28. げきとう の りんぐ
よろしくお願いします。
残酷な描写があります。特に男性の方はご注意ください。
「オオォ!!」
「ォラア!!」
轟音と雄叫びを放ちながら、アリサと団長風が斬り結ぶ。
団長風の男は大剣を自在に振るう膂力と、これまでくぐり抜けてきた戦場で培われたのであろう剣技で、彼女の振るう剛剣を捌き、受け流している。
単純なパワーはともかく、実戦経験では男の方がやはり上の様だ。
一方でアリサはムーン・メタリアルの大剣で団長風の剣を受け止め、そこからカウンターを狙ってはいるのだけど、相手の力を防ぎきれておらず後退ったり弾かれたり。
現状は互角……いや、若干アリサが押され気味か。
それでも周囲の傭兵達からは「あの女やるな」「団長とやり合ってるぜ」なんていう声が上がっている。
あの男、やっぱり団長なのか。
ルフス公国の公都エレストアでのレッガー将軍との戦いに影響を受けて、ここ最近アリサは新しい剣術を考案、練習していた。
それは剣を振る腕を鞭のようにしならせることで、斬撃の軌道が読み難く、なおかつ彼女の剛力に遠心力を乗せた重い連撃を相手に叩き込むというもの。
敵の防御を1撃の重さで押し切る。1対1の決闘というよりも、乱戦などの中で敵を1人1人確実に仕留めていくことを想定しているらしい。
でもアリサのそんな新しい技をもってしても、あの団長を攻めきれてはいない。
打ち合う中、斬撃の合間を縫って放たれた団長の蹴りがアリサの胴体を捉えた。
吹き飛ばされて、傭兵数人を巻き込みながら近くの家の外壁を突き破る。
周囲の傭兵達からどっと歓声が上がる。
団長がにやりと笑みを浮かべた次の瞬間、土煙を割って中から飛び出すアリサ。
団長めがけて大剣を叩きつけるも、予想されていたのか落ち着いた様子で斬撃はさばかれてしまう。
やがて明らかに団長が優勢になってくると、団長の顔には余裕が浮かび、逆にアリサの顔には冷や汗がにじむのが見て取れた。
それを見ている周囲の傭兵達からの歓声も、次第に強まっていく。
いざとなれば援護に入れるよう、ククリを握る手に力を込めた僕が見つめる中、団長の横薙ぎに弾き飛ばされたアリサが遂に地面に片膝を付いた。
「アッハッハッハ!どうしたい嬢ちゃんよォ!その動きの様子じゃテメェ元騎士か!?まだまだ騎士の癖が抜けてねェみてェだなァ!そんなんで勝てたら、世の中苦労はしねェんだよ!……っとォ!!」
団長が目潰しで蹴り飛ばした地面の土と、いつの間に握り込んでいたのかアリサが投げつけた砂利が、両者の中央で衝突する。
それを見て、へぇ、と感心した顔をする団長。
「意外とやるじゃねェか、見直したぜ!その調子でどんどん汚ェ手を使ってこいよ!!」
「見直されて、これ程嬉しくなかったことは無いな!!」
すかさず立ち上がったアリサに団長が斬りかかる。
速く重い攻撃を必死にかわすアリサの表情に、もう余裕の色は無い。
一方で彼女の反撃をさばく団長は、余裕の表情を崩さない。
一旦跳び退って距離を取ったアリサが、剣の腹で地面を打ち付け石と礫を団長へ飛ばす。
大剣の大振りで苦も無く薙ぎ払った団長へアリサが突撃を仕掛けるも、突っ込みながらの袈裟斬りはあっさり避けられた。
一瞬の間が開く。
即座にお互いに向き直ったアリサと団長。
その大剣を握る手に、双方大きく力がこもるのが見えた。
「テメェは確かに強かったよ。俺相手によくやった、それは認めてやる。それだけ強けりゃ部下に欲しいところなんだが、残念ながらここまで仲間を殺ってくれた以上そうもいかねェ。これで終いにしてやるよ。覚悟しな」
実力差にもはや勝利を確信したか、団長が口元に笑みを浮かべる。
「倒してもいない敵を前に、御託を並べるのが、『ブラッドローズ傭兵団』の、流儀なのか?お前の方こそ、覚悟は出来ているんだろうな」
軽く息を切らしながら、眼の前の敵を見据えて歯を食いしばるアリサ。
次が、お互いの渾身の一撃だ。
「まだそんな口が叩けるかよ、嫌いじゃねェぜ」と嘲笑って、腰を落とす団長と、大剣を大上段に構えるアリサ。
次の瞬間2人は、溜めた力を一気に開放し、お互いに向け突進して行った。
アリサは上から、団長は下から、相手に向けてありったけの力で大剣を振るう両者。
剣同士が打ち合わさるその瞬間、柄を固く握り込んでいるはずのアリサの手から、ふっと力が抜けるのが見えた。
力無く弾き飛ばされるアリサの剣。
腰を落とし膝を付き、振り上げられた団長の剣を顔面すれすれでかわすアリサ。
そして、思わぬ空振りに驚きの表情を浮かべ、ほんの僅か体勢を崩す団長。
次の瞬間、団長の顔面に、剣を避けて上体を反らしながらも放ったアリサの拳が叩き込まれた。
「ガッ!……カッハ……」
側面から顎を打ち抜かれて、ぐらりとよろめく団長の身体。
その機を逃さず、動きの止まった団長の股間にアリサの前蹴りが直撃する。
「!!!!!!」
団長の声にならない悲鳴。
僕を含めたその場の男全員が、思わず内股気味になって凍りついた。
続けて、団長の顔面に連続で叩き込まれるアリサの拳打。
さらに動きが止まった団長の髪を掴んで、がつがつと何度も顔に膝を打ち付ける。
突然の展開とアリサのえげつない攻撃に、言葉を失くす周囲の傭兵達。
最後の一発とばかりに力のこもった顎への打ち上げをもろに食らい、団長が吹き飛ばされる。
そんな団長が地面に尻もちをついている間に、アリサは転がっていた大剣を拾い上げた。
金的を砕かれ、頭を揺さぶられて思うように動けない中、なんとか立ち上がろうとしている団長の喉元に、大剣が突きつけられる。
涙と鼻血でぐちゃぐちゃの顔が一層歪む。
「ぐ……ぐぶ……テメ……ェ……」
「騎士の癖が抜けていなかったのは、お前の方だったな」
「く、ぞ……ごぼっ……」
何か言おうとするも言葉にならない団長にアリサは無表情で一言だけ言い、そして大剣を振り上げる。
「終わりだ!」
「グゥゥウアアアァアアァァア!!クソガァァアッ!!」
大剣が振り抜かれると同時に団長の雄叫びが途切れ、首が重い音を立てて地面に転がった。
途中まで優勢に戦いを進めていた団長の思わぬ敗北に、言葉を失う傭兵達。
団長の首を刎ねたアリサは一息吐くと、ゆっくりと大剣を上げて、リングの一角を指し示した。
その先にいたのは、これまで戦いを見守っていた1人の傭兵団の女。
団長が倒されたのを受けて、燃え上がるような憎悪の目をアリサに向けている。
そんな彼女をアリサは睨み返し、続けて言い放った。
「次はお前だろう?本物の団長」
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