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3. でていったあと の はなし

よろしくお願いします。


閑話のような回になります。

リーオが退出していった後、部屋に残った2人は顔を見合わせ、そして同時に軽くため息を吐いた。


「最後になにやら不穏なことを言っていったが……居なくなると寂しくなるな」


「ええ、色んな意味で騒がしい奴でしたから」



ルシアン伯の言葉に、苦笑いを浮かべるカール。


そんなカールに、ルシアン伯は真面目な顔つきで告げる。


「ただ、奴が言っていたことも確かに一理ある。今まで奴がこの家と、この領地にしてきた貢献は大きい。そのことで、影響力も無視出来ないほどになりつつあった。実際お前ではなく、奴を次期当主に推す声も出始めていたところだ」


「領民からも『夕食のおかずが一品増やせるようになった』と感謝の声が上がっていましたね。それが本格的な騒動になる前に身を引いてくれたわけですか」




父と兄はこのように評価していたが、実はリーオにしてみれば初めはほとんどの場合、領を富ませるなどといった意図は無かった。



たとえば、屋敷の調理場からちょろまかしてきた端切れ肉や端野菜を細かく刻んで、練って捏ねて丸めて焼いた物を1人で美味い美味いと食べていたのが家人に見つかった。


たとえば、そのままでは味がきついからと、酢に食用油や塩や辛子や刻んだレモン、及びタマネギやパプリカなどの端野菜を刻んだものを放り込み、かき混ぜた物を茹でた野菜につけて食べていたのが家人にバレた。


たとえば、貯蔵庫から盗んで来たトマトを刻んで、塩や端野菜と一緒に煮詰めた物を、スクランブルエッグ(オムレツを作ろうとして失敗)にかけて食べていたのを家人に発見された。


たとえば、畑からかっぱらってきたまだ青い大豆を、塩茹でにして食べていたのが家人に発覚した。


同じく、かっぱらって来た熟した大豆をフライパンで炒り、すり潰して粉末にした物をミルクに入れて飲もうとして、むせ返って咳き込んでいたところを家人に見咎められたといったところ。



要は全部、美味い物が食べたいという一心で引き起こしたことである。



他にもまだ色々とあるが、これらの画期的な調理法の多くが、リーオの行った悪さ(ほぼ全て実家からの食品の窃盗事件)の噂話とセットになって領内に広まった。


それまでは捨てるか家畜の餌か、良くてスープに入れるかしていた端切れ肉や端野菜を利用した『ハンバーグ』という名の新しい料理。


リーオが『ドレッシング』や『ケチャップ』や『きなこ』と名付けた新しい調味料。


ケチャップなどはトマト以外の野菜や果物でも作れるということで、商業ギルドが音頭を取り、タマネギケチャップやキャベツケチャップやリンゴケチャップなど、今や領内では数多くの種類のケチャップが販売されている。


大豆はそれまでは家畜の餌という認識でしかなかったものが、人間も食べることが出来、しかも意外な美味しさを持っていたことがわかった。


特に、まだ青い大豆を塩ゆでにした物はビールのつまみに最適であるということで、酒飲みを中心に領内からは感謝の声が多く上がっている。


更にはこうした新しい調味料や料理を目当てに旅人達がルシアン領に集まり、更にはそうやって増えた人を目当てに行商人達も集まって、現在のルシアン領は好景気に沸いている。



また日頃からよくパトロールと称して領内を出歩き、性格的にも偉ぶったところが無く、誰に対しても笑顔で対応するリーオは、主に農民や商人達から高い評判を得ていた。


以前「領民にあまり贅沢を覚えさせるのはいかがなものか」などと、訳知り顔で忠告してきた教会のいけ好かない司祭をリーオが一喝して黙らせた一件などは、今でも領民の間で語り草になっている。


ルシアン領領都にある商業ギルドの食品流通部門などでは、その際にリーオが言い放った言葉が、挨拶代わりの合言葉になっていたりする程である。


曰く「美味しく食べて何が悪い」




そうした経緯を思い浮かべながらのカールの言葉に、ルシアン伯は首を横に振る。


「いや、それもあるだろうが結局のところ奴の本音は、一人で自由気ままに生きたいということだろう。元々奴は気分屋で孤高を楽しむ気性だ。政には向かぬ。ただ、奴を失ったことによる領民の怒りは、原因となったベリアン侯爵とアディール嬢に向かうことになるだろうな。その辺りはやむを得まい」


