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15. さがしびと の いばしょ

よろしくお願いします。

フランシスさんが目撃されたのは、エアルドリー伯爵領の端の方にある、ワムラダという鉱山町。


彼女が姿を消した場所から、歩きなら1週間程離れた場所にある山の中の町だという。



シュガン子爵様からの依頼というのは、僕達にそのワムラダという町まで行き、フランシスさんの消息を確認してきてほしいというものだった。


他、もしもその町でフランシスさんの所在が確認できたら、出来ればこちらに連れて帰って来てほしいとのこと。


なるほどそれであれば、人相だけを頼りに漠然と捜し回るというようなことではない。


これなら僕達にもやれるかな。


それにしても……




「あの……フランシス様が他家に嫁がれた後のこと、よくご存知で」


「ああ、エアルドリー領にも私の知人がおりますのでその者に頼んだり、時には人をやったりして、折に触れて彼女の様子を見てもらっていたのです」


「そ、そうですか……」


おそるおそる尋ねた僕に、事もなげに答えるシュガン子爵様。


一瞬頭に浮かんだ「ストーカー」という言葉を振り払いながら、僕は小さく頷いた。


前世ではテレビで、一方的に執着してくる相手からのつきまとい行為への対応が遅れた結果、悲劇につながってしまったというニュースをたまに見ることがあったけど、はたしてこの人は大丈夫なんだろうか?


今のところ害は無さそうではあるけれど。


まあ、冒険者である僕達が貴族の内情に口出しなんてことは出来ない。


とりあえず今は、子爵様からの依頼を受けるかどうかだ。



「僕とこちらのアリサとユーナは夫婦でありパーティを組んでいるのですが、こちらのサテルにつきましては個人で活動している冒険者にございます。彼にも、僕達と同じご依頼を?情報収集などに長けた者ですので、僕達としては一緒に来てくれればありがたい限りなのですが」


横でサテルさんが「えっ!?」という顔で僕を見ているけど無視する。


「そういうことであれば、サテル殿にも合わせて依頼をしたいと思います。報酬や条件などについては、皆さんと同じということで」


「報酬の額につきましては……」


「お1人につき、金貨2枚ということでいかがでしょう。他に、ワムラダまで行く馬車の手配もこちらでさせていただきます」


1人頭金貨2枚に馬車の手配もしてくれる、これはかなり良い条件だ。


目的地が鉱山町でおそらくは山の中の町ということで、依頼の間は海魚が食べられないことになりそうで、そこは少し残念なのだけれどまあ仕方ない。


いつまでもというわけではないのだし、調査を終えてこの町に帰ってくればまた魚は食べられる。



後は、僕1人で依頼の受注を決めるわけにもいかないので、


「……お時間をいただき誠に恐縮なのですが、少しだけ仲間と相談させていただいてもよろしいでしょうか?すぐに終わりますので」


「かまいません、ぜひとも良いお返事を期待しています」




シュガン子爵様からの了承を得られたので、僕はアリサとユーナとサテルさんと4人で、毎度のごとく部屋の隅で円陣を組む。


「そんなわけで、どうする?僕としては悪くない依頼だと思うんだけど」


「ワムラダだっけ?その町まで行って、フランシスって人を訪ねて帰って来るだけか。それで1人金貨2枚で行き帰りがタダなら、けっこう良いよね」


「鉱山町ということは、鉱山で働く人とその家族が主に住んでいる町か。どれぐらい大きな町なのかはわからないが、住民同士のつながりは強そうだな。向こうで人を探すのも、案外楽にいくかもしれん」


「あの……やっぱり俺も行くのか?」


「あれ、行かないんですか?聞く限りではそこまで難しい依頼でもなさそうですし、報酬も良いですし。何より貴族様からの依頼ですからねえ。なんとなく嫌だで断ろうもんなら、無礼だということでサテルさん本人はもちろん、一族郎党縛り首に……」


「わかったよ行くよ……」


「サテルさん、やっぱりこいつを見習うの、止めた方が良いんじゃないか?」




まあなんやかやの末にこの依頼は受けようということで話が決まったので、僕達は席に戻ってシュガン子爵様に向き直った。


「お待たせして誠に申し訳ございません。このご依頼なのですが、お受けさせていただきたいと思います」


僕の返答に、子爵様はほっとした様に息を吐いた。


「そうですか、それは良かった。どうか、彼女をよろしくお願いします」


「それで、依頼遂行にあたってなのですが……」



それから僕達は、改めて依頼の内容について子爵様と話を詰める。


基本的にはいつも言っていることと同じ。


まずこの件の依頼内容については他言無用。


冒険者ギルドへはこの後、シュガン子爵様から人捜しの依頼を受けたという旨だけを報告。


ワムラダの町行きの馬車についてはこれから手配して、明日の朝出発の予定。


現地ではフランシスさんの捜索に出来る限りのことはするけど、その上でどうしても彼女が見つからなかったり、彼女が帰ることを拒否したり、もしくは死亡が確認された場合などについては、僕達に責任は問わないでほしい、万が一ワムラダの町や現地に向かう途中で僕達の手に負えない事態が発生した場合などは、その時点で依頼遂行を中止して引き返すが、その際の責めも無しということについても了承をもらう。


人捜しでエアルドリー伯爵領に入るのは問題は無いけど、フランシスさんの失踪についてアーロッド氏やエアルドリー家の関係者に話を聞くのは難しいとのこと。


こんなところか。




話を終えた僕達は椅子から立ち上がり、シュガン子爵様に頭を下げた。


「承りました。それでは仰せの通り、僕達は明日ワムラダに出発いたします。馬車の手配などしていただき、ありがとうございます。良いご報告が出来ますよう力を尽くしますので、何卒よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。良い結果を期待しています」


こうして、思いがけずシュガン子爵様からの依頼を受けることとなった僕達。


少々心中に複雑なものを覚えながら、子爵様の城を辞去したのだった。



「こう言っちゃ何だけど……重い人だね」


「まあ、惚れた女にずっと一途という言い方も、出来るのかもしれんが……」


「うちの旦那はあれだね、婚約者と別れてから、わりと早くに私達に乗り換えたね。情が薄いのかな?」


「思い当たる節が……無いでもないような」


「2人共非道い。わ~ん、浮気してやる」


「「なんだとこの」」

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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