8. こうじょ の かんゆう
よろしくお願いします。
長ゼリフがあります。
「!!」
マリアネーラ殿下の続いての要望に、皇帝陛下が一瞬息を呑む。
しかし、すぐにゆっくりと息を吐き出すと、静かな声でマリアネーラ殿下に言った。
「……なるほど、そういうことであるか」
「はい。デナエクスト領は魔族領との、グレイシャーシルクの交易拠点。次に彼の領地を得る者は、その交易の利権を丸ごと手にするということになります。たとえどの貴族に下賜されたとしても、国内の貴族達の力関係が大きく変わる事態となりましょう。その点私が領主であれば、扱いは皇帝直轄領とほぼ同じようなものとなります。お父様にも損はございませんわ。元々私は皇位継承に関わる立場でもありませんし、嫁ぎ先も決まらず持て余されていた身。厄介者が1人片付くと思えば、結構なことではありませんか」
「しかしマリアネーラよ、そなたには家臣というものがおらん。いかに小規模とはいえ、領地を治めるというのは決して1人で出来ることではないのだぞ。もちろんそうなった場合、余もそなたを1人で放り出すつもりなどはないが……」
「私の秘書をしておりますグロッタとマグダレナをはじめ、この度の視察に同行いただきました、近衛騎士のオースティン・ウィア・ライアン殿とビュート・エイル・ミハイル殿に侍女のアーシャ、それからデナエクスト領とその近隣を出身とする官吏と騎士数名に声をかけ、共に来ていただくことに了承を得ておりますわ、お父様」
「なんと……」
すごい。
マリアネーラ殿下、しっかりと準備を済ませた上での今回の申し出だったらしい。
やっぱり政治で大事なのは交友関係と根回しだ。
僕達が感嘆していると、マリアネーラ殿下はこちらの方に目を向けて言葉を続けた。
「それに、信頼出来て頼りになる者達でしたらそこにもおりますし」
は?
頼りになる者達?
呆気にとられる僕とアリサとユーナ。
後ろに誰か騎士でもいるのかと、振り返ってみるけどそこには誰の姿も無い。
「どこを見ているのです?貴方達のことですよ」
「「「はえ!?」」」
思わずそろって声を上げる僕達を面白そうに見ながら、殿下は言葉を続ける。
「お父様からのお許しが得られた暁には、貴方達にもお抱え冒険者として一緒に来ていただきたいと思っています」
「お抱え冒険者!?」
「はい。そしてゆくゆくは皆様には騎士の称号を授与し、私の正式な家臣となっていただきたいと考えています」
「騎士!?家臣!?」
「今お聞き及びの通り、この度私は皇家から離れ、公爵として元デナエクスト領を賜ることを考えております。となれば、領地を治めるにあたって家臣が必要となるわけですが、生憎と今まで皇族として暮らしてきた私にはそうした者がおりません。オースティン殿とビュート殿は近衛隊を辞して一緒に来てくださるとのことですし、アーシャをはじめとして身の回りの者も出来る限り連れてゆくつもりではありますが、それにしてもまだまだ人数は少なく、今後の困難は大いに予想されます。そうした状況において、私には1人でも多く、信頼出来る者達が必要なのです。受けていただけますね?」
「「「……」」」
僕達3人そろって、あんぐりと口を開けて固まる。
大国グランエクストの皇女殿下から、お抱え冒険者のお誘い。
まあ誘いとは言っても、本来は雲の上の人である皇女殿下からのお達しに対して、断るなどという選択肢は無いに等しい。
とはいえ、皇女殿下の下で働くことになるということは……今までのような、気楽な冒険者としての生活が出来なくなるということか。
それはちょっとなあ……よし、ここは健康を理由に。
そんなわけで、僕は自分の腹を押さえ、辛そうな表情を作って殿下達に向ける。
「ああ申し訳ございません皇帝陛下、皇后陛下、殿下。実は僕は、高貴な方と一緒にいると緊張でお腹が痛くなってしまうという持病がありまして。見込んでいただきましたのはありがたくももったいなくも思いますけれど、ここは何卒ご容赦をいただきたく」
「そんな持病があるのですか?私と一緒に1月程旅をした際は腹痛どころか、行く先々の町や村で常人にはあり得ない量のお魚を食べて回っていたではありませんか」
「……」
ぐうの音も出ない。
「重ね重ね申し訳ございません。ちょっと頭が痛くなってしまったもので、ここは一旦退席させていただきたく」
「……」
マリアネーラ殿下がちらとアリサとユーナの方を見ると、2人はそろって申し訳なさそうに頭を下げる。
「間違い無く」
「逃げようとしています」
「表の衛兵、今から出て行く者を問答無用で捕らえなさい。決して逃がしてはなりません」
マリアネーラ殿下がドアに向けて声をかけると、部屋の外で複数の人が動く気配がする。
うう……これは廊下に出た途端に衛兵に取り囲まれて逮捕というパターンか。
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