5. ていこく の しろ
よろしくお願いします。
『中央赤影騎団』の騎獣に乗せられてあっという間に帝都ザシオーンに送られて、そのまま帝城『エルドパレス』の中に案内された僕達。
事前にマリアネーラ殿下からの命があったらしく既に宿泊の用意がされており、僕達は帝城内の客間に通されて、しばらくの間はここに泊まるよう案内の人に伝えられた。
部屋は決して豪奢ではないものの、質の良い家具や調度品が設えられた3人部屋だった。
アリサとユーナと、初めて乗った騎獣の乗り心地やここ数日で試してみた新作武器の威力、あっという間に通り過ぎてしまったもののここまで来る際にチラとだけ見えた帝都の感想などを言い合いながら一晩過ごすと、翌日からは部屋に騎士数名が訪ねてきて今回の反乱の一件の事情聴取。
事情聴取とは言っても別に僕達が容疑者扱いされているわけではなく、マリアネーラ殿下から上がっている報告の内容とのすり合わせと、サシャド島で殿下達と別れた後に何があったのかの確認のための聴取なのだそう。
聴取のついでに騎士さん達に、僕達と一緒にここに来たディーンさんやプレセアさんと、殿下と一緒に来たはずのタチアちゃんのことについて尋ねてみる。
現在は3人共城内の別の場所で留め置かれている、ただタチアちゃんはともかくディーンさんとプレセアさんはデナエクスト家の関係者ということで、便宜上容疑者ということになっているので今は面会などは出来ない。
ただ牢屋に入れてたりはしてないし、決して粗略な扱いなどもしていないので、そこは安心してほしいとのことだった。
3時間程の事情聴取が終わったら、侍女さんが付いて僕達に城の中を案内してくれる。
当然の話、大国グランエクストの帝城ということで、僕達がこれまでに見てきたどの城よりも大きい。
グランエクスト帝国は軍事国家なので、地方貴族はともかく国の中心たる帝城はゴツくて厳つくてまさに戦城!みたいなのを妄想していたのだけれど決してそんなことはなく。
過度にきらびやかでこそないものの、見せてもらった食堂やホールや会議室の他、歩いた廊下の各所には絵や花や置物などが飾られ、城の中の雰囲気も軍隊軍隊したものではなくむしろ柔らかい感じのものだった。
正直意外だったので、案内してくれている侍女さんにそのことを話してみると「先々代の皇帝陛下の御代までは、戦時下ということもあってかなり物々しい雰囲気だったと聞いています。ただ現在は当代陛下のご意向もありまして、こうした調度とさせていただいております」と、微笑みながら教えてくれた。
侍女さんの話では、マリアネーラ殿下のお達しにより僕達はある程度城内を出歩くことが許されており、また城の外に出て城下町に行くことも出来る。
食事については朝昼夕の3食とも出るけど、外出などで要らない場合は事前に申告すること。
城の正門は日没で閉まるけど夜になっても通用口から出入りは出来る、ただしあまり遅くはならないように、とのことだった。
城内で歩いても良い場所や逆に入ってはいけない場所、そして外に出るための通用口を教えてもらっているうちにやがて夜になると、僕達は夕食後にマリアネーラ殿下に呼び出された。
昼間案内してくれた侍女さんに連れられて僕達が通されたのは、小さな会議室のような部屋。
10人くらいが席に着けそうなテーブルと、他には小さな絵が1枚飾られているのみ。
席に着いて少し待っていると、やがて部屋のドアが軽くノックされて、マリアネーラ殿下がアーシャさんを伴い入って来た。
席を立ってひざまずく僕達に殿下は「そのままで」と微笑みかけ、皆で席に着いたところで、開いたままだったドアから1組の初老の男女が入って来た。
「いや〜どうもどうも待たせてしまって申し訳ない。そなた達とはもっと早くに会いたかったのだが、うるさい部下共がなかなか自由にしてくれんでな」
「すみませんねえ本当に、こちらから呼びつけたようなものなのにねえ。この城での生活に不便はないかしら?何かあったらなんでも言ってちょうだいね」
男性と女性はニコニコ笑いながら、お盆に乗せて持ってきていたお茶を僕達の前に並べてくれる。
「え?あ、あの……?」
「もうお父様、お母様、挨拶もせずになんですか。私のお客様が驚いているではありませんか」
お茶を並べ終えていそいそと自分達も席に着く男性と女性に、困った顔で告げるマリアネーラ殿下。
……ていうかちょっと待て。
今マリアネーラ殿下は、この2人のことをお父様とお母様って呼んだか?
言うまでもなくマリアネーラ殿下は、このグランエクスト帝国の第4皇女。
そのマリアネーラ殿下が父母と呼ぶということは、この2人は……
◇
「試し撃ちをしてみたら、的が後ろの大岩ごと吹っ飛んだんだけど……矢は普通のなのに……そこらの店で買った量産品なのに……」
「試しに全力で振ってみたら、斬撃が100mぐらい先まで届いたぞ……つまりは何か?この大剣1本で、遠距離までカバー出来るってことか……?」
「試し斬りしてみたら、マグナラン鋼の鎧がバターでも切るみたいに真っ二つになったよ……手応えすら無かったよ……」
『〜♪』
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。