「まあ領民が直接ベリアン侯爵と関わることはまず無いので大丈夫でしょうが……ただそれとは別に、当家にも面子というものがあります。形だけでも抗議の手紙を送っておきましょうか」


「そうだな。それからリーオの肝煎りで行っていたベリアン領への食糧支援だが、あれは打ち切るぞ。婚約も解消となりリーオもいなくなった今、支援をする理由も無いからな」


ルシアン伯の言葉にカールは頷く。




ベリアン侯爵家は、代々の武門の家柄でアト王国きっての武闘派と呼ばれている、といえば聞こえは良いのだが、実際のところその才覚はほぼ軍事にのみ偏っていた。


先祖が建国時に立てた武勲により侯爵の地位を与えられてはいるものの、内政に関しては経済的に有効な政策を打ち出すことが出来ず、領内は困窮する一方。


リーオがアディールと婚約したことで義実家の援助という名目が出来たことにより、以前からリーオの発案でベリアン家と領民に対し、ルシアン領から食糧の支援を行っていた。


しかしベリアン家では、それにより浮いた金を更に軍事費につぎ込むという本末転倒ぶりで、他の貴族家からは呆れと失笑を買っていた。


食品開発などで奇妙な才覚のあったリーオがベリアン家に婿入りすることで、それらの改善が見込めるのではないかという考えもあっての食糧支援であったが、その話が消滅した今、ルシアン家の財産を削ってまで援助を行う意味などどこにもない。




「あとはリーオについてか。このまま全部奴の思い通りというのも癪に障る。どうせなら自棄を起こして夜中に屋敷のガラス窓を200箇所ほど壊して回ったので、取り押さえて修道院に送ったということにでもしておくか」


「父上、200箇所はさすがに盛りすぎです。50箇所くらいにしておきましょう」


「ああ、それで周知と王都への届け出を頼む、それでこの話は終わりだ。何、奴ならば上手いこと生きていくだろうよ。それにしても……」


それにしても?と首をかしげるカールに、ルシアン伯はいやなに、と呟いた。



「奴が小さい頃からよく食べたいと言っていたかつぶしというのは、結局何だったのだろうな?」





後日『ルシアン辺境伯次男リーオ・ヒル・ルシアンが突如錯乱し、屋敷内のガラス窓50箇所を破壊するという暴挙に出た為、取り押さえられて修道院に送られた』という噂が領都に流れた。


しかし領都の民は「あの質素なお屋敷に50箇所もガラス窓があるわけが無い。リーオ様のことだから、大方また何か変なことをやろうとしてお仕置きをくらったに違いない」と、信じる者はいなかったという。



一方で、ベリアン侯爵家からのリーオに対する一方的な婚約破棄には、ルシアン領領民から非常に多くの怒りの声が上がった。


そして形だけのものとはいえ、ルシアン伯爵家からの抗議に対しても一切の返答が無かったこともあり、ルシアン伯爵家はベリアン侯爵領への食糧支援の打ち切りを正式に決定した。



「そんなわけで母上、義姉上、僕は家を出ます。お世話になりました」


「リーオ、今回の件は私も本当に残念に思います。ですが何もそこまでしなくても……」


「そうですよ、お義父上様ならまたすぐに良い縁談を探して下さいます。どうか考え直してください」


「心配しなくても大丈夫、なんとかやっていきますよ。お2人には旅先で珍しい化粧品とか有効なダイエット食品とか見つけたら送るようにしますから」


「「行ってらっしゃいリーオ(さん)!!くれぐれもお身体にはお気をつけて!!」」

お読みいただきありがとうございます。


この母と義姉にしてこの子あり。



主人公の持つ知識ですが、調理関係は前世で家族の食事の支度や、テレビの料理番組などを見て知ったものです。


猫を見ているとたまに、彼らは私達が思う以上に人間のことを理解しているように思える時があります。

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