15. ぜつぼう の しらせ
よろしくお願いします。
「武装した船!?」
「領主様からの援軍じゃないのか!?」
室内からの声に、警備隊員は首を横に振る。
「軍旗は揚がっていません。船の数は4隻。港の沖合に展開して、航路を塞ぐ動きを見せています。敵です!」
一瞬静まり返る会議室。
「一体なんだ……なんだそれはァ!!」
次の瞬間室内から上がる警備隊長の絶叫。
他は軍の隊長代理も市長もギルドマスター達もアリサもユーナも、ついでに言えば僕も、唖然と言葉を失っていた。
港が塞がれた。
陸も河も完全包囲だ。
住民を船に乗せて水上に逃がすという手もこれで使えなくなった。
敵はどうやら1人も、こちらを生かすつもりは無いらしい。
これも全部作戦の内なのか。
一体どれだけ用意周到に襲撃計画を立てていたのか。
この入念に組まれた作戦、僕の小細工でどうにかなるようなものじゃ……
そこまで考えて、僕はぶんぶんと勢いよく頭を振る。
悲観も絶望も後回しだ。
何度も言っている。僕は絶対に、生きることを諦めない!
考えろ。
僕達が生き延びるためには、なんとかしてこの包囲に穴を開けなければならない。
包囲……
敵を包囲殲滅する戦い方……この世界にも普通にある戦術だけど、前世のテレビで見た戦国時代の番組に名前が付いているものがあったな。
確か……かっこよくの陣?
陣形を鳥が翼を広げた形に例えているとかいう話だったけど、何か格好良いんだろうか。
鳥……
狩りで鳥を仕留める時は……まあ頭か、翼狙いが基本だよな。
以前ワイバーンと戦った際もやったことだけど、片翼だけでも潰して飛行能力を奪ってしまえば、鳥は一気に弱体化する。
……片翼か。
敵は陸と水上とに分かれている。
陸上部隊も水上部隊も、どちらも『ブラッドローズ傭兵団』の団員なのだろうか。
船も持ってる傭兵団だったのか。
せめてそのどっちかだけでも叩くことが出来れば……
片翼を潰せれば、もう片翼の方が動揺するというのも期待出来る。
可能性があるのは……やっぱり船の方だな。
船なら……よし。
僕はアリサとユーナに視線を向けて「思い付いた」と合図。
2人が頷くのを確認すると僕は席から立ち上がり、こちらを見るトーニーギルドマスターに告げた。
「ギルドマスター、僕達は港の方に行こうと思います」
「み、港……ですか?」
戸惑うギルドマスターに、僕は言葉を続ける。
「『大地の黄玉』と僕達、2つの頭があると現場が混乱します。ましてや僕達は新顔なので。であれば主力の防壁を守る冒険者の指揮は『大地の黄玉』1本に絞った方が良い。僕達は港で船の方を対応しますので、防壁の守りをよろしくお願いします」
「そ、そうですか……わかりました。では港の方は、お願いします」
「……」
頭を下げる僕に、汗を拭きながら了承するギルドマスター。
そんな僕達やギルドマスターをタサワスは虚ろな表情で一瞥し、そのまま足早に会議室を出て行ってしまった。
彼が何を考えているのか不安なものはあったのだけれど、今は戦ってくれるものと信用して当てにするしかない。
会議室から出た僕達を見つけて、ギルドホールにいたサテルさんが駆け寄ってきた。
「聞いたよ。盗賊の大軍がこの町に迫ってるんだって?」
「盗賊っていうか……傭兵団ですね。本職の戦争屋です。ただの盗賊とは、兵の能力も用兵も段違いでしょう」
僕の返答にサテルさんは「……ヤバいね」と引きつった笑みを浮かべる。
「ちなみにサテルさん、『ブラッドローズ傭兵団』って知ってます?」
「『ブラッドローズ傭兵団』?あの国崩しの?40年くらい前に西にあったティアーンズ王国っていう小さい国の防衛軍を、一手で潰したって言われてる人達だよ。一般市民を積極的に巻き込む相当残虐な戦い方をしたらしいけど……ってまさか、そいつらが、ここに?」
その敗戦で軍の主力を失ったことによりティアーンズ王国は滅亡、現在は帝国に組み込まれているのだそうな。
僕達3人が頷くのを見て、さらに青ざめるサテルさん。
「……嘘だろ?」
「40年前なら代替わりはしているだろうが……それでも、先代から戦い方を受け継いでいる可能性が大か」
茫然自失としているサテルさんをよそに、アリサが苦い顔で呟いている。
傭兵団としてそれだけの実績があるのなら、何もわざわざ手間暇かけてこの町を落とさなくてもという気もするのだけど、国崩しが先代の功績であるのなら今は当代の団としての成果を欲しがっているとか、そういう理由だろうか。
サテルさんの後ろでは敵襲来の事態を知らされて、この町に残っていた冒険者達が大騒ぎ。
そんな彼らにギルド職員達が、急ぎ防壁に向かうようにと必死に呼びかけている。
ゼッタさんは真っ先に防衛への参加に志願して、一足先に南門へと向かったらしい。
僕達はサテルさんに、港にも敵の船が迫っていることと合わせて、防壁の守りは『大地の黄玉』が冒険者を指揮するようにギルドから指示されたことを伝える。
「防壁の守りは『大地の黄玉』に任せて、僕達は港に行って船の方を対応します。そこでなんですけど、サテルさんも僕達と一緒に来てもらっても良いですか?」
「お、俺が?でも、俺が港に行っても出来ることなんて……」
戸惑う様子のサテルさん。
そんな彼に、僕は若干上目遣い気味に確認をした。
「サテルさん、確か……船を動かせるって言ってましたよね?」
◇
「サテルさん、ちょっと訊いていい?」
「何だい?ユーナさん」
「ふと思ったんだけど、サテルさんが元いた『大地の黄玉』ってさ、魔物の群れの討伐が認められてランクが上がったんだよね?」
「ああ、そうだけど……」
「じゃあさ、盗賊……っていうか、人間とやり合った経験ってどれぐらいある?」
「そ、それは……」
「……」
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✕ かっこよくの陣
◯ 鶴翼の陣




