17. もくてきち の がいよう
よろしくお願いします。
翌朝、旅の準備をすませた僕達3人とサテルさんは、昨日打ち合わせていた通りに運輸ギルドの前に集合した。
あの後冒険者ギルドに町を離れることを報告した際には困った顔をされたものの、領主様からの依頼ということで最終的には仕方ないという判断になった。
僕達のランク2級昇格については、ギルド本部から返事が来るまでにもう2ヶ月程かかりそうとのことだったので、その頃までにはイシャーク市に戻れるだろうということと、もし多少遅れるにしてもギルドには必ず顔を出すと伝えて了承をもらっている。
運輸ギルドの受付に確認したところシュガン子爵様からは話が通っていて、エアルドリー伯爵領のワムラダの町まで行く馬車と馭者が既に用意済み。
入口前に付けるので表に出て待っていてほしいと言われて外に出ると、少しして1台の馬車が僕達の前に止まった。
貴族用とまではいかないものの、屋根付きでしっかりした作りの大型馬車だ。
馭者をしてくれるのは、ローレンさんという中年の男性。
柔和で、物腰の柔らかい人だ。
貴族からの依頼だから、人当たりの良い人が選ばれたのかもしれない。
お互いに挨拶を交わして馬車に乗り込んで、ローレンさんの「では発車します。道中よろしくお願いします」の声と共に車が進み出した。
ワムラダの町へは、イシャーク市から馬車で10日程の道程。
馬車の馭者の仕事であちこちに行くローレンさんは、そのワムラダの町にも行ったことがあるというので、道すがら色々と話を聞いてみる。
「ルクク商会という商会が鉱山を経営してるんですが、はっきり言って小規模な鉱山なので、ワムラダもそこまで大きな町ではないんですよ」
ワムラダの町は、鉄を産出する鉱山の町。
前にローレンさんが行った当時は、ルクク鉱山で働いている人が約300人、町民が約1500人程だったという。
大きくはないとはいっても、やっぱりそれなりの規模の町ではある。
「それに鉱山というのも、犯罪奴隷が入るような危険な山ではないですし、その山から上がる利益で町としてはかなり羽振りの良い所になります。遠方から来る作業員の家族に向けた宿も何軒かあるので泊まる心配もしなくて良いですし、歓楽街なんかもありますよ」
へえ、歓楽街……
僕が何の気無しに思い浮かべていると、気配を察したのかアリサとユーナに睨まれた。
あくまで僕は何の気無しに思い浮かべていただけである。
決して、行きたいなんて思っていたわけではない。
ワムラダの町へは街道の関係で、エアルドリー伯爵領の領都のマリゾー市を経由して行くことになる。
領都だけあってかなり大きく発展している町らしいので、ワムラダの町への行きと帰りにはマリゾー市で軽く休養を取る予定となっている。
とりあえずワムラダの町の町についての話は聞けたので、馬車はローレンさんに任せて僕達はお互いの話に移る。
「サテルさん、昨日あの後、ユーシラさんとは大丈夫でした?」
「ん?ああ、大した話じゃなかったよ」
頷いたサテルさん。
軽く息を吐いて、困ったような笑顔を浮かべて話を続けた。
「『大地の黄玉』を、子爵様に紹介してくれってさ」
シュガン子爵様に紹介?
それはまた、思いがけないお願いをされたものだ。
「子爵様の、お抱え冒険者にでもなりたいってこと?」
ユーナの問いに、サテルさんは軽く首肯する。
「クワンナでの一件であの3人、ランクが下がってしまったからね。なんとかして巻き返しをしようとしてるんだと思うよ」
「それで、貴族の後ろ盾を得ようとしているというわけか」
「ユーシラは、元は貴族の出だからね」
そういえば前にそんな話を聞いたっけ。
確か『大地の黄玉』の中ではユーシラ1人だけがグランエクスト帝国貴族の出身で、他は皆平民の出だったとか。
ユーシラはやっぱり貴族の生活に返りたいとか、そういう希望があったりするのだろうか。
「それで、子爵様に紹介って……」
「いや断ったよ。俺達は子爵様からの依頼を受けただけで、お抱え冒険者を紹介するなんていくらなんでも恐れ多いよ」
「まあ、そうですよね」
実際、僕達とシュガン子爵様は友達というわけでもなんでもない、ただの冒険者と依頼人の関係なんだから、知人を紹介して後ろ盾になってもらおうなんて、そんな図々しい真似など出来るはずもない。
「ただ……彼女に食い下がられてしまってね。ついうっかり、今日から依頼でワムラダの方へ行くというのをしゃべってしまって……」
「あらら」
「本当に申し訳ない」と頭を下げるサテルさん。
ただし詳しく聞いてみると、ユーシラに言ってしまったのはエアルドリー伯爵領の山の方面へ向かうということだけで、具体的にどの場所へ行くのかとか、どういう依頼を受けているのかみたいなことは言ってはいないらしい。
結局サテルさんにお願いを断られたユーシラは、意気消沈した様子で去って行ったのだそう。
諦めてくれたかな?
それにしてもサテルさん、『大地の黄玉』の人達のことはもう吹っ切れたのかな。
だったら良いことだ。
暦の季節はもう冬に差し掛かっているけど、南国のグランエクストはまだまだ暖かい。
朝の日差しの中、馬車は街道をのんびりと西へ向かって行く。
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