エピローグ
よろしくお願いします。
グランエクスト帝国中央部に、デナエクストという公爵家がある。
そのデナエクスト公爵家にて、帝国皇帝に対する反乱の計画が発覚した。
デナエクスト公爵家は、元は皇家の血筋に祖を持つ、帝国古来の高位貴族家である。
今からさかのぼること約200年の昔、帝国皇室の1人であるアジナバル皇子が次期皇帝を決める争いに敗れ、これを不服として武力による玉座の奪取を図るという事件が起きた。
時のロウミッツ帝がこれを討ち、戦に敗北したアジナバル皇子は死刑。
その妻子や家臣などは本来であれば連座で処刑となるべきところをロウミッツ帝の温情で罪を減じられ、デナエクストの家名および現在のサシャド島クリクピナス市とその周辺に領地を与えられて存続が許されたという経緯がある。
設立の経緯により、「この家は今でも皇帝陛下並びに皇室へ恨みを抱いており、密かに帝国打倒の野望を燃やし続けている」などといった噂が公然と囁かれる、そんな貴族家だった。
近年デナエクスト公爵家では先代の当主ザファーラン・ジス・デナエクストが、グレイシャーシルクという魔族領の特産品である高級絹の交易を行い莫大な利益を上げていた。
デナエクスト家はその収益金で秘密裏に大規模な艦隊を建造、決起の際にはその艦隊で南海を一挙に攻め上り帝都ザシオーンに奇襲攻撃をかける、そして事前に調略していた国内の貴族を挙兵させ連合を組んで帝城を攻め落とす、というのが反乱計画の概略であった様である。
この度の反乱の企てを暴いたのは、グランエクスト帝国第4皇女であるマリアネーラ・ホワイト・グランエクスト皇女。
先日、先代当主のザファーラン卿が老齢により死去したことを受けてデナエクスト家を弔問に訪れ、その際に艦隊の存在および反乱計画を察知。
同行の配下に命じてこれを討ち、反乱の未然の阻止に成功した。
マリアネーラ皇女の報告を受けた帝都ザシオーンでは、エイゼン皇帝が直ちに軍の出動を下命。
帝国軍の魔獣乗りで構成された即応部隊『中央赤影騎団』、通称『魔獣騎士団』の最精鋭500騎が事態の確認のため、デナエクスト領都クリクピナス市へと急行した。
『中央赤影騎団』は現地にて、デナエクスト家騎士団および秘匿艦隊の潰滅を確認。
合わせて、故ザファーラン先代公爵の側室1名他デナエクスト家の家臣数名の、事件の首謀者たる人物を逮捕した。
彼らは現在帝都ザシオーンの帝国軍本部に護送され、背後関係など当局による取り調べが行われている。
言うまでもなく反乱は企てただけでも重罪であり、今回の一件でデナエクスト家は取り潰し、首謀者達には国家反逆罪が適用の上、極刑に相当する処分が下されることは確実と見られている。
一方で、反乱計画を看破の上叛徒の討伐を成し遂げたマリアネーラ第4皇女とその一行も、現在は『中央赤影騎団』により帝都ザシオーンに護送されてこの一件の事情聴取を受けているところである。
この度の大きな功績により、エイゼン皇帝直々に「帝国の歴史に残る偉業である」との賞賛の言葉を受けたマリアネーラ皇女。
第4皇女という立場により今までは皇位継承に関わることは無いと見られていたものの、この一件で「もしや彼女が次期皇帝の有力な候補になるのではないか?」と、帝国内の貴族達からは関心が寄せられている。
最後に、貴族家の首脳陣が軒並み死亡、もしくは逮捕されてしまったため統治者不在となっているデナエクスト領では、現在はザシオーンから代官が派遣され領内行政の代行を行っているが、グレイシャーシルクの交易についてのみは魔族領との外交も絡む上、最終的な責任者が未確定ということもあり再開未定の状態となっている。
魔族領や帝国内商人達からの、1日も早い交易再開をとの要望も日増しに高まっており、新しい領主の決定が待ち望まれている。
デナエクスト家が莫大な財を築き上げたグレイシャーシルクの交易利権を、引き継ぐのは一体どの貴族家か。
この件について、いくつかの貴族家は既に行動を始めていると見られている。
エイゼン皇帝並びに帝国政府よりどのような裁断が下されるのか、注目が集まっている。
◇
「あれオースティンさん、ウーヴィン達の件はどうなったんですか?」
「……彼らは自分達を妖精の加護を受けた勇者だと言っていたわけだが、そもそも勇者というのは、『聖剣ジュリスヴァイル』に認められ、ラネット神聖皇国の教皇猊下によって認定されるものだ。それを、国内の貴族が勝手に勇者を認定していたなどということを大っぴらにすれば、ただでさえ良くない帝国とラネット神聖皇国との関係がさらにこじれることにもなりかねん。だから……」
「ああなるほど。『なんでもどっかのアホガキが勇者を名乗って暴れたらしいけど帝国政府は知らないし、そんな馬鹿らしいことわざわざ記録に残したりもしませんよ』とこういうことですか」
「そういうことだ。……ところで、この度逮捕されたデナエクスト家の騎士達なのだが、船の倉の中にいるのを捕らえた際はやたらと衰弱していたな?食事も何も与えていなかったのか?」
「心外な、食べ物ならちゃんとリンゴの芯とミカンの皮をあげてましたよ」
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。
おまけ
『中央赤影騎団』
グランエクスト帝国の帝都ザシオーンの防衛を主な任務とする、帝国軍最強のエリート部隊。
通称『魔獣騎士団』
司令官は帝国皇帝で例外は無し(たとえ戦時の際であっても、将軍やら貴族やらが自分の指揮下に組み込むことが出来ない)。
魔獣乗りのみで構成されており、有事や大規模災害の際などは、その機動力を活かし現地に急行して情報収集に当たったりすることもある。
全員の装備が赤色で統一されているのも大きな特徴で、「その強さを炎に例えている」「敵対した者達の血の海をイメージ」「苛烈な訓練により流した団員達の血の色」などと、帝国軍兵士達からは畏怖と憧れの象徴になっている。
選抜は完全実力制で、志願もしくは推薦の上試験・訓練期間の後に正式入団。
思い上がった貴族の息子が入団を求めたところ、最初の面接で心を折られて逃げ帰ったなんていう逸話も。
その特性上魔獣の所持が義務付けられているが、経済的な理由などで自前での用意が難しい場合は団費で貸し出される。
ただし主の修正が容易な比較的弱い魔獣であるため、貸し出された騎獣に乗っている間は半人前扱い(入団すれば給与が一般兵卒の数十倍に跳ね上がる上に厩舎は団で用意、エサ代も補助が出るので、遅くても数年で自分の騎獣を購入する人がほとんど)。
「赤い騎士達が影のような疾さで接近して来る」のをイメージした設立当時の皇帝が、(半ば悪ふざけで)命名した。




