27. いかり の ぶたい
よろしくお願いします。
残酷な描写があります。ご注意ください。
中に踏み込んでいた敵兵達を呑み込んで火の海と化す広場。
炎の中からは、火だるまになった敵兵の悲鳴が響き渡る。
やったか?
広場の炎が収まるのを待っていると、先程の爆発を見咎めた傭兵達が駆けつけて来た。
「何だこりゃ!?」「罠か!?」「団長!!」と口々に叫び、燃え盛る炎を前に立ち尽くす。
団長は、焼け死んだだろうか?
様子を見ていると、やがて広場から火を振り払って人影が飛び出して来た。
見るとそれは、トラの姿をした魔獣スールーガに騎乗した団長風の男と、その側にいた幹部らしき男と女が3人程。
それから無事だったらしい敵兵が10人程と、火だるまが4つ。
ただ人はともかく馬は炎を防げなかったらしく、団長風を除いて騎乗している者は誰もいない。
「大丈夫ですか!?」
「何が!?」
「罠だ!やられたぜクソが!!」
駆け寄る部下達に悪態を吐く団長風。
その横では、のたうち回った末に倒れて動かなくなった火だるまを診ていた敵兵が頭を振っている。
それを見た他の敵兵達から、さらに上がる怒りの声。
雑兵はともかく、頭は仕留められなかったか。
これで団長を倒せるなら、それに越したことはなかったのだけれど。
いいや少なくとも、この仕掛けのメインの狙いだった敵の乗騎は潰した。
本命はここからだ。
僕は隣で固唾を呑んで広場を見ていたサテルさんに合図をし、皆でその場を離れて敵に気取られないように移動を始めた。
ユーナは、先程南門の戦況を確認した運輸ギルドの屋上に戻ってそこで待機。
既に仕掛けの位置に潜んでいるはずのアリサには、敵に落ち着く暇を与えないように伝えてある。
集まって来た敵集団の中の1人、真紅の塗料を肩に塗った革鎧を着て兜を目深に被って顔を伏せていた人物が、突如背中に担いでいた大剣を引き抜き前に飛び出した。
周囲の傭兵達を数人斬り捨て、邪魔な兜を脱ぎ捨てたその下から出てきたのはアリサの顔。
雄叫びと共に彼女が振るうムーン・メタリアルの大剣が、不意を打たれて対応の遅れた敵の幹部2人と、団長風の男が乗っていたスールーガの首を刎ね飛ばした。
続けて追撃をかけようとするアリサから、飛び退って距離を取り武器を抜く団長風と女。
「ギュイ!!グラーブ!!……っんだテメェはァ!?」
団長風は大剣、女は細身の長剣を二刀流で構え、足を止めて剣の血糊を払ったアリサと対峙する。
「コイツ、敵だ!!」
「俺達に紛れ込んでやがった!!」
周囲の敵兵達も一斉にアリサに武器を向ける中、団長風が口を開いた。
「よくもやってくれたなァ……!」
怒り心頭という眼差しを向けてくる団長風に、敵から奪って着込んでいた革鎧を脱ぎ捨てながら、アリサは酷薄な笑いを返す。
「油断禁物ということだ、勉強になって良かったな」
アリサの揶揄を受けて、団長風はさらに怒りをあらわにする。
「たった今の火もテメェの仕業か?やるなと褒めてやりてェところだが、一緒に戦場を走ってきた部下を殺られたんだ。テメェはただじゃおかねェぞ女ァ!!」
敵達の憤怒に煮えたぎる眼差しに、凄みのある笑みを崩さないアリサ。
「ただじゃおかないか、こっちのセリフだ。無辜の町に一方的に攻め込んで、散々好き放題やってくれてるじゃないか。これだけのことをしておいて、五体満足でなど帰れると思うなチンピラ!!」
男とアリサの発する怒気に、気圧された周囲の傭兵達が一斉に距離を取る。
アリサと男を中心に、敵の傭兵達がロープ代わりの即席のリングのような形が出来上がった。
よし今がチャンス!
殺した盗賊の上着を剥いで着込んだ僕達。
今は敵の振りをして、集団の後ろの方に紛れ込んでいる。
そしてこの機を見計らい、示し合わせた皆で大声で叫んだ。
「一騎打ちをやるぞーーっ!!」
すかさず僕と同じように潜入していたサテルさんや衛兵さん達も、呼応して大声を上げる。
「一騎打ちだぁーー!!」
「やっちまえーーっ!!」
僕達の声が呼び水となり、周囲の傭兵達も歓声を上げ始める。
「ブッ殺せーー!!」
「剥いちまえーー!!」
「犯せーー!!」
「くたばれクソ女ーー!!」
取り囲んだ傭兵達からの声援が飛ぶ団長風の男と、アリサに浴びせられる罵声。
正直かなりきつい状態だと思うのだけど、仁王立ちで男と対峙するアリサは涼しい顔。
軍隊時代の経験から罵倒には耐性があるとか、そんな感じだろうか。
アリサと団長風の武器は両方共大剣。
やがて対峙する2人がお互いに腰を落とし、武器を握る手に力がこもる。
気配を察して周囲の傭兵達の声が一瞬止んだその刹那、アリサと団長風は相手に向け、猛烈な勢いで足を踏み出した。
リングの中央付近でぶつかり合う、アリサと団長風の大剣。
その突風とも見紛うかのような衝撃が、周囲で見守っていた傭兵達に襲いかかった。
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