2. とうぼう の さき
よろしくお願いします。
イシャーク市にて『珊瑚の玉亭』という宿に部屋を取った僕達。
現在僕達はイシャーク市の冒険者ギルド支部の前に立って、4人でギルドの建物を見上げている。
イシャーク市の冒険者ギルドは、やっぱり領都の支部ということで大きくて立派な建物だった。
3階建てのギルド支部を見上げて、サテルさんが感嘆した声を上げる。
「ここのギルドはこんなに大きいのか。やっぱりクワンナとは違うんだな」
サテルさんは冒険者になってからずっとクワンナ市で活動してきた人なので、クワンナ市以外の冒険者ギルドを見たのは今回が初めてだったらしい。
「これだけ大きいギルドなんだから、きっと依頼もたくさんありますよ。さあ入りましょう」
とサテルさんを促して、僕達4人は入口の扉を開けてギルドの中に入った。
そして僕達がそこで見たものは……
「いや待ってくれ。俺達は2級パーティなんだ。4級に5級ってどういうことなんだ」
ギルドのカウンターで受付に詰め寄る、クワンナ市から姿を消した2級パーティ『大地の黄玉』の、タサワスとベルとユーシラ3人の姿だった。
「たった今2級の冒険者証を見せただろう?別の町の冒険者ギルドとはいえ、俺は間違い無く実績を上げて、そちらから2級の認定を受けて発行されたものなんだ。それで間違いだなんておかしいじゃないか。そう思わないかい?」
「きっと何かの手違いか何かがあると思うんです。とりあえず、私達の冒険者証返してもらえませんか?」
「あの……やっぱり、クワンナから出て来たことが……?」
「いやそれとこれとは関係なんて……」
「あなた方については、冒険者ギルドのクワンナ支部からギルド本部へ冒険者登録取り消しの申請が出され、既に本部でも承認されています。当支部にも、その旨通達が来ています。あなた方はもう2級と3級ではありません。冒険者証も、今新しい物を発行しますので少しお待ちください」
『大地の黄玉』の3人の文句に、毅然とした態度で答えるギルドの受付嬢さん。
そんな受付嬢さんの応えにタサワスはさらに言いつのるも、彼女の対応は変わらない。
……ていうか彼ら、こっちに来てたんだな。
自分を一方的に追放した元パーティメンバー達が目の前で騒いでいるのを見て、僕達と一緒に来たサテルさんが頭を抱えた。
「お前達……こんな所まで来て、一体何をやっているんだ?」
その言葉が聞こえてこちらに振り向いた3人。
呆れた目を向けているサテルさんに気づくと、その顔には驚愕の表情が浮かんだ。
「サテル……?お前、何でこんな所にいるんだ?」
「何でって。俺ももう1人身になったから他の場所でやってみようと思って、この人達と一緒にクワンナを出て来たんだよ。お前達こそ、領都にまで来てバカな真似、よせよ」
サテルさんの言葉に、タサワスが歯噛みをする。
「バカな真似とはなんだ。俺は間違い無く2級だぞ。サテルお前だってよく知っているだろう。このギルドの対応がおかしいんだ、そう思わないかい?」
「ここにいるっていうことはあなたも、クワンナから逃げてここに来たんでしょう?そんな偉そうに言われる筋合いは無いと思うんです」
「サテル、私は……」
言い募る3人に、サテルさんはため息を1つ。
「クワンナのギルドで話は聞いたよ。町の危機で依頼を受けたのに、誰にも言わずに勝手にいなくなって……どうやって町から逃げたのか知らないけど、クワンナのギルドはそれを悪質と判断してお前達のランク降格の手続きに踏み切ったんだよ。自業自得だ。それに俺は今3級だよ。クワンナ防衛での働きが認められたんだ」
そう言って、サテルさんは『大地の黄玉』に自分の3級の冒険者証を見せる。
それを見て驚く3人。
驚いたり怒ったりと、忙しい人達だ。
「嘘……3級……」
「上がったんだ……」
