7. こうじょ の ほうび
よろしくお願いします。
長ゼリフがあります。
皇帝陛下はそんな僕達に1つ頷くと、まずはマリアネーラ殿下に顔を向ける。
「マリアネーラ、そなたにはこの度の功績により第3級帝国獅子勲章を授与、ならびに褒賞として白金貨3枚を与えるものとする」
「ありがとうございます。謹んで、お受けいたしますわ」
「合わせて帝国より2つ、当人の希望を叶える権利を与えるものとする。何か望みのものはあるか?」
大きな功績のご褒美として、望みを叶えてもらえる権利……というのが、この国ではもらえたりするのか。
昔話などではよく出てくるし、実際かつてのアト王国でもそういう褒賞はやっていたらしいのだけど、現在では行われていない。
皇帝陛下の言葉に、少し考え込むマリアネーラ殿下。
その様子を見ていたユーナが、横から僕の脇腹をつついてきた。
「ねえコタ、こういう勲章とかご褒美ってさ、なんていうか……もっと広い所で、大勢の人が見てる前でするもんなんじゃないの?」
「うん、多分後で改めて謁見の間とかで臣下や貴族の方達を集めて、お披露目みたいな形でやると思うよ。ただこういうのって、ご褒美の内容とか受勲者が何を希望するのかとか、事前に打ち合わせておく場合も多いんだよね」
実はよくある話である。
理由としては論功行賞の儀式をスムーズに進めるためと、不測の事態を避けるため。
受勲者が緊張と、授与される褒賞の予想外の大きさに頭が真っ白になって儀式の手順も何もかも吹っ飛んでしまい、そこで論功行賞がストップしてしまって受勲者赤っ恥、なんてことも過去にあったらしい。
それから……
「大勢の人が見てる前で『何でも叶えてやるから望みのものを言え』なんて言ってしまうと、国としても引っ込みがつかなくなっちゃうんだよ。望みが『お金ください』とか『領地ください』とかならまだ良いんだけどさ、『王女様をお嫁にください』とか言われてしまうと『わかりました、じゃあ王女様あげます』なんてわけにもいかないし、困っちゃうでしょ。『それはダメ、別のにしなさい』って言うのは簡単だけどさ。でもそれだと『王様ともあろう人が、何でも叶えてくれるって言ったのに嘘吐いた!』なんてことにもなりかねない」
「ほう、よく知っているのだな。あまり大きな声で言えた話でもないのだが、まあ暗黙の了解のようなものだ」
一応小声で話してはいたのだけれど聞こえていたらしく、両陛下や殿下がこちらを見た。
「実は僕は、アト王国の貴族家の出身にございまして。実家にいた際に、そうしたことは多少は。身分を捨てて家を出た身にございますので、家名につきましては何卒ご容赦をいただきたく」
「なるほど、礼儀作法をよくご存知なのは、そういうことなのですね」
「あらまあ、私をお嫁にほしいだなんて」
「いや例えばの話ですからね!?」
わざとらしく頬に手を当てて照れる素振りのマリアネーラ殿下に慌てる僕を見て、皇帝陛下と皇后陛下が愉快そうに笑い、奥様方からは冷たい視線が僕に突き刺さっている。
「話を戻すが、それでマリアネーラ、望みのものはあるか?」
「はいお父様。私は……まず1つ目といたしまして、公爵位を賜りたく存じますわ」
「何?」
マリアネーラ殿下の申し出に、皇帝陛下から驚きの声が漏れる。
公爵位……ということは、臣籍降下?
臣籍降下とは、皇族の身分にあった人が皇籍から抜け、新たな姓を与えられて臣下の立場になることである。
「皇家を……抜けるということですか?」
「はいお母様。それから、もう1つの希望なのですが」
若干かすれた声で尋ねる皇后陛下に毅然と返事をして、マリアネーラ殿下は再度皇帝陛下に向き直った。
「デナエクスト領を、賜りたく存じます」
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