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15. でんせつ の しゅつげん

よろしくお願いします。

うっそうとした森から急に目の前が開けて、そこに踞っていたそれを見た瞬間僕の頭の中は真っ白になった。



そこにいたのは、少なくとも20mを超えるだろう体躯に冷たい光沢のある黒色の体表。


4本の指から、僕の首なんか容易く切り飛ばせそうな程の大きく鋭い爪を生やした前肢。


背中からは、広げればその巨体全部を覆い尽くす程の巨大な翼。


タテガミのある長く伸びた首の先には、隙間から凶悪な牙の覗く大顎と、僕を見つめる1対の金色の眼。



よーしひとまず落ち着こう。


こういう時は冷静さが肝心だ。


目を閉じ……るのは今は怖いから、胸に手をあてて大きく深呼吸。


気を落ち着かせて、改めて目の前にいるそれを注視する。




……ドドドドドッドドドドウドドドウド…………ドラゴン!!??


やばいやばいやばいやばいこれはやばいこれはやばいこいつはワイバーンみたいな亜種じゃない本物だ本物のドラゴンだどうしようどうしようなんで気配の一つも感じ取れなかったんだよダメだダメだ死ぬ死ぬ死ぬブレスなんぞブッパされた日には僕なんか骨も残らんぞお母さんお父さんアリサさんユーナさんおじいちゃんおばあちゃん僕どうしたらいいのてか今も真っ正面から僕のこと見てるよあのドラゴン絶対こっちが気づく前から僕が近づいてるのわかってたよアレ!!



……駄目だ、冷静になれ。


敵わないまでもこのまま何もしないでやられてたまるもんか。



僕は両手を上げて、ドラゴンに敵意が無いことを示す。


これが通じるかどうかはわからないけど、少なくとも今あのドラゴンは攻撃してくる様子は無さそうだ。


とはいえ、何がきっかけで襲いかかってくるかわからない。


それに僕だって手は上げても降参なんかはしてないぞ。


僕は最後まで絶対に、生きることを諦めないからな!



どのように来るかドラゴン。


もしブレスがきたら全力で横に回避、そして同時に地面に火炎ビンをばらまいて、ドラゴンが炎に気を取られた隙に身体強化で一気に逃げる。


突っ込んできた場合はドラゴンの顔面に火炎ビンを叩きつけて、目が眩んだ瞬間に同じく全力で逃げる。


さあ、どう動く……!




どれ程の時間見つめあっていただろうか。 


僕にとっては数時間にも思える間だったけど、実際のところは数分程度だったかもしれない。


不意にドラゴンがグル……と軽く唸り声を上げたかと思うと、まるでイヤイヤをするみたいにその大きな顔を横に振り出した。



……え、何これ?


顔の周りの何かを振り払ってる……様子でもないし。


僕を油断させてどうこうする……わけでもないよな。


ドラゴンと僕の力の差を考えれば、わざわざ油断を誘う必要なんて無い。



僕が呆気に取られて見ていると、やがて頭を振るのを止めたドラゴンは、その大きな前肢を上げて、指の1本、人差し指に当たる指で真上の空を指し示した。


かと思うと下ろして、自分の前の地面を爪先でトントンと叩く。


そしてすぐに指をあさっての方向に向けた。


見ていると同じ動作を何度か繰り返している。



これは……何?


僕に何かを伝えようとしている?


確かにドラゴンはワイバーンと違って賢いっていうし、人間の言葉も理解する。


長く生きた者になると、人間よりも頭が良くなると聞く。


人の言葉を話せるドラゴンもいるという話だけど、目の前のこいつは喋れないんだろうか?


中にはあまり好戦的ではない者も少なくないっていう話だし、実際目の前のこいつも敵意は無さそうにみえるけど……


何を伝えようとしてるんだろう?


ドラゴンのあの動作……地面を指して、それから遠くの方を指してるから……



僕はおそるおそるドラゴンに声をかけてみた。


「ええと……ここはあなたの場所だから、僕はあっち行け?」


するとドラゴンはブンブンと首を横に振る。


うん、言葉は通じてるみたいだな。


でも意味が違うのか。



するとドラゴンは自分自身を指差し、次に指2本で小さな円を作ると、また地面を指差して同じように遠くの方を指す。


あの円は……丸?


じゃなくて、小さい?少し?


「え~と、あなたは……少し、ここにいる?で、またどこかに行く?」


するとドラゴンは頷くように首を縦に振った。


え、正解ってこと?


「つまり……ここにはちょっとの間立ち寄っただけ?」


再度頷くドラゴン。


別にここに居着いたわけじゃなくて、少しの間休憩してただけってことなのか。



とはいえ、こんな所にいきなり世界で最強クラスの存在が現れたもんだから周辺の魔物や獣が慌てて逃げ出して、あのワイバーンもその1匹だったってわけか。


理由は知らないけど、ドラゴンが飛んで長距離を移動するって話はあるし、これについては納得。


あまり納得がいってないのは、僕がドラゴンと身振り手振りで会話しているという今のこの状況についてなんだけど……


これはまあなんていうか、色々諦めた。


アリサさんや、ラヌル警備隊副隊長さんの気持ちが少しわかった気がする。




そんなことを僕が考えていると、僕を見ていたドラゴンがのそりと立ち上がってくああと欠伸を1つ。


それから猫がやるみたいな伸びをすると、それまでいた寝床のようになっている場所に首を突っ込んで何やらごそごそとやっている。


何かと思っていると、ドラゴンは寝床から口で咥えて取り出した何かを、こちらに向かってぽいぽいと投げてきた。


見てみるとそれは、ドラゴンの体表と同じ光沢のある黒色で平べったい形をしていて、厚みは1、2㎜くらいで僕の手のひらぐらいの大きさで……


って、まさかこれ……



「これ……ウロコ?」


おそるおそる尋ねてみると、ドラゴンはコクコクと首を縦に振る。


「くれる……ってこと?」


再び頷くドラゴン。


そしてドラゴンは前肢の指で寝床の中を指し示してみせると、ウロコを持ったまま固まっている僕から少し離れて空を見上げる。


そしてその背中の巨大な翼をいっぱいに広げた。



たちまちその巨体にみなぎる凄まじい魔力。


その魔力に反応して、ドラゴンの身体が紫がかった黒色に眩しく輝き出す。


ドラゴンは最後にちらりと僕を見て、次の瞬間猛烈な風と共に飛び立ち、あっという間に空の彼方へ飛び去っていった。



黒曜竜……


オブシウスドラゴン、だったんだ……

お読みいただきありがとうございます。


また、評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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