1. ねこ の さけび
よろしくお願いします。
「ふぎゃああぁあぁぁあああん!!」
「ユーナ、そっちを押さえろ!コタロウを決して離すんじゃないぞ!」
「コタ落ち着いて!」
「一体何がどうなってるんだ!?」
「さかにゃあぁあぁああぁぁあ!!」
現在僕達は、先日『ブラッドローズ傭兵団』と死闘を繰り広げたクワンナ市から船でシエラノ河を下り、シュガン子爵領の領都イシャーク市に到着していた。
シエラノ河を下る船の中で僕達の乗船を巡って船長と一悶着があったり、船に乗り慣れない僕やアリサやユーナが盛大に酔ったりと色々トラブルはあったものの、なんとか無事に船の終着点であるイシャーク市まで来ることが出来た。
イシャーク市はシエラノ河の河口にある、イシャーク湾という名の海に面した都市だ。
そう、海に面した都市なのだ。
この町には大きな港がある。
埠頭には大きな船が何隻も繋がれ、岸壁では大勢の人足達がたくさんの貨物の積み下ろしに励んでいるのが見える。
そして何よりも、海から港に戻ってきた船から水揚げされる、大量の魚。
間違い無い、あれは海魚だ。
とうとう、僕はたどり着いた。
やっと、ここまで来た。
周囲を見渡せば、港にも市街にも、魚料理を出すレストランや食堂や露店が溢れている。
港近くの飲食店街には『マグロ』『カツオ』『アジ』『アニラス』『ホナイ』『モブラエビ』『サザエ』『ホタテ』『カイツレ貝』など、知っているものや知らないものなど様々な海の幸の名前を染め抜かれた、色とりどりの旗やのぼりが海風になびいている。
そうした店から漂う、魚料理のいい匂いが僕を取り巻いている。
遂に、恋い焦がれたその時が来た。
今日が、いや今この時からが、僕の海魚祭りだ。
僕は言葉にならない鳴き声を上げて近くの食堂に突進しようとしたところで、側にいた3人に取り押さえられたのだった。
「こら、暴れるんじゃない!」
「まずは宿の確保!それから冒険者ギルド!キミがいつもやってることでしょ!?」
「嫌だ!冒険者はもう辞める!僕はここに住んで漁師になるんだ!」
「漁師なら捕った魚は売らなきゃいけないよ?全部好きに食べられるわけじゃないよ?」
「はっ!?」
そ、そうか……
考えてみれば確かにそうだ。
漁師さんだからって、魚を食べ放題ってわけじゃないんだな。
愕然と固まった僕の頭を、ユーナが優しく撫でてくれる。
前世で、かまってほしくて鳴いて騒ぐ僕の頭を、家族が撫でてくれたことを思い出す。
「もうちょっと私達と、冒険者を頑張ろう?」
「うん……頑張る」
頷く僕。
ここまでくれば魚はいつでも食べられるのだから、ひとまずは後回しと説き伏せられる。
呆れ顔をしているサテルさんを伴い、僕達はまずこの町での拠点とする宿を探しに、市街地へと向かうことにしたのだった。
◇
「なあ、ユーナ」
「何?アリサ」
「漁師はお金を稼いで生活しなければならないから捕った魚を売るのであって、お金に余裕のある私達であれば別に売る必要はないんじゃ……」
「しっ!コタに聞かれたらどうするの!そんなこと言ったらあの子、本当にここで漁師になるって言い出すよ!」
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