63. こうしゃくけ の はいぼく
よろしくお願いします。
毎度のことではあるのだけど、戦いというものは終わってからも忙しい。
グランエクスト帝国への反逆を企てていた帝国貴族、デナエクスト公爵家との戦いになんとか勝利した僕達。
その後は連日、この戦いの後始末に忙殺されていた。
まずはゴッドワルド他、生き残りの騎士達を武装解除の上、まだかろうじて浮いていた船の船室にまとめて閉じ込める。
気を取り直したゴッドワルド達は「マリアネーラ殿下と話をさせろ」「皇帝陛下と直接談判する」などと大喚き。
「あまりうるさくすると火をつけて船ごと海に沈めるぞ」と脅してやっても「やれるものならやってみろ」「我らは死など恐れない」と騒ぎ続けたので、本当に船に火をつけてやったら恫喝が命乞いに早変わり。
それ以降も騒ぐことはあったけど、声を上げる毎にその際の命乞いのセリフを言い返してやっていたらやがて大人しくなった。
それから3人でそれぞれの戦いの顛末を確認し合いながらデナエクストの館に戻り、助け出したディーンさんやプレセアさんと合流。
一緒に燃え残った館の中を軽く確認して回った。
僕達が島の裏手で戦っているうちに使用人達が館や周囲の森の消火を行っていたようで、建物は所々焦げてはいるもののそこまで酷く焼け落ちているというほどではない。
館にいた使用人達は、騎士達は1人も帰らず戻って来たのは武器を構えた僕達のみという状況と、ディーンさんの「騎士団は全滅した。勇者達も全員死んだ。デナエクスト家の負けだ」という言葉、それから破れかぶれでナイフを構えて襲って来た1人がアリサのデコピンに吹き飛ばされる姿を見て、一斉に館を逃げ出して行った。
それでも数人逃げずに残った使用人もいて、話を聞けばデナエクスト家の体制に不満を持っていたり、ディーンさんのことを個人的に好いていたという人達らしい。
完全に気を許すわけにもいかないけど反面人手があるのは助かるので、今の館はその人達に最低限の管理をしてもらっている。
館の中では、1人取り残されていた先代公爵側室のカレンダ夫人を確保。
息子のガルティーラが殺されたことに加えて、今家臣団までもが壊滅させられたことを受けて放心状態となっていたので、一応ということで彼女の自室に監禁の上プレセアさんにお世話をお願いしている。
彼女の話では、夫人は完全に意気消沈しており、暴れたり無茶な要求をしたり罵声を吐いたりなんてことも一切無いそうな。
なお、先日家臣達から聞かされていた通り、玄関ホールに飾られていたアンデッドドラゴンの骨は影も形も無くなっており、またカレンダ夫人が他にもあると言っていたドラゴンの骨複数体分もまた、館のどこにも見つけることは出来なかった。
一体どこに消えてしまったのやら。
夜が明けたら、ディーンさんと一緒にクリクピナス市の確認。
やはり昨晩の戦いで、リレンの魔法が当たって被害が出てしまっていたので、そうした人達にはディーンさんがデナエクスト家を代表して謝罪と共に、後日改めて被害の補償をする旨伝えておいた。
戦いの始まりと同時に港へ逃げたはずのマリアネーラ殿下一行の消息については、確認したところ港湾の職員から、昨晩遅くに男女数名が港を訪れ、「緊急事態につき今すぐにクイイユに渡りたい」との要望があった。
デナエクスト家の家紋の入った剣を見せられたこと、また領主の館で火の手が上がったのが港からも見えたことにより、港の船乗り達は緊急事態が事実と判断。
小舟を出して、一行をクイイユ市の港まで送ったとのこと。
良かった、どうやらマリアネーラ殿下達は無事に島を脱出出来たみたいだ。
となると、殿下達が帝都にこの事態を報告して……いずれはここに、調査だか討伐だかの軍が送られてくることになるか。
であるならばと、ディーンさんから元の身分であるジェイミル・エア・デナエクストの名で、クリクピナス市とクイイユ市に「近いうちに皇帝陛下の命を受けた軍隊がクリクピナスに来る。侵略等ではないので、市民は決して反抗などはしないように」との布告を出している。
なお、この布告と合わせてクリクピナス市での商売やクイイユ市との連絡船の運航も再開。
生き延びたデナエクスト家の家臣達やその関係者達は、真っ先にその連絡船に乗ってサシャド島を逃げ出して行ったとのことである。
彼らについては、逃げた先で何か変なことをしやしないかと気になりはするのだけれど、さすがに今はそこまでは手が回らない。
家臣団筆頭のゴッドワルドと、主要格の騎士3人は捕らえてあるのだから、今はそれで良しとするしかない。
続いて、勇者パーティに加護を与えていた妖精ルルジナの行方をざっと探してみたところ、彼女はデナエクスト家の館の裏手の森の中で死体が見つかった。
ルルジナは、艦隊の隠してあった海の洞窟からそう離れていない森の中で、まるでハエたたきにでも叩かれたかの様に、ぺしゃんこに潰れて死んでいた。
薄暗い森の中で淡く魔力の光が見えたので見つけられたのだけれど、愕然としている僕達の前でルルジナの死体は次第に魔力の粒子と化していき、やがて空気中に溶けるようにして消えていった。
妖精が死ぬところなんて初めて見たけど、こんな風になるものなのか。
ここでアリサとユーナが「そういえば」と声を出す。
「エーフィアと戦っていた際に、急に彼女の力がガクンと落ちた瞬間があった。何が起きたのかと気にはなっていたんだが……妖精が死んで、加護を失ったためだったんだな」
「私も。リレンが『魔力の防御が出ない』みたいなこと言ってたけど、こういうことだったんだね」
なんでも2人共その隙を突くような形で相手に勝てたらしく、それは良かったのだけれど、それにしてもここで一体何があったのか……
考えてみると、ルルジナが叩き潰されて死んでいたということは、妖精を叩き潰せる存在がこの場にはいたということになる。
慌てて周囲を警戒してみるも、木漏れ日の射し込む森の中には特に異様なものの気配などは無し。
出来る限り森の中を調べてはみたのだけれど、これといった異常も無し。
ディーンさんにも聞いてみたけど、この島にはそんな強力な魔物などの噂や伝説なども無いということで、結局何物がルルジナを潰したのかは謎のまま。
結局、一応今後も森の方を警戒するということで、この件については棚上げとなった。
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