「な……何を言っているんだ。俺達は逃げてなんかいない!大体、町を守れなんて言われたって、あの状況じゃ勝ち目なんか無かったじゃないか。そんな状況で戦うなんて自殺行為だ。俺達には自分の命を守る権利があるんだ。そう思わないかい?」
「勝ち目が無いと思ったんなら、防衛の依頼があった時に断れば良かっただろう。2級にもなって、依頼を受けたのに戦いもしないで黙っていなくなったりしたから悪質と見られたんだよ。それに大きな被害は出たけど、クワンナ市は『ブラッドローズ傭兵団』を撃退したぞ。ちょっと確認すればわかる」
サテルさんの答えに、またしても驚きの表情になる『大地の黄玉』の面々。
この人達さっきから驚いてばかりだな。
「じゃあ、あの化け物みたいな奴らに勝てたっていうんですか?本当に?」
「ああ、勝てたよ。この人達のおかげでな」
ベルの言葉に、そう言って僕達に目を向けるサテルさん。
そこでやっと、僕達がいるのに気づいた様子のタサワス。
「君達は、あの時の……」
「どーも」と軽く頭を下げる僕達に、タサワスは今度はこちらに詰め寄ってきた。
「君達、あの盗賊共に勝ったっていうのか……?冗談だろう?君達は確か3級パーティだったはずだ」
「2級のあなた方が負けたのに、3級の僕達が勝てるわけが無い、と?」
「違う、俺は負けてない!俺は……」
「あなた方が負けてないのなら、僕達が勝てても問題無いですよね?それに僕達、今回の一件の功績が認められて、クワンナのギルドから2級昇格の承認をもらってます。本部への申請はこれからですが、昇級したらよろしくお願いしますね。同格……では、もう無いみたいですけど」
「くっ……!」
僕としても少々彼らには腹が立っているところがあったので、少しばかり揶揄ってみた。
これぐらいの意趣返しなら許されると思うのだけど、どんなもんだろう。
言い返せずにいるタサワスと後の2人に対し、サテルさんが再びため息を吐いて口を開いた。
「2級と3級から降格になったのは残念だ。でもそれも、お前達がやった行動の結果だろう。もうどうしようもないよ」
「……あり得ない……俺よりも低ランクが、そんな……サテル!」
とうとう抑えられなくなったか、サテルさんの冒険者証をつかみ奪ろうとするタサワス。
サテルさんに向けてタサワスの手が伸びるも、サテルさんはその手をひょいひょいとかわす。
「そんなことあるわけが無いんだ!避けるな!」
「避けなきゃ奪られてしまうじゃないか」
「サテル!!」
「それで!傭兵団が攻め寄せたクワンナで町の防衛の依頼を受けたのに、戦いに一切参加しないで町からいなくなった『大地の黄玉』の皆さん!イシャークにまで来て一体何をやっているんですか!?」
余裕を持ってタサワスの手を避けているサテルさん。
以前は前線に出ることが少なかったので大きな手柄を挙げる機会に恵まれていなかったみたいなのだけれど、実力はちゃんとある人なのだ。
でもさすがに腹に据え兼ねたか、身をかわしながら大声で『大地の黄玉』の所業を暴露し始めた。
その言葉を聞いたホール内の冒険者達が「なんだあいつら、バックレかよ」「それでここに逃げて来て、俺達2級って騒いでんのか?」「どういう神経してんだか」なんてひそひそと話をしている。
その様子に、居心地悪そうにしているベルとユーシラと、さらに激高するタサワス。
それを見て、僕の後ろのユーナとアリサが、
「……ねぇ、ヤバくない?サテルさん、思ってた以上にコタに感化されてるっぽいよ」
「……ああ。どこかで矯正を入れないと、手がつけられないことになるかもしれん」
なんて小声で話し合っていた。何なのさ。
とはいえ、冒険者ギルド内での暴力沙汰は本来なら御法度だ。
そろそろ止めないとと思って僕とアリサが2人に割って入ろうとした時、先に動いた人達がいた。
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