5. ていこく の ひろさ
よろしくお願いします。
「ヘンゼンは78尾完食!コタロウは102尾完食!このイワシ大食い勝負はコタロウの勝ち!」
「ぐっ……ふ……!お前……その小さい身体のどこに、そんな大量の魚が入りやがるんだ……」
「魚は別腹!」
「なんていうかコタ、今までで1番活き活きしてるね……」
「知ってるかユーナ、こういうのを『水を得た魚』というらしいぞ?」
「そ……そういえばお前、勝負開始の前に30分くらいどこかに行ってやがったな?何か小細工でもしてたんじゃねえのか!?どこに行ってやがった!?」
「はい!僕、一度に魚100尾は食べたこと無かったから、裏の魚屋に行って、本当に食べられるかどうか試しに100尾食べてきました!」
「……」
僕達が領都イシャーク市に到着してから1週間が過ぎた。
着いた当日はドタバタしていてちゃんと見ることのなかった海だけど、改めてゆっくりと見てみるとやっぱり広い。
シエラノ河も広かったけど、海はなんていうか本当に、どこまでもどこまでも広がっているという感じがする。
試しに海水をちょっとなめてみたら、聞いていた通りにしょっぱかった。
面白いけど、この水から塩が出来るのだと考えると、少し不思議な感じもしている。
そんな海だけれど、天気の良い日には遠くにうっすらと、陸地の影が見えることがある。
聞くところによると、あれがこの大陸の南にあって、魔族の住んでいる暗黒大陸らしい。
ここイシャーク市からは行けないのだけれど、帝都ザシオーンの近くにある港町リバケイプからは、魔族の国との交易船が出ているのだそう。
向こうの大陸には一体どんな景色が広がっていて、どんな国があってどんな人が暮らしているのか、ちょっと見てみたい気もする。
それこそ前世の、海についての歌の2番の歌詞のように。
「魔族に、魔王……どんな人なんだろうな」
3人で港の岸壁から遠くに見える大陸の影を眺めていると、アリサがぽつりと呟いた。
そんな彼女に、ユーナが苦笑いで答える。
「教会では色々言ってたよね。血も涙も無くて神を憎む背信者、人を殺すのが大好きな恐ろしい人達だとか」
「でも、この国では魔族と交易をしているんだろう?それなら、そこまで危険な相手ではないんじゃないかって気もするが」
「逆に意外と、すごく優しくて良い人達だったりして」
こんな風に、と僕は前世の歌を歌ってみる。
南国の島の大王様とその家族と、その島で暮らす人達のことを唄った歌。
「平和そうな島だねぇ」
「王族どころか、島の人全員が同じ名前なのか?すごいな」
聞いていたユーナとアリサが感想を言っているところに、歌を珍しがった周囲の人達が集まってきた。
せっかくなので、これも前世のテレビで見たフラダンスを踊りながら歌ってみたら、皆から拍手喝采になった。
話を戻して。
滞在の間僕達は、各々の武器の手入れや、クワンナ市で大量に使った消耗品の補充などを行う日々。
ここで僕達の武器の手入れを頼みに武器屋に持って行ってみたところ、ユーナの使っていたエルダートレント素材の弓が、予想以上に劣化が進んでいたことが発覚。
エルダートレントというのもかなりランクの高い魔物ではあるのだけど、それでもドラゴンの力を受け止めるには荷が重かったらしい。
そんなわけで、武器屋で紹介してもらった職人さんに新しく、ダーククラスタアイアンという素材で弓を作ってもらうことになった。
帝都ザシオーンから送られて来た、魔族の錬金術により作られた金属らしい。
ユーナの体格に合わせて調整はしてもらうものの、彼女の現在の力では少々重いというその弓。
「重いのなら取り回せるまで鍛えれば良い」と嬉々として訓練メニューの見直しを始めるアリサに、青い顔をしていたユーナだった。
どうせなら、以前から考えていたユーナの武器の強化について、ちょっとこの町で試してみることにしようかと思いついた僕。
「それじゃあこの後魔石屋に行って、魔石の精製と加工を頼んで……」なんて考えている僕を、ユーナが「また何かろくでもないこと考えてるな」という疑いの眼差しで見つめていた。
せっかくなのでついでに、このグランエクスト帝国内で武器や防具の製造が盛んだったり、腕の良い職人さんが集まっている町などは無いかと武器屋の主人に尋ねてみる。
主人の話によれば、この国の帝都ザシオーンから程近い場所にドッカジという町があり、そこは町が丸ごと職人街の様になっている所なのだと教えてもらった。
軍事大国であるグランエクスト帝国の、帝都ザシオーンへの武具の大きな供給源となっている町なのだそう。
そんな所であれば、僕の持っているオブシウスドラゴンのウロコで装備品を作ってくれる職人さんも見つかるかもしれない。
帝都の近くということであれば、その町に行くついでに帝都見物というのも面白いだろう。
帝都ザシオーンの場所は、ここイシャークからずっと西。
馬車で街道を順調に行っても1ヶ月以上かかるらしい。
……1ヶ月!?
帝国ってそんなに広いのか。
ここシュガン子爵領は、グランエクスト帝国の領土の中でも東寄りに位置していて、帝都は中央よりやや西側にあるみたいなのだけれど、だとしてもそんなにかかるのか。
話を聞いて愕然となる僕。
隣りにいるアリサやユーナも、驚きの色を隠せない。
「……地図では見たことがあったが、実際に聞いてみると凄いな」
「中央諸国連合の国なんかとは、スケールが違うね」
確かに、せいぜい山道を2週間もあれば端から端まで行くことが出来たルフス公国や、スカール公国とかとは桁違いの広さだ。
ここから帝都まで行くとなると、かなりの長旅になる。
急ぐ旅ではないとはいえ、これはアリサとユーナとも相談しなければ。
こうして僕達は今後の打ち合わせをすることにして、武器屋を後にするのだった。
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。




