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14. ひとさがし の いらい

よろしくお願いします。

別れ話になります。苦手な方はご注意ください。

部屋から出て行くマリアネーラ殿下と『赤熱の旋風』の人達を見送った後、シュガン子爵様は改めて僕達に向き直った。


「突然の話ですみません」


「いえ、滅相もございません。それで、僕達へのご依頼といいますのは……?」


僕が尋ねてみると、子爵様は少し言い淀んだ後、顔を上げて言った。


「実は……とある人を、探してほしいのです」




人探しの依頼か。


でも、人探しなんて言われてもな。


家出やら駆け落ちやら旅の途中の失踪やら、行方不明になった人を探してほしいという依頼は別段珍しいものではない。


ただし、はっきり言って冒険者としてはかなり不人気、というよりも敬遠されがちな依頼になる。


寄せられる依頼としては「これこれこんな人がいなくなったので探してほしい」という漠然としたものが大半で、そんなものどこから手を付ければ良いのかわからないからだ。


失踪はしたけどその町の中に留まっているとでもいうならまだ探し様はあるのかもしれないけど、別の町に逃げましたとか、他国へ出て行きましたとかなんてことになったら、それこそ雲をつかむような話になってしまう。


冒険者の中にはそういった捜索依頼を専門的にやっている人もいるみたいなのだけれど、正直なところ解決率としてはあまり高くはなく、報酬は捜索期間の日当に加えて発見出来た場合は成功報酬をプラスというような支払いのやり方をするらしい。


それに第一、貴族でそれなりのツテも人手も持っているであろうシュガン子爵様が、なんでそんな依頼を今日初めて会った僕達にする?


誰を探すにしろ、自分の家来に命令するとか、それこそ先程の『赤熱の旋風』に依頼するとか、他に信用出来る人に頼んだ方が良いだろう。



そんなわけで


「誠に申し訳ございません。僕達はこのグランエクスト帝国に入国してまだ日も浅く、この国の地理や人の流れにつきましてもまるでわかっていない状態です。人探しのご依頼でしたらそんな僕達よりも他の、国内に詳しい方にご依頼されるのがよろしいかと愚考いたします」


僕の言葉に、子爵様は慌てた様に首を横に振る。


「ああいえ、ただ漠然と探してほしいというものではないのです。大体の居場所といいますか、彼女が最後に目撃された場所が判明していますので、皆さんに依頼したいのはその場所を確認して来てほしいというもので」


彼女、ということは、探し人は女性か。




まあとりあえずは女性1人、何の情報も無く闇雲に探せという話でもなさそうなので、僕達はもう少し話を聞いてみることにする。


居住まいを正した僕達に、話を続ける子爵様。


シュガン子爵様の話によれば、捜索対象の名前はフランシスさんといって、子爵様の元交際相手の女性とのこと。


フランシスさんは隣領の領主であるノイン男爵の娘であり、現在はエアルドリー伯爵という貴族家に嫁いだ後、エアルドリー領内で行方不明となっている。


歳はシュガン子爵様が現在23歳、フランシスさんはその2つ下で現在21歳。


子爵様とは2年程前まで交際が続いていた。


当然シュガン子爵様はフランシスさんを愛していたし、ノイン男爵家に対して彼女との結婚の申し入れも行っていた。



ところがそんな時、ここシュガン家の隣領貴族であるエアルドリー伯爵家の子息であるアーロッドという人が、帝都で開催されたパーティでフランシスさんを見初めた。


アーロッド氏はシュガン子爵様よりも2つ程歳上だったのだけれど相当彼女が気に入った様で、(子爵様曰く)執拗に彼女に求婚を繰り返し、実家のノイン家にも相当額の援助を行った。


その熱心さにほだされたこととエアルドリー伯爵家との縁戚を期待した実家の勧めに応じる形で、最終的にフランシスさんはアーロッド氏の気持ちに応えることを決め、またシュガン子爵様と彼女とはまだ正式に婚約などは交わしていなかったこともあって、結局フランシスさんはアーロッド氏と結婚。


