ベルマ王子武断派が軍を出動させての睨み合いにまで発展してしまった。


文治派と言ったところで、それなりに武力は持っている。


数だけで言えば、ベルマ王子の派閥を上回る兵力がシエード王子の下に集まった。


シエード王子としては血が流れるのは望まない、軍部が幅を利かせているといっても文官がいなければ軍だって立ち行かないのだから、ここは一旦武器を納めて和解すべき、至らぬところは内部から変えていくのだと説得はしたものの、理解を示してくれたのは側近を含めた一握りのみ。


このまま戦端が開かれてしまえば、国を2つに割っての内戦一直線、そうなれば他国が付け入ってくる可能性もあるし、何より民に被害が出る。


そう考えたシエード王子は、苦肉の策で信頼出来る者数名と共に陣営を抜け出しザシオーンまでやって来た。


そうして帝城エルドパレスを訪問し、帝国に両陣営の仲立ち、というよりも正しくは講和のために、シエード陣営強硬派の押さえを要請してきたとのことだった。




「そんなことに、なってたんですか……」


「はい。帝国としては、ドルフ王国に貸しを作る良い機会です。また、先方から救援の要請があったということであれば、これは介入の大義名分となります。軍事支援ではないので、軍勢を出して戦に加わる必要もありませぬ。なので……」



シエード王子の要請を受け入れた帝国政府は使節の派遣を決定。


帝国第2王子であるイライジャ・オルドス・グランエクスト殿下を大使とし、シエード王子を擁した使節団が帝国中央軍の最精鋭1500騎と共にドルフ王国へと急行した。


自らの陣営へと戻ったシエード王子は、陣営の主たる者達に、これ以上の乱の拡大を望まないこと、自身はベルマ王子に講和を申し入れることを宣言。


当然陣営の貴族達からは反対の声が上がったものの、それらを後ろに控えた帝国軍の威圧で押さえつけると、シエード王子はそのままベルマ王子の陣営に出向いて講和の申し入れを行った。


講和といっても、事実上の降伏だったようだ。



シエード王子は自身の首と引き換えに、陣営に参加した者達の容赦を嘆願。


結果、一命を許されたシエード王子は王籍を剥奪され、ドルフ王国北部のメラニアン山中へ軟禁の措置となったという。


これにて乱は終わりとなり、参加していた貴族達には戦闘行為の停止が下命。


シエード王子陣営参加者の処遇についても王子の嘆願が受け入れられた形で、また王子に同行してきていた帝国軍の後押しもあって、一部略奪行為に及んでいた者以外は皆お咎めなしとの措置になった。


甘い処分のようにも思えるのだけれど、国内を2つに割る規模の大乱だったということで、シエード王子陣営に参加していた貴族達は単純に見て国内全体の約半分。


しかも文官畑の人達が多い。


これを敵陣営に参加していたからといって片っ端から処罰してしまうと、政府の運営をする者が一気にいなくなってしまいドルフ王国自体が立ち行かなくなる、という判断だったのではないかと思われる。



事が終わり、シエード王子を送って来た帝国軍の帰国も済んだ後、ベルマ王子は改めて自身のドルフ王国42代国王への即位を宣言。


そしてその数日後、ベルマ王は、突如として隣国アト王国への侵攻を発表した。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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