12. てき の ねらい
よろしくお願いします。
ということは……
いやまさか……
でも、理屈としては通る気がする。
「あ……あ〜あ〜あ〜」
思わず声が出た僕を、隣からユーナが見た。
「?何か思い付いた?」
「うん。まあ、本当に想像でしかないんだけどね。箔を……付けようとしてるんじゃないかなって」
「箔?」
「うん」
僕は、声に気付いてこちらを見てくる市長さん達に向き直る。
敵が狙っているのは要するに『軍事大国であるグランエクスト帝国の城塞都市を1つ陥落させたことがある』という、箔付けというか実績なのではないか。
「『ブラッドローズ』は元々帝国西部にいた傭兵団なんですよね?で今は帝国東部のこの町に来ている。西から東に来て、じゃあこの後どこへ行くのかって考えたら……」
そもそも傭兵団がなんでわざわざ移動なんかしてるのかというと、普通に考えれば仕事を求めてだろう。
傭兵団の仕事先というと、この町から北へ、山と小国2つを越えて行った先に、それがありそうな場所が1つある。
それはドルフ王国。
現在、ドルフ王国は先日の王様崩御に伴う急激な政権交代で、かなり国内が混乱しているという。
風の噂では先日、文治派貴族を中心とした第1王子のシエード殿下の陣営と、軍部及び武断派貴族の集結した第2王子のベルマ殿下の陣営が、とうとうお互いに軍を出動させての睨み合いに発展。
ドルフ王国内は、次第に内乱の様相を呈してきているとのことだ。
国が乱れているということは、つまりそこには傭兵団としての仕事があるということ。
戦のための戦力として、また町や村の防衛として、色んな人達が武力を求める。
荒れていて皆が武力を必要としているところに、「軍事大国グランエクストの都市を陥落させた」という功績を引っさげた傭兵団が乗り込めばどうなるか。
もうあちらこちらから引く手数多になるのは間違い無い。
割の良い仕事が選び放題だ。
そんな実績作りのために狙うのであれば、隣国との国境に程近く、大きくて強固な防壁を備えていて、それでいて昔はともかく現在は少ない防衛戦力しか置いていないここクワンナは、獲物として最適の町と言えるのかもしれない。
僕の仮説を聞いて、会議室内の皆が色めき立った。
「じゃあ奴らは、そんなことのためにこの町を襲うというのか!?」
「想像ですよ?ただ、もしこれが当たってるとすると……結構やばいかも」
「やばいって、何が……?」
これ以上まだ何かあるのかと、半ばうんざりした顔で僕を見てくる一同。
僕はあくまでも最悪の想像でしかないことを再度念押しした上で、皆に考えを伝える。
連中にしてみれば、この町を落としたっていう実績が出来ればそれで良いわけで、後は町や住民がどうなろうと知ったことではない。
というよりも後々のことを考えれば、ここの住民には皆死んでもらった方が都合が良いのではないか。
となると……
「僕の想像が正しければなんですが……仮に降伏して、お金やら食料やら渡したとしても、許してはもらえない可能性もあるんじゃないかなと」
そういう場合は、取る物全部奪った上で人は皆殺しというのは簡単に想像がつく。
でもって、戦いが終わったらさっさとこの国を出てしまえば、国境を越えて追手がかかることも無い。
現在混乱中のドルフ王国なら、帝国からの要請に応じて連中を指名手配するような余裕も今は無いのではないか。
顧客相手には死人に口無しで「食料の買い入れを断られた。抗議したら問答無用で攻撃されたので、やむなく応戦して打ち破った」とか、何とでも言える。
結果、最終的にはうやむやになるという寸法だ。
僕の仮説を聞いて、
「そういうことならもしかして、本格的な仕事の前の実戦訓練を兼ねている可能性もあるか……?」
とアリサが呟く。
言葉を失くす一同。
絶望感に包まれる皆に、警備隊長が音を立てて立ち上がった。
「皆落ち着け!呆けていたところで状況は変わらんのだ!なんとかして敵を防がねば、この町が滅ぶのだぞ!」
「しかし相手は百戦錬磨の傭兵団だ!この町に残る戦力では、到底勝ち目など無い!」
怒鳴り返すどこかの偉い人。
「いやわかりません。敵も本命の仕事場に行く途中で大怪我なんてのは嫌だろうし、防壁を盾に頑強な抵抗をして見せれば、諦める可能性も無くはないけど……」
僕はそう言ってみたけれど、あくまでも希望的観測だ。それもかなり現実逃避気味な。
「抵抗と言っても、今ある戦力では……」
「とにかく急ぎ、可能な限りの人数を集めて防壁を守るんだ!」
「そ、そうだ!それよりも、敵が攻めてこない内に女子供だけでも逃さねば!」
「ありったけの船を集めて住民を乗せれば、かなりの数を避難させられる!」
「しかし河にも不審な船の目撃情報が寄せられていますぞ!」
「陸路で逃げれば傭兵団に捕捉される!多少の危険はやむを得まい!」
ケンカとも見紛う形相で今後の対応を議論する一同。
でもまあ確かに、これはかなりの危機的状況だ。
口を出す暇も、言える言葉も見つからないまま皆を見渡していると、横から脇腹をつつかれた。
「ちなみになんだけどコタ」
「何?ユーナ」
「『ブラッドローズ傭兵団』を撃退する、何か良い考えがあったりしない?」
「いや〜ちょっと考えてみたんだけどね」
僕はニヤラとユーナに不敵な笑みを見せると、続いて真剣な表情に戻して言った。
「さっぱりわかんない」
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