8. いっきゅうと の さいかい
よろしくお願いします。
シュガン子爵の城は、ここイシャーク市の中心にある。
冒険者ギルドの前で乗り合い馬車を捕まえて、馬車に揺られること1時間程。
ちなみにラヌル市やドーヴ市、イシャーク市などは、僕達がこれまでに訪れた町の中でも大きな都市なので、市内には街中を移動するための乗り合い馬車も走っている。
市内の大まかな経路を日に何度か回っていて、その経路沿いであればどこからでも乗れるしどこででも降りられるというものだ。
バスみたいな感じになるのだろうか。
前世のテレビでやってたバスの旅みたいなのは無理そうだけど。
他に街中での移動手段としては馬を人足込みでチャーターするといった方法もあって、これは前世で言うタクシーみたいなものになるのだろうか。
これは具体的に行きたい場所にまで連れて行ってくれるものなのだけれど、やっぱり乗り合い馬車などと比べると運賃が割高になる。
他にもこの町では見かけないのだけど、人力車や、乗客が大きなカゴに入って人足2人がそのカゴを担いで移動する、なんていう乗り物もある所にはあるらしい。
そういうのもちょっと面白そうではある。
閑話休題。
乗り合い馬車で到着した市の中心部には、シュガン子爵の家臣や騎士達の屋敷が集まっていて、子爵の城はそのさらに奥、30分程歩いた所にある。
城と言っても、王城のような大きくて壮厳なものではなく、防備が比較的固めの屋敷といったものである。
グランエクスト帝国は軍事国家であるため、有事に備えて貴族の家もそうして守りを固めることが推奨されているのだそう。
冒険者ギルドで例によってスカーレットさんを質問攻めにして、シュガン子爵の可能な限りの知識を仕入れた僕。
聞けばなんでもシュガン子爵は、歳は20過ぎとまだ若年。
先代が引退して今の当主に代替わりをして、まだ日も浅いらしい。
政治の手腕については、今のところ可もなく不可もなくというのは、この町に住んでいる人だからこその感想と言えるだろう。
他所から来た僕達からしてみれば、このイシャーク市も先日立ち寄ったクワンナ市も、とても発展しているように思えた。
その土地の風土や民の気質にもよったりするのだけど、基本その土地を治める貴族が酷いと領内って本当に荒れる。
僕も実家にいた時に1度だけ、父上の用事に同行して王都に行った際に途中で見たことがあるのだけど、そうした土地の住民は本当に悲惨な暮らしぶりだ。
内政の才能がある人だったのだろうか。
それとも子爵はまだ若いという話だし、先代からのやり方をそのまま継続する形で領地運営をしているのが上手く行っているのだろうか。
いずれにせよ領民をいじめたり、無茶振りをかましてきたりするような人ではないらしいとのことなので、その辺は気を楽にして子爵の城に向かい4人で歩き出した。
とそこに後ろで、僕達が来たのとは反対側から走って来た乗り合い馬車が停まった。
そこから降りてきたのは、なんと先日冒険者ギルドで会った1級パーティの『赤熱の旋風』の人達。
僕達を認めると、彼女達の中から魔法使いのローズさんが声を上げた。
「あら、また会ったわね」
「ローズさん」
手を振ってこちらに歩いて来るローズさんと、キンセンカさんアリアナさんラックル君も笑顔で後に続く。
「珍しい所で会うのう」
「先日はどうも」
「ご無沙汰してます」
頭を下げる僕達に、『旋風の旋風』の人達は屈託のない笑顔を向けてきた。
「どうもこんにちは」
お互いに挨拶を交わして、僕達はゆっくりと町の中心に向かって歩きながら話を始めた。
「お主達がここにおるのは、貴族様から依頼でも受けたのかの?」
「依頼とはちょっと違うんですが、シュガン子爵様のお屋敷に呼ばれてこれから伺うところです」
僕の言葉に、少し驚いた表情を浮かべる『赤熱の旋風』の人達。
「それは奇遇ですね。私達も子爵様に呼ばれて、今から向かうところなんです」
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