シュガン子爵様は泣く泣く別れることになったとのこと。


なんだかどこかで聞いたような話である。


横でユーナとアリサが、僕の方をじいっと見つめてきているのから目をそらす。


まあ実際、貴族社会ではありふれた話ということではあるのだけど。



そして実はシュガン子爵様がこの依頼を自分の家臣や『赤熱の旋風』ではなく、あえて面識の無い僕達にしてきた理由というのもこの辺にあった。


なんのことはない。


別の男と結婚した元カノの追跡調査など、家臣や付き合いのある冒険者パーティ(しかも美人の女性達)には頼み難く、逆に面識が無くて言わば通りすがりの僕達の方が頼みやすかったということである。


隣でアリサとユーナが、内心呆れている気配が感じられる。


確かに、別れた相手に対していつまでもいつまでも未練がましいという気もしないでもない。



で、エアルドリー伯爵家に嫁いだフランシスさん。


別れたのは残念ではあったけど、身分的にも財力的にも自分より上の人と一緒になったということで、これまでよりも裕福な生活は送れているだろう、もしかしたら自分と一緒になるよりも幸せになれるかもしれないと、子爵様は自分を納得させようとしていたのだそう。



ところが、彼女の結婚生活は幸せなものにはならなかった。


結婚した翌年、フランシスさんはアーロッド氏との子供を妊娠する。


しかしフランシスさんは、妊娠中にちょっとした病気にかかったことが原因で流産をしてしまった。


周囲はもとより、特にフランシスさん本人は相当なショックであったであろうことは想像に難くない。


さらにはフランシスさんは命には別状は無かったものの、精神的なものもあってかその後しばらく体調を崩し、ベッドから起き上がれない日が続いた。


そんな時は、本当なら旦那さんが彼女に寄り添ってあげるべきだったのだけど、その旦那さんであるアーロッド氏は塞ぎ込むフランシスさんを持て余してでもいたのか、求婚の時とは打って変わって冷淡な態度だったらしい。


寝込んでいる彼女の病室に顔を見せることも、ほとんど無かったのだそう。



結局のところ、半年程の療養生活の末にフランシスさんの体調は回復し、外出なども出来るようにはなった。


しかし、1度出来てしまったフランシスさんとアーロッド氏との関係の溝が埋まることはなかった。


結局エアルドリー伯爵家とフランシスさん、そしてノイン男爵家との話し合いの結果、彼女とアーロッド氏は離婚が決定した。


家同士の意向が最優先の貴族の結婚において、多少夫婦仲が良くなかったとしても離婚というのはあまりないことなのだけれど、まったく無いというわけでもない。


今回の場合はフランシスさんとアーロッド氏は子もおらず、冷え切った夫婦仲で今後新たに子供が出来る可能性も低く、このままずるずると今の状態を引きずるよりはいっそ別れてお互いに新しい相手を、という判断にでもなったのだろうか。



そして今から半年程前、エアルドリー家から馬車でノイン家へと帰る際、その道中でフランシスさんは姿を消した。


馬車を停めて休憩をしている、ほんの僅かな間のことだったという。


当然エアルドリー家の方でも、ノイン家の方でも捜索は行ったのだけれど、彼女の行方はとうとうわからなかった。


最終的に1ヶ月程捜索を行った後に、おそらくは魔物にでも襲われて死亡したのだろうという結論で捜索は打ち切りとなった。


ちなみにノイン男爵家の方は、期待していたエアルドリー伯爵家との縁戚が上手くいかなかったことに加え、元々財政に余裕が無かったところへ結婚の費用に流産の際のお見舞金に離婚となったことのお詫び金にと立て続けに多額のお金を払うことになってしまい、現在は青息吐息の状態らしい。


ところが先日シュガン子爵様の下に、つい最近フランシスさんを見かけたという知らせが入ってきたのだそう。

お読みいただきありがとうございます。

また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。

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