33. むすこ の ゆくえ
よろしくお願いします。
戦いが終わってから数日間、僕達はゼッタさんの息子のカストル君を探して回った。
しかし結局ゼッタさんの家にも、避難所にも、どこにもカストル君を見つけることは出来なかった。
サテルさんはカストル君に会ったことがあったし、ゼッタさんも亡くなってしまったということで、なんなら自分がカストル君を引き取ることも考えていたらしい。
でもカストル君の行方がわからないことで、酷く気落ちをしていた様子だった。
戦いに巻き込まれて命を落としてしまったのかとも思ったのだけれど、調べてみるとどうも様子が違うみたい。
カストル君と同年代の子供を見つけ出して聴き込みもしてみたのだけれど、何人か見つかった彼の友達の話によれば、カストル君は『ブラッドローズ傭兵団』が攻めてくる1週間くらい前から、ぷっつりと姿を見せなくなっていた。
お父さんのゼッタさんに具合でも悪いのかと尋ねてみたりもしたのだけど、言葉を濁されるだけだったのだそう。
そのゼッタさんも、当時はかなり焦った様子だったり機嫌が悪かったり。
かなりやつれも目立っていた様で、家の近所の人達も皆心配していたとのことだ。
確かに思い返してみれば、僕達にクワンナ市内の案内をしてくれていた時なども、やけにそわそわしていたり、疲れた表情でため息を吐いていたことなどが多かった気がする。
この件からまたろくでもない考えが頭をもたげてきたのだけれど、もしかしてゼッタさんは、息子のカストル君を『ブラッドローズ傭兵団』に誘拐されており、脅迫されて敵に内通したのではないだろうか?
同じ様なやり方で、大店やお金持ちの屋敷の使用人がお金につられたり脅迫されたりして家の鍵が内側から開けられ、強盗が侵入したという話ならこの世界で聞いたことがある。
ゼッタさんもそのようにして、カストル君を人質にされてやむなく従わされたということなのだろうか。
もしこれが正しいとなると……おそらくは、カストル君の生存も絶望的。
自分達の箔付けで一方的に町を襲うような連中が、取った人質を正直に返してくれるとは思えない。
嫌な考えではあるけど、ゼッタさんに言うことを聞かせた時点で殺されている可能性が大か。
まあこれも結局のところ僕の妄想であり、証拠などがあるわけではない。
ただゼッタさんも、大変なことになっていたなら僕達で何か気づいてあげられることは無かったのか、今更ではあるけど悔やまれる。
結局のところ僕達に出来たのは、ゼッタさんの遺体を丁重に埋葬することだけだった。
近日中に建立予定である犠牲者の慰霊碑には、ゼッタさんと合わせてカストル君の名前も記すことにしてある。
ゼッタさんの件はとても悲しいけれど、たとえどれだけ嘆いて、鬱いでいたとしても時は進む。
悲しみを堪えながらの町の人達の懸命な復興作業で、日々少しずつ元の姿を取り戻していくクワンナ市。
そして戦いの当事者であった僕達も、黙って指をくわえて見ているなんてことは出来るわけもなく。
住民の人達を手伝って、毎日大忙しな日々を過ごしていた。
戦いから2週間程もすると、領都イシャークより領主シュガン子爵様からの応援の軍200人が到着。
これは第1陣であり、イシャーク市では追加で人員を派遣する準備が進んでいるとの連絡が合わせて届いていて、実際にその後支援物資を運んだ応援の部隊が続々とクワンナ市に入ってきている。
当然の話、『クワンナ市に大規模傭兵団襲撃』の報が入ったイシャーク市では領主様以下びっくり仰天。
続いて、クワンナ市の戦力で2000人からの傭兵団を撃退したという報告を上げたらさらに仰天。
傭兵団と戦うための援軍ではなく、被害を受けた町の復興のための人手がほしいという要請には、皆驚くやら呆れるやらだったのだそう。
ちなみにシュガン子爵は今回の報告で初めて傭兵団の出没を知ったらしく、やはり先日送っていた伝令はイシャーク市には届いていなかったというのがここで判明した。
おそらくは途中で『ブラッドローズ傭兵団』に捕まってしまったのだろう。
まあ勝ったとは言っても、皆死にものぐるいで戦って、町にも人にも甚大な被害を出してやっとのこと追い払えたまでであり、クワンナ市は復興のため市民の当面の生活のため、それこそ猫の手も借りたい状態。
町の防衛力はがた落ちだし、それに場合によっては、体勢を立て直した『ブラッドローズ傭兵団』の残党が報復合戦を挑んでくる可能性だって無きにしもあらずだ。
軍の増援が来てくれるというのは素直にありがたい。
現在ではおよそ1000人強程の軍の応援部隊がクワンナ市に駐在し、市街地の復興の手伝いや、町周辺の警備などを行ってくれている。
合わせてクワンナ市をはじめ領内の各都市にも連携し、『ブラッドローズ傭兵団』残党の大規模な討伐なども計画されているとのことだ。
そんなこんなで皆して忙しくしていたら、早くも過ぎる1ヶ月。
犠牲になった人達の合同葬儀や敵兵の死体の始末もある程度目処が付いて、行政的にも大分落ち着いてきている様子。
そんなところでもうそろそろある程度の余裕も出来てきたことだろうと、現在僕達は災禍を免れた冒険者ギルドクワンナ支部を訪ねて、今回の一件の報酬の請求を行っているところである。
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