17. たたかい の かいし
よろしくお願いします。
それぞれ港と防壁から、河と平野を挟んでにらみ合いを続けていたクワンナ市の防衛隊と『ブラッドローズ傭兵団』。
状況が大きく動いたのはもう日がかなり傾いて、町を赤く照らし上げていた夕日がほぼ見えなくなろうかという、そんな刻限だった。
実は昼間の会議の際、僕は可能な限りで良いので港にも防壁の状況を知らせてくれと、市の上層部に頼んでいた。
それが聞き届けられたのか、元からそういう態勢だったのかはわからないけど、沖合の船に注意を払いながら町の地図を睨んでいた僕達の所に「門外の敵が攻撃を開始」という防壁からの伝令が駆け込んできたのと、町の向こう側から鬨の声が聞こえてきたのがほぼ同じ頃だった。
報告によれば、敵とにらみ合っている間にクワンナ市の三方を包囲した『ブラッドローズ傭兵団』の陸上部隊には、次々と後続の部隊が合流。
一方で町方は、思った程に戦力がそろっていない。
グランエクスト帝国と周囲の国との小競り合いが頻発し、国境にもわりと近いこの町に軍の大部隊が置かれて、警備隊にも市民にも実戦経験豊富な者がそろっていたのはもう数十年も前のこと。
そうした豪傑達の多くが既に引退し、現在のクワンナ市には、小物のモンスターとやり合ったことはあっても人間相手となると経験が無いという人がほとんど。
しかもどこから漏れたか、敵は2級冒険者パーティを撃ち破った強敵という事実が市民にも知れ渡り、そんなのが相手ということで皆が怯えてしまう。
戦わねばこの町が滅ぶと市の職員が声を枯らして発破をかけても、中々に志願者が集まらなかった。
先程の会議では市民の徴用がどうのなんて話も出ていたけれど、戦えそうな人をかき集めて防壁に送るだけでも人手はいる。
門の外の傭兵団の攻撃がいつ始まってもおかしくない現状、1人でも多くの守備を防壁に置いておかなければならない。
結果、軍や警備隊の人員は前線に回し、市民兵については行政府や各ギルドの職員達から可能な限り防衛への参加を呼びかける。避難する人達にも武器を持たせて、いざという時には自分の身は自分で守らせる、という判断となった。
一か八かで町から逃げ出したり、門の外に布陣している『ブラッドローズ傭兵団』に投降しに行った人達もいた様なのだけど、全員例外無く捕まって殺されたらしい。
殺された人の中には、市長の側近や警備隊の幹部なんかもいたそうな。
守りの兵の士気はだだ下がり、市民にも絶望感が蔓延する。
そしてクワンナ市外に集結した敵の総数が報告通りの2000人程に膨れ上がったところで、『ブラッドローズ傭兵団』は一斉に防壁への突撃を開始した。
防壁の間近まで接近した『ブラッドローズ傭兵団』は、壁上で待ち構えていた防衛部隊と壮絶な矢の撃ち合いを展開。
敵はかなりの数の魔法使いを備えている様子で、防壁に火球魔法が着弾する音や、防衛部隊の悲鳴や怒声や檄が僕達のいる港にまで届いてくる。
逆に町方は、軍や冒険者の魔法使いはほとんどが先日の討伐に参加して戦死か未帰還。今町にいるのは冒険者の低ランクパーティにいる初心者魔法使いぐらいしかいないとのこと。
ただサテルさんに聞いた話によれば『大地の黄玉』の魔法使いであるベルは爆裂魔法を得意としているのだそうで、それであれば今回の防衛戦の大きな力になるものと思われる。
そして開戦の気配を察知したのか、港の沖合に展開していた船が港に向けて移動を始めた。
もう既に夜闇が空を覆ってきているけど、もうかまわずに町の制圧にかかるつもりだな。
さてそれでは、僕達も作戦開始だ。
◇
「矢ばかり撃ってきて、敵はなぜ防壁に乗り込んで来ない?梯子も何も用意していないのか……?」
「っ!隊長、あの敵の部隊を!!」
「あれは、板に女を縛り付けて軍勢の前面に?先日の戦いで捕らえた冒険者……いやあれは、マエッカの村人を盾にしているのか!?おのれ奴らに人の心は無いのか!!」
「市民兵や、冒険者に動揺が広がっています!」
「2級パーティの『大地の黄玉』はどうした!?」
「どこにも見当たりません!」
「くっ……なら、『爆影虎』とやらは!?」
「港からは何も報告がありません!」
「冒険者め、そろいもそろって……!」
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