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10. ぜんせ の りょうり

よろしくお願いします。

この世界では『揚げる』という調理法は一般的には無い。


大量の油を高温にするので他の調理法に比べて危ないということや、食用に出来る油が貴重、そもそもたっぷりの熱した油に食材を放り込むという概念が無い、ということなどが理由になる。


貴族の家などで出される料理になると熱した油を使った料理もあるけど、それは肉などを多めの油を使って焼いた料理になって、揚げ物とはちょっと違う。


そして貴重な食用油の中での数少ない安価な例外がこのラード。


ただしこの世界の今の調理技術ではあまり使い途がなく、豚やパワードボアなどから多く取れるわりに、食用としてはもて余されているというのが現状。



そんなラードが調理場、そして倉庫には大量にあった。


アリサさんから厨房の使用許可をもらった僕は、厨房内と倉庫から使えそうな物をあさって早速調理に取り掛かる。


まずは古くなって固くなったパンを、細かく削ってパン粉を作る。


次に洗って皮剥いて一口大に切った野菜類の水気を切っておく。


それから厚手の頑丈な深鍋に、ラードをごそっと入れて火にかける。



まあ火というか、調理用の高熱を出す魔道具だ。


魔道具は基本高価なので、あの騎士団の食費もケチるソマリ男爵がよくこんなもの買ってくれたなと思ったら、薪かまどの不便さに耐えかねた騎士さん達がお金を出し合って買ったものなのだそう。


ってことは、動力用の魔石も自腹ってことか。


……なんかもう泣けてきた。


厨房にある薪かまどを見るとそこまで長く放置されているというわけでもなさそうなので、やっぱりたまには魔石が買えなくて薪かまどを使ったりとかしてるんだろうな。



熱されたラードが溶けて透明な液体状になり、更に十分温まったところで野菜を投入。


ジャガイモやニンニクは素揚げに、ニンジンやタマネギやカブは麦粉まぶして溶き卵つけてパン粉をかけてフライにする。


カブってフライにして美味しいもんなんだろうか?ってふと思ったけど、まあ不味かったら誰かが言ってくるだろうとやってみた。


良い感じのきつね色になったところで、油から上げて網の上において余分な油を落とす。


少し冷ましてから、後ろで固唾を飲んで見ていた料理当番の騎士さんに試食してもらうと非常に好評だったので、全部食べ尽くそうとするのを押さえて食堂にいる皆に出した。



ソースとか作れれば良かったんだろうけど僕は作り方知らないし、揚げたてだから塩で十分美味しいだろう。


ここからケチャップを作るのはさすがに時間がかかり過ぎるし。


自分で試食はしないのかって?


この僕という猫舌に揚げたての熱々のフライを食べろとか鬼ですか。



食堂からの「何だこれ!」「美味い!」「あちち!」なんていう声を聞きながら、僕は次の料理に取り掛かる。


皮を剥いたジャガイモを茹で、その間に端切れ肉を叩いてミンチにして塩振って炒める。


茹で上がったジャガイモを潰してミンチと混ぜ、少し冷ましてから手のひらサイズの楕円形に形を作る。


出来上がった楕円形に、さっきの野菜と同じように麦粉と溶き卵とパン粉をつけて油に投入。


きつね色になるまで揚がればコロッケの出来上がり!


あれ、そういえばタマネギも入れるんだったっけ?


……ま、まあいいや。


今世はともかく、前世ではタマネギなんて近寄らせてさえもらえなかったし。



え、なんで猫だったお前が前世の調理法にそんなに詳しいんだって?


前世で家の人がご飯作ってるのをテーブルに飛び乗って見てたり(後で怒られた)、テレビの料理を作る番組でやってたのを見たりしたのを思い出しながらやってるよ。


まあひとつひとつ完璧に覚えてるわけじゃないから、結構間違ったり抜けてたりしてるところも多いんだろうけど、でも別に完全に再現しようとしてるわけじゃなし。


多少美味しいのが出来ればそれで良いんじゃない?



