16. でんせつ の おきみやげ
よろしくお願いします。
いや~凄いもの見ちゃったな。
ドラゴンが飛び去って、少し経ってからようやく我に返った僕。
ドラゴンに会うなんて、普通はまず出来ない体験だ。
冗談抜きで国を滅ぼせる力を持つ相手。
ひとつ機嫌を損ねれば即座に消し炭にされてもおかしくなかったけど、今は機嫌が良かったのか元々温厚な性格だったのか。
最初からわりと友好的な態度ではあったな。
ドラゴンの中には、人間なんか見た途端にブレスブッパするようなのもいるっていうし恐ろしい。
オブシウスドラゴンのウロコなんて凄い物までもらってしまったよ。
こんなのレアどころの話じゃない、素材としては伝説級の代物だ。
僕が持ってる1枚の他に何枚か投げてきたけど、ひのふの……全部で4枚あった。
上位竜のウロコが4枚て。
どうしようかなこれ。
国に献上すれば褒美の大金か、下手したら爵位の2つ3つ軽くもらえそうな代物ではある。
とはいえ、今更国に仕えようなんて気にはならないしな。
またこれを扱える職人さんを探して、何か装備でも作ってもらおうか。
まとめて売り払うなんてことは、後の影響を考えると恐ろしくてちょっと出来ない。
これ1枚で一体どれだけのお金が動くんだろ。
あ、そういえばあのドラゴン、自分が寝てた場所をなんか指差してたな。
何かあるんだろうか?
もしかして片付けといてくれとか、そんな感じかなあ。
そんなことを思いながらドラゴンがいた跡を覗いてみると……げっ!?
そこで僕が見たのは、窪地の中に散らばった大量のドラゴンのウロコと、タテガミの毛だった。
もうやだ……
一体何なんですかあのドラゴン。
こんな大量のウロコと毛を僕にどうしろと。
ええ集めたよ目につく限り全部。
最初の4枚と合わせて300枚超えたところで怖くなって数えるの止めたけど。
それからタテガミの毛、一握りくらいずつ束にして集めて見たら採れる範囲で6束になりましたよ。
今現在目の前に積み上げて、その前にあぐらかいて眺めてますよ。
どうすれば良いのこれ。
ドラゴン素材を一度にこんな大量に世に出したら、下手したら世界大戦が始まるよ。
……いいやもう。
しばらく僕が隠していよう。
それで様子を見ながら少しずつ市場に流していこう。
死蔵するっていうのもそれはそれでどうかっていう気もするし。
はあ……戦ってもいないのになんかどっと疲れた……帰ろ。
僕はドラゴンのウロコと毛をマジックバッグにしまうと、来た方角に向かって森の中をとぼとぼと歩き出した。
特に道に迷うようなこともなく、来る途中で木々に付けてきた目印を頼りに、行きで歩いた所をそのままたどってワイバーンの襲撃場所に戻る。
そしてそこからまた1日程歩いて森を出た。
森の中は相変わらず静かなもので、鳥や獣の気配も無ければ魔物などに遭遇することも無かった。
森の生き物の脅威となっていたドラゴンが去ってからまだ間もないわけだから、この森に生き物達が戻って来るまでにはもうしばらく時間がかかりそうだ。
森をを出た後はコモテに向かう道をてくてく歩く。
乗り合い馬車の1つも通れば乗せてもらえないかと思ったけど、そこは馬車運の無い僕。
行き合った馬車は全部満席。
結局2日間程歩いてコモテの町に戻ることになった。
色んな意味で精神がすり減った遠出だったけど、それでもやっぱり町が見えてくるとほっとする。
夕方頃にコモテの北門に着いた僕は衛兵さんに挨拶して町に入って、宿舎に戻る前に市場の近くにある食堂で夕食をとった。
今日のところは宿舎に帰っても僕の分の食事は無い。
パン5個とシチュー3杯と茹で野菜山盛りと肉の串焼き8本を平らげていたら、もう大分暗くなってきたのでそのまま宿舎に帰ることにする。
20分程歩いて宿舎に戻り、玄関を入った僕はそこで大きな声で言った。
「ただいま帰りました!」
入口の警備の騎士さんに挨拶し、皆に迎えられて宿舎に帰った僕は、まず戻ったことの報告のためアリサさんの執務室へ。
ドアの前に立ってノックをすると返事があったので「コタロウです」と声をかけて入室した。
アリサさんは執務机に座って書類に目を通していたところだったけど、顔を上げて僕をみると笑顔になった。
「戻ったか、無事でなによりだ。それで、早速ですまないが森に何か異常は無かったか?」
「ええ、大丈夫です。ちょっとドラゴンがいたくらいで」
アリサさんの顔が笑顔のまま固まる。
「……ちょっと待て。今ドラゴンがいたと聞こえたんだが?」
「あ、大丈夫です。もういませんので」
「ああなんだ、もういないのか……じゃない!いたのかドラゴンが!?あの森に!?」
血相を変えるアリサさん。
「オブドラが1匹いたんですが、もうどこかへ行ってしまいましたので、しばらくすれば生き物も戻ってきて元の森になると思います」
「オブドラって……オブシウスドラゴンか!?上位竜じゃないか!」
「ですからもういませんから……」
狼狽えまくるアリサさんをなんとか宥めて、もうこの町の近くにドラゴンはいない、戻って来る様子も見た感じ無いということを30分程かけて説明する僕だった。
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次回はまた説明回になります。