11. ぎゃんぶる の じゅんい
よろしくお願いします。
「それで、昨晩カジノに行ったら?」
「はい」
「遊び過ぎてお金を使い果たしてしまったと?」
「はい」
「そして、私達に合わせる顔が無くて、黙って出て行こうとしていたと?」
「はい」
「嘘おっしゃい。あなた達、今朝はこの城での朝食に飽き足らず、高級ホテルの『蒼月楼』に行って朝粥のフルセットを平らげていたそうではないですか。お金の無い人にそんな真似が出来ますか」
「なお、コタロウ殿は海鮮粥と茹でパロールエビを、アリサ殿は油焼きパンと豆乳粥を、ユーナ殿はデザートのココナッツミルクメロンを、それぞれおかわりなさっています。マリアネーラ殿下」
「全部バレてる!?」
「まったく、油断も隙もありゃしない」
僕達と皇帝・皇后両陛下との会談があってから5日後のこと。
年が明け、新年のお祝いやマリアネーラ殿下の功績を称えるパーティーに次ぐパーティーで賑やかだった城内や豪勢だった食事(そうしたパーティーで出されたテーブル料理の残りが回ってきたらしい)も少し落ち着いてきた現在。
ズタボロ状態の僕達はアリサとユーナと3人して、部屋の床に正座して、マリアネーラ殿下の詰問を受けている。
何のことはない。
マリアネーラ殿下の家臣となることを一旦は了承したものの、思い直して逃げ出そうとした僕がアリサとユーナに取り押さえられ、それをさらに通りがかった帝国の大将軍に3人そろって取り押さえられ、マリアネーラ殿下の前に引き出されて現在詰問中とこういうことだ。
僕達を取り押さえた金髪長身超美人は、なんとこの帝国の第1皇女であるルルカティルダ・ヒーゼリア・グランエクスト殿下。
そして帝国軍極東部方面軍の総司令官という大将軍閣下だった。
なんでも早々と皇位継承権を放棄して皇宮からも退き、軍人としての道に邁進。
25歳という若さで大将軍の地位を拝命し、個人の武力においても帝国最強と名高いフィーデン・ガシン・ウェアエイン元帥と唯一真っ向から打ち合いの出来る人物という、とても凄い人だった。
そんなやたらと豪快な性格のルルカティルダ殿下は、せっかくだからせっかくだからと僕達を訓練場に連れ出し、模擬戦でボコボコにした後にマリアネーラ殿下の前に引き出して、そのまま愉快そうに笑いながら去って行ったのだった。
なお、昨晩僕達が市内のホテル地下にあるカジノに遊びに行ったというのは本当である。
初めて見たカジノ。
そのきらびやかな空間と、お客とディーラーとの間でやり取りされているたくさんのコイン。
ここでは1日に、一体どれぐらいのお金が動いているんだろう。
少しの間気圧されていた僕達だったけど、せっかくだからとちょっと遊んでみることにする。
どうせならとユーナの発案で、僕達3人で勝負をしようということになった。
勝負の内容は、僕とアリサとユーナがそれぞれ銀貨1枚ずつ持ってカジノでゲームをし、1時間後に手持ちに残っている金額を競うというもの。
その結果はアリサが1位で僕が2位、そしてユーナが最下位。
ダイスを3つ振ってその目の合計数が10より多いか少ないかというゲームに少額ずつ賭けて少しずつ金額を増やした人と、カードを交換しながら役を作るゲームに一気賭けしてあっという間に全額スッた人。
意気消沈した様子で紙に一筆『もうギャンブルはしません』と書いて、僕達に差し出してきたユーナだった。
ちなみに僕、2位と言えば聞こえは良いが、なんのことはない。
カジノで行われているたくさんのゲームに目移りしてどれをやろうかひたすら迷っていたら、何もしないうちに制限時間が来てしまったという、それだけのことである。
「今回のみは不問としますが、もし次に似たようなことをしたら容赦しませんので、そのおつもりで。わかりましたね?」
「はい、申し訳ございませんでした……」
僕に顔を近づけて念を押してくる殿下に、うなだれて頷く僕。
そんな僕達を、横から苦笑を浮かべて見ていた3人が前に進み出て頭を下げた。
「何から何まで、本当にお世話になりました」
「いえいえディーンさん。それよりも、ディーンさんとタチアちゃんは今後はどうされるんですか?」
「クイイユのタダツ親方と連絡が取れました。『鍛え直してやるから、いつでも戻ってこい』と言ってくださったので、1から修行をやり直そうと思っています」
「それは良かった。でもそうなると、タチアちゃんは……?」
「私がいない間は、プレセアさんが面倒をみてくれると言ってくれています。彼女には迷惑をかけてしまうし、タチアにもまた寂しい思いをさせてしまうので、そこは申し訳ない限りなのですが……」
「そうですか。でもまあ、今後は一緒に暮らせるんだし、それは良いことですよね」」
「はい。少しでも早く一人前になって、タチアにも楽をさせてやれるように頑張ろうと思います」
「ねえアリサ、プレセアさんってやっぱりディーンさんのこと……」
「ああ、そうだろうな。上手くいくと良いんだが……」
そう、今僕達と一緒にいるのは、ディーンさんとプレセアさんとタチアちゃんである。
◇
「あの冒険者3名の姿が見えませんが、城下にでも出ましたか?」
「これはマリアネーラ殿下、あの者達でしたら先程、3人でやっぱり逃げるの逃げないのと揉み合っていたところを、ルルカティルダ将軍殿下に訓練場へ連れて行かれるのを見かけましたが」
「お姉様が?……ではしばらくは解放はしてもらえませんね。後にいたしましょう」
「誠に恐れ多きことながら……彼らも災難でございますな」
「ハッハッハ!大したものだなお前達!3対1とはいえ、この私と真っ向から打ち合える者などそうはおらぬぞ!」
「みゃぎゃあ!!」
「なんでいきなり模擬戦!?しかも将軍様超強い!全然隙が無い!!」
「こ、これが名にし負う『姫将軍』ルルカティルダ殿下の実力か!!」
「なんのなんの!その姫将軍という呼び名はなよなよし過ぎてあまり好きではないのだがな!それにこの程度が本気と侮ってもらっては困る!そうらもう一段階上げていくぞ!」
「「「ふぎゃああぁあぁああん!?」」」
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