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メインクーン・ダンス〜異世界しっぽ冒険記〜  作者: オー
デナエクスト家の一族
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67. ぐん の とうちゃく

よろしくお願いします。

事実を知った僕達は、館の応接室のソファで3人して嘆息していた。


ディーンさんとプレセアさんは、今は軟禁中のカレンダ夫人の所へ行っている。



ウーヴィンか……


話では、元はウーヴィンは親の手伝い仕事に日々精を出す、田舎のごく普通の少年だったらしい。


それがルルジナの加護を受け、強大な力を手に入れたことで人が変わってしまった。


今回僕達と、戦うこととなってしまった。


もしもウーヴィンがルルジナと出会うことがなければ、ゴッドワルド達に目をつけられることがなければ、戦いなどには関わらずに今もずっとデナエクスト領の片隅の集落で日々暮らしていたのだろうか?


僕達と戦って、死んでしまうこともなかったのだろうか?


まあウーヴィンがやったことの擁護は出来ないし、実際彼らは僕達の敵になってしまったので、戦う他にはなかったのだけれど。



「妖精と仲良くなれた上に、今まで雲の上の人だった貴族達からよってたかってもてはやされたりしたら……まあ、調子にも乗っちゃうのかなあ」


僕がそんな考えを漏らすと、ユーナとアリサが応えを返してきた。


「う〜ん……まあ、そう言われてみれば、ちょっと可哀想なやつだったのかもしれないね」


「無理やり夢を見させられて、その夢から抜け出せなくなってしまったんだな……」


「「「はあ……」」」


3人そろってため息を吐く。


なんか、本当に疲れた……




誰もが一言も発さない中、ふとアリサが椅子にもたれかかったまま呟いた。


「……そういえば、タチアちゃんが『バイランズ一家』に狙われたのは、なぜだったんだ?」


あれ、そういえばアリサとユーナは聞いてなかったのかな。


「ディーンさんのお母さんの差し金だって」


「お母上……ファラ夫人の?」


アリサの視線に、僕は小さく頷く。



僕は先日、ディーンさんと2人で行動した時に話を聞いていたのだ。


「ディーンさんも、お母上を問い詰めるまでは知らなかったみたいなんだけどね……」


ファラ夫人は僕やオースティンさんが予想していた通り、ディーンさんがこの家を出てしまったことで、家中で非常に肩身の狭い思いをさせられていた。


その後ディーンさんが家に戻ったので、ファラ夫人も実家に返されるようなことにはならなかったものの、それでもディーンさんはダイクと名前も変えてただの平民の使用人という立場となってしまい、この家の相続の権利などはもう無い。


ただ、弟のガルティーラにもまだ子供がいなかったので、次の次の後継ぎの地位にディーンさんの子であるタチアちゃんを据えて、自身のこの家中での立場を復活させようというのがファラ夫人の目論見だった様だ。


「ふ~ん。でも、タチアちゃんがディーンさんの子供だからって、ハイそれじゃあこの子もこの家の跡取り候補ですなんてことになるもんなのかな?」


「ならないならない」


首をかしげるユーナに、苦笑いを返す僕。



王族とか貴族の家の後継ぎなんてのは、よっぽどの緊急時ならともかく、血縁関係というだけで無条件になれるようなものではない。


血がつながっているというのはあくまでも最低条件であり、その上にまた色々と面倒なことが重なってくるのだ。


本当ならファラ夫人も、それがわからないような人ではなかったと思うのだけど、冷や飯食いの立場に彼女も、なりふりかまっていられない程追い詰められていたということだったのだろうか。


タチアちゃんをこの家に迎えたいなら穏便な方法はいくらでもあるのに、いきなりバイランズ一家なんて荒事前提の連中に依頼をかけているくらいだし。


ただディーンさん、自分に娘が生まれたということ、今はお義父さんに預かってもらっているということはファラ夫人に言っていたけど、その名前までは伝えていなかったらしい。



「ああ、だからバイランズの連中は、タチアちゃんの名前を知らなかったんだね」


ユーナが納得顔で頷く。


ファラ夫人の軽率な行動のせいでタチアちゃんのお祖父さんが殺されてしまったのだから、事情はあったにしろ彼女のしたことについても当然擁護は出来ない。


そんなファラ夫人も、ガルティーラが死んでここから自分の時代になると思った矢先に殺されてしまった。


彼女もまた、このデナエクスト家の因縁に振り回された1人だったのかもしれない。


「ディーンさん、落ち着いたらタチアちゃんと一緒にお祖父さんのお弔いに行くってさ」


「そうか、それは良い」


「タチアちゃん、やっとお父さんと一緒に暮らせるようになるんだね」


ほっとした顔で微笑むアリサとユーナ。



ただ僕には1つ、心配なことがある。


ディーンさん、もう名前も変えて身分も捨てているとはいえ、帝都の政府はやっぱり彼をデナエクスト家の長男として見なすだろう。


この件について彼に一切の責任無しとは、思ってはくれないんじゃないだろうか。


この家の反乱計画については、知ってて通報もせずに黙ってたなんて言われてしまったら言い逃れは出来ない。


もしかしたらディーンさん……処罰されるかもしれない。


大丈夫かな。



でも、彼はデナエクスト家への対応も非常に協力的だったし、マリアネーラ殿下も心配しなくて良いみたいなこと言ってたし、タチアちゃんのためにも悪いことにはならないといいのだけど。


内心でそんな不安を抱えながら、僕は戦後の後片付けに、船に閉じ込めてある騎士達への食料の差し入れに、生き残ったデナエクスト家の残党の警戒にと忙しい日々を過ごす。




そんな中、館にいた僕達に港から「クイイユの町に軍勢が集結している」との知らせが届いたのは、戦いから10日程経った日のことだった。


クイイユ市及びクリクピナス市の市民には「いずれ軍隊が来るので指示に従うこと。決して抵抗等はしないように」と通達してある。


ディーンさんとプレセアさんを出迎えの準備で館に残し、僕とアリサとユーナが港に駆けつけると、海の向こうのクイイユ市の港から何隻もの船が出港するのが遠目に見えた。


クイイユ市にあるだけの船に軍隊を乗せて出した感じかな。


上空には十数羽の、騎士を乗せたヒョーコウが旋回している。


やがて船団がこちらの港に近づいてくると、先頭の船の船先にオースティンさんとビュートさんがいてこちらを見ているのがわかった。


岸壁の僕達を認めた様子の2人に、僕は大きく手を振り返すのだった。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。


次回、エピローグになります。

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