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メインクーン・ダンス〜異世界しっぽ冒険記〜  作者: オー
デナエクスト家の一族
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65. こうしゃく の しんい

よろしくお願いします。

「おお……これは凄い」


「父が、こんな……」


「コタロウ?ディーンさん?何か見つけたのか……っておいこれは、エロ本じゃないか!没収!!」


「ああ……」


「まったく、男ってやつは……」



若干の悶着はあったものの、調べを終えた僕達は、皆で食堂の椅子に座って大きく息を吐く。


結局、ザファーラン先代公爵の寝室の本棚や戸棚などからも、大規模叛乱計画の書類などは出てはこなかった。


その代わりに見つけたのが、先代公爵が密かに書いていたらしい日記。


日記は1冊のみで、どうやら毎日つけていたわけではなく、日常生活や仕事の中で大きな出来事などがあった際に書き留めておいたものらしい。


本棚の奥から出てきたそれを、故人に悪いと思いながらも皆で読んでみたところ、僕達はザファーラン先代公爵の心の内を知ることとなった。



その日記に書かれていたのは、日々のちょっとした出来事などの記録と共に、大量の愚痴。


文章自体は簡潔なものであったのだけれど、そこには先代公爵の息子や夫人達や家臣達に対する、不平不満悪口雑言憤怒怨嗟が書き連ねられていた。


読んだだけでこんなに疲れた本というのは初めてだ。


そして……




「父上……」


日記に一通りざっと目を通したディーンさんは、いろんな意味で頭を抱えている。


「ディーンさんや先代公爵様の気持ちはお察しするが……全部、嘘だったんだな……」


吐き出すように呟くアリサ。


その隣では、ユーナが真剣な目つきで日記を最初から見直している。


そう、家臣達にも、夫人達にも、息子にも隠して書かれたこの日記に、全てが記載されていた。


「反乱計画なんてそもそも無し。貴族達に声をかけてるなんて嘘。船は造ったけど、兵員なんて集めてない。皇家打倒なんて、最初からする気は無かった」


ゴッドワルド達が得意げに語っていた帝国打倒の計画というのも、結局は絵空事でしかなかったということだ。


実は僕とユーナ、最初にゴッドワルドからこの話を聞かされた時から真偽を疑っていた。



「だって、この国の貴族のほとんどが参加した反乱計画?そんな大勢が関わる陰謀なんて、絶対どっかしらでバレるもん」


実際、こっそり兵を集めて挙兵して王様を倒して取って代わろうとした人の話なんて、どこの国の歴史にも掃いて捨てる程ある。


そしてその多くが、事前に発覚して失敗に終わっているというのも事実。


人の口に戸は立てられないし、人間そう簡単に一枚岩になるものではない。


隠密里に陰謀を進めるというのは、とても難しいことなのだ。


「申し訳ないんですけど、経済的にはともかく軍事的には極めて小規模で、他の貴族家からの人望もあるとは言えないデナエクスト家を旗頭にしてそんな大がかりな計画を進められるとは、どうしても思えなくて……」


頭をかきながらの僕の言葉に、ディーンさんは無理やり作った苦笑を返してくる。



なんでザファーラン先代公爵がそんなことをしたのかというと、それは家臣の人達を黙らせるため。


日記にもさんざん愚痴られていたことから、デナエクスト家家臣団の帝国打倒の突き上げは、常日頃から相当なものであったことが推察される。


事あるごとに、やれ皇家を倒せ帝国を我が手に取り戻せ早くその準備を進めろ金ならあるんだろうがと、控えめに言って滅茶苦茶ウザかったと、日記からだけではなくディーンさんやプレセアさんからも証言が取れている。


そんな彼らに対して先代公爵は、戦のための艦隊を造るという明確な行動を見せることで、その突き上げを抑えようとしていた様だ。


その事実を知って、アリサが僅かに頷く。


「確かに、ポーズだけで戦を起こすつもりなどは無かったのなら、兵員を集めていないというのにも納得は出来るか。そして、あれだけの艦隊を実際に造ってしまえば、それでもう帝国では反乱行為と見なされてしまう。見つかれば言い逃れは出来ない。それに妙にお粗末だった船の隠し方。それも……」


「そこなんだよねえ……」


その点については、僕も正直目を疑った。



あの艦隊、今までは運良くバレなかったというだけで、あれは言ってしまえば核爆弾の導火線だ。


何かのはずみに見つかってしまえば、その時点でデナエクスト家は終わる。


大量の軍船を所有していたということで既に違法行為を犯しているわけだし、船造っただけで兵員は集めていませんなんて言い訳にもなりはしない。


しかもこの国には皇族の国内視察という制度もあるわけだし、発覚するのも時間の問題だったと言えるのかもしれない。


そしてザファーラン先代公爵は、自分でその導火線に火を着けていた。



「バレて、良かったんだ……」


そう、あの艦隊は、最初からバレることを前提に建造していたものだった。


先代公爵の狙い、それはわざと反乱の証拠を発覚させ、このデナエクスト公爵家を潰してしまうことだったのだ。


重罪というとやっぱり殺人罪が思い浮かぶけど、国が定める最も重い罪は国家反逆罪である。


反逆が発覚すれば、このデナエクスト家は直ちに帝国を挙げての討伐対象となる。


そうなればたとえ公爵家といえど、この家は完膚なきまでに滅ぼし尽くされることだろう。


領民には一時迷惑をかけてしまうけれど、今度はデナエクスト家よりも良い領主に治められるよう願っていることと、いざ事が露見して騒動になる前に、ディーンさんとプレセアさんをこの家から出してしまわなければならないことを記載して、日記は締めくくられていた。




「父上……」


「公爵様は……」


言葉を失う、ディーンさんとプレセアさん。


そんな2人に小さく目を伏せて、ユーナはぱたんと日記を閉じた。


「公爵様は、憎んでいたんだね。自分が人生でただ1人の、本気で好きになれた人を追い出したご夫人達も、事あるごとに先祖の恨みだの復讐だの言ってばっかりの家来達も、そんな人生を自分に背負わせたデナエクスト家そのものも」


「全部無くなってしまえと、そう思っていたということか……」


やりきれない表情を浮かべてアリサが呟く。



でもまあ、先代公爵の想定とは違った形になったみたいだけど、今回の一件でデナエクスト家は確実に処罰の対象になる。


実際どんな処分が下されるのかはわからないけど、このまま家も領地も据え置きなんてことは絶対にありえない。


ディーンさんもこの家を継ぐつもりは無いみたいだし、これでこのデナエクスト家は、終わるのだ。


後はいずれここに来る帝国軍に捕らえてあるデナエクスト家の関係者を引き渡し、調べたことの報告を上げて、僕たちのやることは終了となるだろう。


デナエクスト家とは血縁の無いプレセアさんは良いとして、ディーンさんやタチアちゃんがどういう処遇になるのか気になるところではあるのだけど、それも政府の、ひいては皇帝陛下の判断になるわけだし、僕達としては悪いことにはならないよう祈るだけだ。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。


日本の法律で最も重い罪は『外患誘致罪』というものです。

「日本の安全を害する目的を持って外国と通じ、日本に対し武力攻撃を誘発させた行為」を罰する法律で、適用される刑罰は、死刑のみとなっています。

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