フライと同じようにコロッケの余分な油を落とし、少し冷ましてから大皿に盛り付けて、さて皆に出そうと振り向いてぎょっとした。


アリサさん始め食堂にいた騎士さん達や、厨房にいた料理当番の騎士さんが涎を垂らし、爛々と輝く眼でこちらを覗き込んでる。


純粋に怖い。


震える手でおそるおそる大皿を差し出すと皆を代表してアリサさんが受け取り、そして食堂で凄絶な争奪戦が始まった。




戦争終結。


ケンカ良くない。


平和最高。



コロッケを食べ尽くした騎士さん達に、出て行かないでくれずっとここにいてくれとすがりつかれるのを、なんとか宥めて片付けを済ませる。


片付けを終わらせたら部屋に戻って、そのままベッドに倒れ込んだ。


なんか疲れたな今日は。


最後に自分の体に『クリーン』をかけ、僕はそのまま眠りに落ちた。




朝になって、目が覚めた僕が食堂に行くと、既に集まっていた騎士さん達が昨日の料理のことを訊いてきた。


ちょうどそこにアリサさんも来たので、僕は皆に昨日作ったのは食用油を使った『揚げ物』という料理で、パン粉を付けて揚げたのは『フライ』、潰したジャガイモを揚げた物は『コロッケ』と呼ぶことを説明した。


揚げる物は基本肉でも野菜でも良いけど、水っぽい物は避けること、揚げる前は水気をよく切ること。


昨日は塩で食べてもらったけど、塩コショウにレモンを搾っても美味しいし、何かソースを作っても良い。


コロッケにソースと辛子を塗ってパンに挟んでも美味しいことなどを教えると、騎士さん達はこれで少しは美味い物が食えると喜んでいた。


ただやっぱりどうしてもラードは大量に使うし、普通に作るより材料費も手間もかかってしまうので、毎日揚げ物というのは難しいんじゃないかという話はしておいた。


美味しいとはいってもこればっかり続いたら絶対に飽きてくるし。



それと油なのであまり食べると太るという話も伝えると、アリサさん始め食堂に数人いた女性騎士さん達が顔をひきつらせていた。


最後に油は何度か再利用が出来るけど、劣化して黒くなってきて使えなくなった油はぼろ布に吸わせて燃やすとか、古くなって使えなくなった麦粉と混ぜて燃やすとか、捨て方に注意するように。


間違ってもそのまま川に流したりなどしないよう、これは念入りにお願いしておいた。


揚げ物は確かに美味しいけど、その油が原因で川で魚が取れなくなるなど言語道断である。




僕はパンとミルクと茹で卵と野菜スープの朝食を食べながら、以上のことを皆に説明した。


それからアリサさんに、昨日の厨房の使用料と材料費ということで幾らかお金を払おうとしたけど断られ、その代わりここに居る間、時間がある時でいいのでここで食事を作ってほしいということを頼まれる。


どうやら相当に昨夜の料理が効いたらしい。


僕は本職の料理人ではないし、調理法もはっきり言って稚拙な方なのだけれど。


とはいえ、このままこの宿舎にタダで泊めてもらうのも心苦しいところだったので、それは引き受けることにした。


どうせこの町のギルドで依頼を受けるつもりなど無いし、服が出来るまでの間特にやらなきゃいけないことも無い。


そういえば1つだけ、暇潰しにやってみようかと思ったことがあったので、その間はお休みさせてもらうことにして、後はまあ夕食1食くらいならお手伝い出来るだろう。


僕はアリサさんにこの町には1ヶ月ほど滞在するつもりであることと、夕食のみであれば大丈夫ということを伝えて了解をもらった。


普通は料理人でもないただの冒険者にこんなこと頼まないはずなのだけれど、それだけ切羽詰まってたということなんだろうか。


僕がこの宿舎に1ヶ月泊まること、食事を作ることについてはアリサさんから宿舎の責任者の人に話を通しておいてくれるそうだ。



「それから昨日は言い忘れたのだが」とアリサさんからソマリ男爵に、ワイバーン討伐について報告した時の話を聞いた。


旅の途中でワイバーンの襲撃を受けたが、通りかかった冒険者の助力を得て討伐に成功し、シャルロットお嬢様を守ることが出来たという報告についてソマリ男爵からは「ん、ご苦労」とのお褒めの言葉をいただいたそうな。


やれやれ……


ちなみにアリサさん達は、シャルロットお嬢様がこの町に2週間程滞在する予定なので、アリサさん達も一緒の滞在予定だとのこと。


僕よりも少し早くに、お嬢様一行もこの町を発つことになるわけだ。



さて、朝食と話も終わったことだし僕は出かけることにしよう。



僕は訓練場の隅を借りて軽く基礎訓練を済ませると、昼食不要の申請を出して宿舎を出た。

お読みいただきありがとうございます。


また、評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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